第5話


カイは困惑していた。


(この子なんで俺の名前を知ってるの…?会ったことがある…?いや、会ったこと無い。それにこんな森の奥になんで一人でいるの…?)


 頭の中でいろいろ考えたが考えは纏まらず、考えている間に少女に話しかけられた。


「カイから来るとは思わなかった。晩御飯の回収もできた。良いこと尽くめ」

「え、晩御飯… ?」

「後ろの熊。私の晩御飯」


 そう言うと少女は3m以上あるウォーターベアーの胴体を軽々と持ち上げた。

 右手だけで胴体を持ち上げた光景にカイは呆然とするしかなかった。


「…って!?誰!?」

「ここで話すと魔物来る。ついて来て」


 そう言うと少女は振り返り歩き始めてしまった。

 カイは遅れないように小走りで少女の後ろについて行った。

 



 森を進んでから少し経った頃、急に少女が歩くのをやめて振り向いた。


「手出して」


 言われた通りに手を出すと、少女は手をつかみ引っ張った。

 カイは驚きながらもそのまま引っ張られると、何かを通り過ぎるような感覚がして目を閉じた。そして目を開けた瞬間、前にあったはずの木々は無くなり、あるのは草原と木でできた一軒家だけだった。


「…え?なにここ….?目の前に家…?あれ?さっきまであった木は…」

「そんなに質問しないで。家で聞く」


 そう言い少女はカイを引っ張ったまま家に向かった。




 家に入る前、少女は持っているウォーターベアーを箱の中に入れた。その箱は何の変哲も無い、高さ1mくらいの正方形の木箱だった。その箱に熊を入れたとたん熊が無くなってしまった。

 その光景に驚いているカイを置いて少女は家に入ってしまったので、カイも続いて家に入る。


「そこに座って」


 それだけ言うと少女は違う部屋に行ってしまった。カイが座り困った顔をしていると、少女が戻ってきてカイの前にお茶が入ったコップを置いた。


「飲んで」

「ありがとう」

「おいしい…」

「そっか、よかった」

「…なんで俺のことを知ってるの?」


 他にもたくさん聞きたいことがあったが、カイはまず一番気になることを聞いた。


「それ話す前にカイのこと教えて」

「何でよ…。こっちが聞いてるのに」


 それ以上は話しそうになかったので、少しだけ話そうとしたが、不思議なことに話しているとどんどん話してしまっていた。家族のこと。兄弟がいるが戦闘で自分が劣っていること。そのため家族からの扱いが酷いこと。気づけば自分のことをほとんど話していた。すべて聞いた少女は


「そっか…。これまでよく頑張った」


と言いカイの頭を撫でた。カイは困惑しながらも今まで気にしていなかったつもりだったが、無意識化で我慢していたのか声を出して泣きだした。カイが泣き始めてから少女は優しくカイを抱きしめた。そのとき森で感じた不思議な感覚を少女から感じたが、それ以上に少女に抱きしめられていることに安心してより泣いてしまった。




 カイは落ち着いてから、恥ずかしく感じながらも抱きしめられている時に感じた感覚のことを聞いた。


「森の入り口にいるときに不思議な感覚がしたんだけどその感覚がなんで君から感じるの?」

「ん?カイ適性検査受けた?」

「昨日受けたよ。関係あるの?」

「大あり。適性検査受けたことでしっかり魔力感じれるようになった」

「待って!?適性魔法無いって言われたんだけど?そもそも人の魔力って感じ取れるものなの?」

「できる人はできる。私もできる。たぶん昔に私が持ってた魔力を体の中に入れたから、カイは自分の魔力より私の魔力のほうが今は感じ取りやすい」



「ん?どーゆーこと…!?」

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