第82話


 学内対抗戦が終わってから2日経ち、今カイはミカと一緒にダンジョンの前にいた。このダンジョンは5階層がオークファイターのいつものダンジョンで、今はたくさんの冒険者たちが来ていた。

 この2日間カイは1つだけ大変ことがあった。学内対抗戦の最終日、カイが寮に戻ろうとすると、自室の前でヒースとビューンそれからドッペルトが取り巻きをつれて待機していたのだ。そのためカイはアルドレッド達がいる宿に行き、事情を話したところアルドレッド達の隣の部屋を借りてもらったのだ。

 そんなことを思い出してると、後ろからカイ達に話しかける冒険者がいた。


「おー若いのがいんなぁ。お前達も調査か?」

「調査ですか?」

「違うのか?今このダンジョンの調査がギルドから出てんだよ。なんでもボスモンスターが普通の階層にいるだとかなんとか。ここは初心者用のダンジョンでもあるからな、問題があって新人がいなくなるのが嫌なんだろうな。そのおかげか報酬が上手くてな。俺も仲間と一緒に来てんだわ」

「そうなんですね。異常がないかしっかり調べないとですね」

「あぁ。でも、珍しいんだよなぁ。ダンジョンのことなら国が出すのに、今回のはギルドが依頼を出してんだよ」


 男が豪快に笑いながらたくさん冒険者がいる理由を話していると、後ろの方から数人の男達が来て、先程までの男はその人達と話し始めた。


「オークファイターのことだよね?でも、国が依頼を出さなかったって…」

「国は調査が終わったとか?…とりあえず、俺たちも出てくるモンスターに気をつけながら進もう」


 他の冒険者から聞いたことを気にしながらカイ達はダンジョンに入って行った。




 カイとミカは5階層のボス部屋前まで来ていた。

 ダンジョンに入ってから早く潜るためにカイは仮面で顔を隠して魔法を使ってモンスターを倒した。1、2階層にいるスライムとゴブリンは2人で瞬殺し、3、4階層にいるオークはカイが、ジャイアントバットはミカが担当した。

 そして、今は誰もいないのかすぐにボス部屋に入ることが出来る状態だった。


「ねぇミカ?今回は俺がやっていい?」

「えぇー、じゃあ6階層からは私が前衛していい?」

「分かった。よし、入ろ」


 カイがボス部屋の扉を開けた。



「プギィィィィイイイイ!!」


 カイ達が入った瞬間にオークファイターが雄叫びを上げる。

 カイは手に氷を纏わせてから手を前に出す。そしてそのまま真っすぐ手を伸ばしていく。伸ばしていく中で手はどんどん大きくなっていく。手が届くころにはオークファイターよりも大きくなり、カイはその手でオークファイターを捕まえた。カイはオークファイターを握りつぶさずに氷漬けにし、閉じ切っていなかったボス部屋の扉が再度開いた。


「早いよ!!でも、なんで氷漬けにしたの?」

「お金が無くなったときにモンスターを売ればいいと思って。袋の中だったらかさばらないし良いと思って」


 カイはそう言いながら邪魔な氷を削ぎ、氷漬けになったオークファイターを袋の中にいれた。


「ホントその袋いいよね~。持ち物かさばらないのは羨ましいよ」


 カイとミカは休憩することなく、そのまま6階層に向かった。




 6階層に下りて、隣の部屋に行くとさっそくモンスターがいた。

 身長は人の腰ほどの高さで低く、顔は犬の見た目のコボルトだった。

 コボルトは既にこっちを向いていたが、ミカはすぐさま雷を纏わせ接近し、持っていた槍でコボルトの頸を斬った。


「念のために雷纏わせたけど、要らなかったかな?」

「そうかも。こっちを見てたけど反応出来て無かった」

「うーん、次は魔力だけでやってみる」


 コボルトは鼻が良く奇襲が出来ない上に、すばしっこいのだ。そのためミカは速攻したが、今のミカの実力だったら要らなかった。


 その後何度かコボルトに遭遇したが、ミカは魔力を纏わせるだけでも簡単に倒せていた。

 そのまま7階層に下りて探索をしていると、前方に赤い毛並みの狼が2体いた。


「炎は俺が止めるからミカはそのまま突っ込んで」

「分かった」


 目の前の狼の名前は『レッドウルフ』

 ここ7階層ではめったに会うことが無いモンスターで、素早い動きと『フレイムボール』を撃つのが特徴だった。

 2体の狼はさっそくフレイムボールをミカに向かって撃つが、カイが氷の壁を作りそれを防ぐ。ミカはそのまま突っ込み、1体のレッドウルフの腹を斬る。もう一体はそれを見た瞬間に後ろに大きく跳ぶが、着地した時にはミカが目の前にいて、先程のレッドウルフと同じ様に倒された。


「フゥー、6階層で会わなかったから会わないかと思ってたー」

「本にも合うのが珍しいって書いてあったけど、実際に来ないと分からない物だね」

「でも、8階層になったら普通にいるんだよね?フレイムボールもあのくらいの速度だったら魔力を纏うだけで避けられそうだよ」


 カイはミカの話しを聞きながらレッドウルフの死体を氷漬けにしてから袋に仕舞った。


「ねぇ?死体だったらそのまま入れればいいんじゃないの?」

「袋の中が血で汚れることは無いけど、気分的に汚れそうで嫌なんだよね…。それに出すときに血がかかるかもじゃん?」


 ダンジョンの中では血抜きをしようとすると吸収されて出来ない。そして、ラウラから貰ったこの袋を汚したくない。なら、氷漬けにして入れればいい!!と言うような結論に至ったため、カイはモンスターを回収する時は氷漬けにする癖が出来ていた。前回のパラリシスバタフライも、今回のオークファイターもその発想から氷漬けで倒したのだ。

 その後に出て来たのはコボルトの集団だった。最初は2人で倒していたが、瞬殺になってしまうため交互に倒すなどしていたら、8階層への階段を見つけたため下りて行った。


 8階層には『レッドウルフ』と『ブラックキャット』と言う2種類のモンスターがいる。この『ブラックキャット』はレッドウルフに似ており、ダークボールを作り出し撃つのだが、どちらかと言うと爪でひっかくのがメインの攻撃だ。


 8階層に下りるとさっそくブラックキャットがいて、ミカは小さな雷の塊を飛ばす。それはブラックキャットを倒すことは出来なかったが、痺れて動けなくなっていた。そのブラックキャットはミカが倒した。

 その後はなかなか階段を見つけることが出来ず、8階層をたくさん探索したため、それなりの数のレッドウルフとブラックキャットを倒し、数人の冒険者とも会ったが、カイ達は自分達で下への階段を見つけたかったため場所を聞かなかった。その後ようやく階段を見つけた2人はそのまま下りて行った。

 9階層はレッドウルフとブラックキャットそれぞれのが集団で現れたが、1人でも十分に戦えるところを2人で戦ったため簡単に対処できた。そして、8階層とは違い、9階層は簡単に10階層への階段を見つけることが出来たため、カイとミカは喜びながら下りて行った。


 10階層ボス部屋の前でカイとミカは一度休憩し、ボスがどのような姿になるか気になっていた。

 10階層のボスは『キメラ』でこのダンジョンで出て来た全てのモンスターが合体して出てくることになっている。その姿はボスを倒すごとに変わり、頭がレッドウルフであることがあれば、ブラックキャットであることがあるのだ。


「カイは顔は何だと思う?」

「うーん、コボルトとか良いと思うけど、案外ゴブリンとか?」

「私は足はレッドウルフとブラックキャットで四足歩行だと思うよ」

「なら胴体はオークとか?かっこ悪いな…」


 2人で楽しく話していたが、十分に休憩出来たため2人で扉に手をかけた。




「え?」


 カイ達がボス部屋に入った時の第一声だった。

 目の前にいるキメラは、頭がゴブリン、胴体はオーク。ここまでは合っていたが、足と腕が違った。腕はコボルトの者になっていて、足は何とスライムだった。

 それを見たカイとセレスはすぐに接近し、カイは氷を纏い、ミカは槍で首を斬り落とした。キメラはコボルト特有の鳴き声を上げることなく倒れた。

 カイとミカはこの奥にも進みたかったが、これ以上潜ると帰るのが遅くなりすぎるため、8階層から9階層への階段を早く見つけられなかったことを悔やみながら、最後のキメラが弱いキメラで残念に思いながら帰って行った。

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