第200話


 眼鏡をかけた生徒に肩を貸して端に座らせてから、カイは考えをまとめるために近くの壁に寄りかかってここ数日様子見をしていた3人のことを考え出す。


(赤髪の彼は俺達の話題が出たら不機嫌になるけど、こっちに敵意を向けてくることは無かった。人があんまりいない時に近づいたりしたけど、早歩きで離れて行くだけだったしね。本格的に嫌われてるなぁ…。でも敵意を向けてくることは一回もなかった)


 嫌われることをしたつもりが無いと言うのに嫌われているということに内心傷つきながら、今度は白髪の女子生徒のことを思い出す。


(チラッと見たときにたまぁ~に目が合ったけど、俺のことは睨んでなかった。でもミカのことを睨んでることが多いんだよね…。でも最近は少し減ったかも?あの時感じた敵意は俺達2人に向けられた物だったから違うで良いのかなぁ)


 ミカのことを睨む回数が減ったことにカイは嬉しく思いながら、視線をバレないよぅに近くにいる眼鏡の生徒の方に向ける。


(彼は物静かで誰とも話さないけど、挨拶したら会釈はするし、聞いたらしっかり返してくれたし、そんなに悪い人じゃない。敵意を向けて来た候補からは外して良いかな)


 3人それぞれあの時敵意を向けて来た人ではないとなったが、それでは誰が向けて来たのか分からなくなり、振り出しだと思っているカイに隣に座っている眼鏡の生徒が話しかけてくる。


「カイ君は強いですね」

「え?」

「あ、突然すみません。実は君とは前から話したいと思ってたんです。…単刀直入に効きます。カイ君の魔力は混ざっているのではないですか?」


 この言葉を聞きカイの心臓が跳ねる。背中から冷や汗がドバッと出る。顔にも驚きを出しそうだったが、何とかこらえる。


「やっぱりそんなこと無いですよね!ごめんなさい突然」


 眼鏡の生徒はとても辛そうにアハハと言いながら笑う。何とか辛いの隠そうと必死に笑っているが全く隠せていなかった。


「あ!まだ自己紹介をしてなかったですね!僕はトランって言います。夢は学者になることなんです」

「知られてるけど、俺はカイ。冒険者になっていろんな所を見るのが夢なんだ」

「いい夢ですね!」


 話しかけられたためカイは隣に座り込む。その反応にトランは驚くが、とても嬉しそうに笑顔になる。


「学者になりたいから授業をあんなに積極的に受けてるんだね」

「知られてましたか。そうなんです。もっともっと勉強しないとなれないですから、これからもっと頑張ります」

「…僕も前から気になってることがあってさ。トラン君が手を上げてるときに見えちゃったんだけど、腕の包帯って…。こ、答えづらかったら答えなくて大丈夫だから!」


 それを聞きトランは驚きまた自傷気味に笑う。今の彼は上下長袖を着ており、肌を見せないようにしている。彼は隠そうと服の袖を伸ばし隠そうとする。


「見苦しい物を見せてすみません。…これは昔父につけられた物なんです。僕が学者になりたいって言ったから」


 彼はこれ以上袖が伸びないと分かると膝を抱えだす。そして視線は未だに模擬戦をしている生徒に向ける。カイもつられてその方向を見る。


「さっきカイ君に魔力が混ざっているか聞いたじゃないですか。僕の大叔父は2つの魔力を混ぜる研究をしてたんです」


 トランがそう言うと、カイはシャリアに言われたことを思い出す。学者の中に自分の魔力を混ぜようとして失敗した話を。


「亡くなった祖父の日記には、大叔父が2属性持ちだったことが書かれてました。研究が上手く行かなくなり自分で試したとも。結果は失敗。大叔父の遺体は残らなかったそうです。僕はそれを読んで、初めて僕が学者になりたいと言った時に父が辛そうな顔をした理由が分かりました」


 隣から聞こえてくる悲しそうな声に、カイも悲しくなり聞きたくないと思ってしまうが、聞きたいと思う自分もいたため聞き続ける。


「僕が学者になりたいと言ってから父は変わりました。僕を忌まわしい物を見るような目で見るようになって、暴力を振るうようになりました。腕の包帯はそれの跡を消すためです。今は父と暮らしてないんですが、跡は消えなかったので…」


 腕を摩る彼にカイは何も言えなくなる。


「…何でですかね。今まで誰にも話してなかったのにカイ君は話しやすくて話してしまいました」

「…シャリアさんには話した?」


 今まで黙って聞いてくれていたカイが突然喋ったことにトランは少しだけ驚いた。


「いえ、学園長には話してないです。話す機会が無いですから」

「昼休みは暇?学園長室に行こう」

「えぇ!?」


 彼が驚いた瞬間に終了の予鈴が鳴ったためカイは立ち上がる。


「シャリアさんは博識だからさ。何か知ってるかもよ?聞いてみる価値はあるって」

「と、突然言われても!?」


 驚いてるトランの手を無理やり掴み立たせると、一緒に話しながら教室に戻った。




 昼休みになりカイはミカとルナとアディに一言言ってから、トランの腕を引いて学園長室に向かう。その手には自分の分の昼食が握られており、もちろんトランも持っていた。

 扉を叩くと、来たのがカイだと分かりサリーが扉を開ける。


「どうしたんじゃ、カイ。ん?後ろにいるのは…」

「カイ君と同じクラスのトラン君ですね。お2人ともこちらへどうぞ」


 サリーに案内される形でソファーに座る。カイは隣で緊張して固まっているトランを見て笑いそうになる。


「それでどうしたんじゃ。何かあったかの?」

「シャリアさんは前に2つの魔力を混ぜる研究のことを俺に話したのを覚えてますか?」


 シャリアとトランの顔が驚愕に染まり、サリーの眉が一瞬だけピクリと動く。


「忘れるわけが無かろう」

「その研究をしてたのがトラン君の大叔父だそうです」


 シャリアは先程よりも驚き、トランのことを見開いた目で見る。その瞬間、トランがビクッと肩が動く。


「…そうじゃったのか。トラン、お主はその研究を知っておるの?」

「は、はい。亡くなった祖父の日記に書いてありました」

「他に知っとる者はおるかの?」

「父がもしかしたら…。他には…いないと思います」

「そうか。サリー今すぐトランの父の元に行くのじゃ。知らないようだったら連れて来なくていい。知ってるようだったら連れてくるのじゃ」


 サリーは一礼すると急いで学園長室から出て行った。何が起きているか分かっていないトランを横目にシャリアは向かいのソファーの音を立てて座る。


「トラン、お主の大叔父がやっていた研究はとても危険な事じゃ。他の者に言ってはいかんぞ」

「わ、わかりました!」

「にしても話したのがカイでよかったのぉ…」

「そうですね」

「えーと、失敗した研究ですよね?もう研究されてないと書いてあったんですが…」


 シャリアは少し考えてから、話すと決めたのかトランのことを真っすぐ見る。


「その研究は私がすることを禁止したのじゃ。他の学者も失敗する物だと決めつけ研究することを止めたのじゃ。だがの、その研究は合ってたんじゃよ。2つの魔力は魔力操作の技術がものすごく高ければ混ぜることが出来るのじゃ」


 トランはシャリアの言葉に驚きながら固まる。そして隣にいるカイのことを見る。


「カイはその成功例じゃ。反発する魔力の持ち主だったからの。混ぜる以外に助かる道が無かったのじゃ」

「…そう、だったんですね。…学園長、教えてくれてありがとうございます」


 トランが礼を言ってから、3人ともまだ昼食をべ手いなかったため、昼食を取り始めた。

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