第266話


「何が起きてるんですか」

「クリミナル。急いで棺を持って来て下さい」


 状況を一番理解していそうなリオに聞くと、リオはいつもの通り冷静な態度で話すが、その声色は焦っている様だった。


「現在、人間領と魔国を隔てている結界に攻撃を受けました。先程の音は第一結界、つまり結界の一枚が破壊された音です。皆様、こちらへ」


 いつもよりも早い足取りで移動するリオについて行きながら、カイ達は焦らないように心掛ける。


「これは私とオムニしか知りませんが、魔国と隔てるように作った結界は全3層からなっております。内側の1層目が通行を禁止する結界。2層目が強い衝撃を受け止める結界。最後に瘴気を外に漏れないようにする結界です。現在、瘴気がここまで来ていないこと、二度目の破壊音が無いことを考慮すると、破壊されたのは一層目、相互間の通行を止める結界が破壊されたことと考えられます」


「つまり、魔人達が攻めてきます。人間を虐殺することと、貴方の魔力を奪うことを目的に。なので、今ここで決めてください。ここに残り身を隠すか、魔国に行きラスターを倒すか」


 立ち止まったリオに対して、カイは真っすぐ見つめると、しっかりとした覚悟をのせた言葉を出す。






「俺は魔国に行きますよ。ここで隠れてても好転しない。むしろ悪化すると思いますから」




『カイが魔国に行くならば自分達も』と言ったミカ達も連れて、リオはすぐ近くの部屋に入る。扉を開ける際に普段の彼女からは想像できない程に荒々しく開けたため、今の状況がどれだけ逼迫した状況だとうかがえる。


 入った部屋は変哲の部屋で、カイ達が現在泊っている部屋と見た目は一緒だった。


「この部屋、見た目は皆様が使っている部屋と大差ないですが、絶対に使われることは無いんです」


 リオは部屋に備え付けのベッドの下に両手を突っ込むとゴソゴソと漁り出す。そして、中からそれなりに大きな箱を取り出し、中から棒を一本取り出す。

 その棒を持ったまま部屋の隅に行くと、棚の横に小さく隠された穴の中に突き刺し、手前に引く。

 すると、壁が音を立てて道を作り出す。




 通路の先にはまた扉があり、その部屋に入るにはリオの持っている鍵が必要になっていた。


 中に入ると、そこは大きな机と椅子が置いてあり、机には山積みになった紙と、書いている途中の紙があった。


「ここはオムニの仕事部屋です。オムニ自身と私が今持ってるこの鍵でしか入れない部屋です。そして……」


 何の変哲の無い壁に手を当てると、壁を押し込む。カチッと音がすると、先程の様に音を立てて壁が動くと中にはペンダントが置かれた台座があった。


「このペンダントに瘴気を中和するための物がございます。数日間は瘴気から身を守ることが出来ます。これを肌身離さずつけていただきます。寝ている時も戦闘時も絶対に離さないでください」


 全員が台座に近づきペンダントを取った所で、リオが台座についたパネルをいじり出す。


「万が一の時は何とかしますが、本当に気を付けてください。では行きますよ」


 そう言うと、地面に目立たないように彫られていた魔法陣が発光し始めた。

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