第330話
3つの監視塔が制圧されている頃、残りの1つの担当になっていたカイ達も他の3ヵ所と同じ様に監視部屋の前に問題無く到着していた。
カイとアルマは油断すること無く確実な方法で倒す事にする。
まず初めにカイが氷で部屋前の監視2人を足を氷つかせ動けない様にする。それと同時にアルマの黒い羽を刺せば相手が騒ぐ前に鎮圧することが出来る。しかも、アルマの羽はある程度ならば操作することが出来るため物陰に隠れた状態から撃ち事も出来るとのこと。
もしも黒い羽を当てることが出来なかったときは2人で一斉に飛びだして接近戦で殲滅することも考えていたが、2人の思惑通り監視役を瞬時に倒す事が出来た。
部屋にいる者達は騒動に気づいている様子では無いため、カイ達は慎重に音を立てずに扉をゆっくりと開ける。
4分の1程開けても中の者は気づかなかったため、ここまで来たら勢いよく開けても問題ないと判断したカイが勢いよく開け中に突撃しようとしたが、開けた瞬間に足を止めた。
カイが全開まで扉を開けた瞬間、中の者達の頭が爆散し辺り一面が血の海と化した。
咄嗟の判断でカイが目の前に氷を張ったため、その血がカイ達のかかることは無かったが、どうしてこうなったかは分からない。
氷を解除して部屋に入った2人は濡れている床の上を身長に歩いて行く。
当たり一面に散乱したため張ってあった紙などは酷く見辛くなっていたが、鎮圧は出来たため
「急にこんなことが起こるなんて、不可解でしかない……」
「……まさか、だがこんなこと出来るの」
後ろにいたアルマの小さな呟きが聞こえたと同時にカイは炎を纏わせ腕を振る。その先にはアルマの顔があったが、アルマはその攻撃をしゃがんで避ける。
カイがその様な行動に出たのはアルマに攻撃するためでは無かった。アルマの真上に現れた存在に攻撃するためだった。
突然現れたのは部屋の前で監視役をしていた者達と同じ服装をした魔人で、それはカイの拳を受けると壁まで真っすぐ飛んでいき壁と衝突する。威力がかなり乗っていたため壁は壊れ瓦礫となって崩れ落ちる。
「てめぇ当たったらどうすんだ」
「分かってたでしょ?」
アルマは自分の真上に来る存在を感知してしゃがんで相手の顔を拝んでから反撃しようとしたが、視界に胴をひねるカイが入ったため攻撃するのは止めていた。
舌打ちをした後で相手の顔を拝むためにアルマはズカズカと荒々しい足取りで倒した魔人に近づいて行く。そのことに悪寒が走ったカイはアルマの腕を掴み引っ張る。驚くアルマを置いてカイは目の前に氷の壁を作る。すると先程と同じ様に魔人の頭が爆散する。
「あ、ありがとうよ」
「どういたしまして。 俺の方には何も引っかからない。アルマの方は?」
「……さっきまでなかった反応は1つ」
そう言ったアルマはゆっくりと人差し指を立てて真上に向ける。
反応は監視塔の上。それを無視することは出来ないと判断した2人は急いで上に向かい始める。
向かう途中で先程と同じ様に急に魔人が飛んでくることが何度もあった。その魔人達は攻撃する素振りを見せるのだが、事前に魔力感知によって出てくる場所が分かっているため迎撃は楽な物だった。
数回飛んでくる魔人を倒していると監視塔の上に出る。視線を上に向ければそこには確かに魔人が1人飛んでいたが、遠くで中々容姿を確認するのが難しかった。
アルマは自分で黒い羽を1本抜くと、それを少しの動作だけ投げる。普通その様に投げたらそこまで飛んで行かない物だが、その羽は真っすぐ飛んで行き、徐々に速くなっていく。
視認できなくなったため魔力感知で様子を見守っていると、羽が当たる寸前に魔人の反応が消える。それと同時に2人の5mほど前に魔力の反応を感知する。カイは青い炎の腕を伸ばし捕まえにかかると、姿を現した瞬間それは跳んで避ける。もう片手も伸ばすが、それは素早く動き避け続ける。
カイの攻撃に合わせるようにアルマが黒い羽を複数飛ばすが、そのすべてが指と指の間で受け止められる。
一度攻撃の手を止めると、それは持っていた黒い羽をバラバラと地面に落とす。
それは10歳前後の少年と同等の姿をしており、黒い軍服を身に纏い、その上にフード付きのローブを着ていた。
「もうこんな物要らないね」
「……やっぱり」
ローブを脱いだことで顔が露わになる。その顔はアルマを幼くした様で、少年は満面の笑みを浮かべていたが、逆にアルマは悲しそうな表情を浮かべていた。
「お姉ちゃん!やっと戦える!生きててよかった~。また殺せるんだもん!嬉しいっ!」
心底楽しそうな少年に対して、アルマは苦虫をつぶしたような表情で苦しそうにしていた。
対比的な2人の空気を壊すようにカイが少年に攻撃を仕掛ける。先程と同じ様に炎の腕を伸ばす。今まで浮かべていた楽しそうな表情から一転して、憎しみを込めた視線で睨む少年は、炎の両手で捕まえられる寸前にその場から消える。
次に現れたのはカイの目の前だった。
カイの目の前に現れた少年は打撃を仕掛けていく。両腕の炎を解除したカイはその拳を受け止め反撃していく。近接戦の練度はカイの方が高く、応酬が続く中でカイの攻撃が防御を貫いて行く。
下がる少年にカイは逃げないように接近し続ける。攻防が続く程に少年の込める憎しみの視線が強くなっていく。
1分ほど続いた攻防も少年が瞬間移動で上空に移動したため終わりを迎える。
「てめぇ!邪魔すんじゃねぇよ!もういい!お前から殺してやるよ!こっからが本気!!」
「ハルマ。ライトルから貰った
険しい表情からつまらなそうな表情になったハルマと言われた少年は、ポケットから円柱を取り出す。
「これが欲しいの?結界壊して城に来たいんだ」
円柱を投げて遊んでいるハルマを見て、カイは再度腕に炎を纏わせ、いつでもとれるようにする。
数秒間睨みあった末にハルマは持っていた円柱をアルマに向けて投げる。
「いいよ。お姉ちゃんの頼みだもん。城で待ってるね。そこで殺してあげる」
そう言って少年は姿を消した。
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