第262話
「……死んだね。精神だけをこっちに送ったのか」
頭から血を流しながら言い放ったオムニは仰向けになり、目を閉じたまま大の字で寝始める。カイ達は急いでオムニに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。頑丈だからねー。にしてもあの杖が残ってくれたのは嬉しいな。誰か取ってこれる?」
皆が黄金に輝く杖を見る。そして全員が驚く。杖の先についていた水晶が取れ、少し離れた場所まで転がっていたからだ。素早さに自信があるミカが杖と水晶を急いで取りに行く。杖と先に拾い、水晶も取ろうとした所で立ち止まる。全員がどうして立ち止まったのか不思議に思ったが、ミカには見えていた。水晶にヒビが入っていることに。
恐る恐る、これ以上ヒビを広げないために慎重に手を伸ばすが、その努力はむなしく一気にヒビが広がる。赤黒い水が水晶から出ていたのは嫌でも見ていたためミカは急いで後退する。
間一髪だったのか、ミカが跳んだ衝撃なのか分からないが水晶は割れ、水が出始める。その水は少しずつだが、止まることを知らないかの様に無尽蔵に出てくる。
「水が!?」
「大丈夫!?」
「触ってないから大丈夫!急いで戻ろ!」
フラージュはミカに安否を聞くと、すぐにオムニを担ぎ、部屋から出て行く。
オムニも騒ぎを聞き、担がれる前に起きた。その時にあることに気づく。天井に穴が開いていた。軽く思い出してみれば、ついさっき男が開けたのだと分かる。だが、オムニが驚いたのは天井に穴が開いていることでは無かった。空気だ。先程少しだけ見えた外から黒い空気が流れて来ていた。その空気は先程の剣、
「あー。担いでもらっといてこういうのも悪いんだけど、ちょっとまずいかも。急いで!」
「分かってるよ!貴方の方がよく見えるでしょ」
「水もやばいねー。ラウラー、後ろに風撃ってー」
皆が急いでいる中で気の抜けた声で言われたため、珍しくラウラが驚いたが、走るのに邪魔にならない程度の威力で後ろに向かって風を送る。
「落ち着いてほしいんだけど、ここ魔国だよ」
「えっ!?」
驚きながらも、水に飲まれたくは無いため走る足は止めなかった。
戻ってみると、兵士達が敵を鎮圧していたため、すぐに地属性の者を集め、道を防がせる。
ひとまず敵の鎮圧、安全確認ができたため兵士達は調査を開始し始め、カイ達は邪魔にならないように休憩し始める。
オムニは地面に座る形で中々締まらないが、兵士や騎士達に指示を出していく。
休憩しているとオムニに呼ばれたため、オムニの所に集まる。すると兵士達は全員部屋から出て行く。
「兵士の皆さんは良いんですか?」
「ここの調査はもう終わってるからね。それより、さっきの言葉覚えてる?」
「ここが魔国の中だって……」
「そう、魔国の中!さっきラウラに風を送って貰ったのは、魔国特有の人体には毒になる空気を吸わないためだったんだ」
オムニの毒になる空気と言うのに、全員がいまいちわからないという顔をする。
「まぁそれは帰ってから説明するとして、問題なのはあの男に憑依した奴」
それについては全員が気になっていたため、空気のことは一度置いておくことにする。
「乗り移った奴の正体は……十中八九ラスターだよ」
知られてはいけないと言われた相手に知られたことに全員が顔が暗くなる。
「……なんでわかるんですか?」
「まずは魔力を欲しがってたから。普通は魔人でも魔力を欲しがる奴なんていないからね。次に僕のことを『始まりの王』って言ったから。当時の文献なんかは全部消したはずだから、人間は知ってるはずが無いんだよ。ただ一番の理由はここが魔国だからかな?」
「人の精神を乗っ取るなんて簡単には出来ないんだよ。まぁさっきのは力を使った拍子に乗っ取られたって感じだと思うけど。それは置いといて、さっき男の体は灰になったでしょ?あれは力を無理やり使い続けたから。同じ人間だったらあそこまで無理することは無いよ。魔人が乗っ取ったからああなったんだよ」
全員がこわばった顔になる中、オムニはいつものように笑顔で話し続ける。
「もしもカイが魔国に行かないって言っても僕とリオでどうにかする。知られたのは僕を助けたせいでもあるからね。色々誤算が起きたけど安心してよ」
軽く言われた言葉だったが、いつもの調子だったからこそ、カイが危険な状況にならないのではないのかと安心してミカ達の顔がほんの少しだけ綻ぶ。だが、カイだけはこわばったままで、それをオムニは静かに見続けた。
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