第225話


 ウォッシュの灰はフラージュが回収し、グイとドッペルトの遺体をカイが回収してから、カイとフラージュの2人は研究所から出る。

 今のカイの格好では出歩くことが出来ないため、カイとラウラは監視も含め研究所に残る。その間にミカ達は仲間の騎士に報告しに行くことにしたのだ。

 研究所に残ったカイは自分の手を見続ける。元とは言え家族を屠った手を。そして、その手を見続けていると先程までウォッシュ達と戦っていたため忘れていたレイのことを思い出す。最後にレイに会ったのは数ヶ月前だが、唯一家族だと思っていた兄が知らぬ内に死んでしまった。その理由が自分にあると言うことに罪悪感に飲まれそうになる。


「これ飲んで」


 隣に座っていたラウラに水の入った筒を渡され、カイはゆっくり水を飲む。

 レイが亡くなったのが自分のせいだろ罪悪感に飲み込まれそうになったところで、突然研究所の扉が開かれる。この研究所だが、結界に包まれて外から魔力感知で探ることが出来ないのだが、中から外を感知することも出来ないのだ。そしてミカ達が出てからまだ数分しか経っていない。そのため研究所に帰ってくるはずがなかった。つまり入って来たのは研究所の関係者だと言うことだ。そのことに気づいた2人は気配を消して入って来た存在を確認する。


「…何ですかこの臭いは。血と肉が焼ける臭いですか?臭いですわね」

「だから私は行ったのです。低俗な人間の所に来るなど…」

「そんなことを言ってはなりません。何度言えば分かるのですか」


 入って来た者を確認した瞬間、カイは跳びつき、ラウラ魔法を撃つ。カイは最初に入って来た女の方を殴ったのだが、後ろにいた男に腕を掴まれてしまい、元いた場所に投げられる。そんなカイを避けてラウラの魔法が飛んでいくが、入って来た2人は避けてしまう。


「あなたが臭いの原因ですか…。汚い手では触れようとしないでください」

「てっめぇぇえええ!薄汚れたその手を捥いでやろうかぁああ!!!」


 入って来た2人は両方とも美形の男女で、女性に関しては姫と言われていたこともあり王が纏うような品格を感じる。そして男は入ってきた瞬間は興味がないような真顔になっていたが、カイが攻撃を仕掛けた瞬間に怒り一色になり、カイとラウラのことを睨みつける。

 そして一番特徴的なのはその角だ。2人とも額からデカい角が2本生えていた。そのため2人は攻撃をしかけたのだ。そして、女性の方の角は片方が青色で片方の角は包帯が巻かれており、色を確認することが出来なかった。男の方は両方とも黒色で闇の属性を持っていると確認することが出来た。


「サーバ、口が悪いですわ。黙りなさい」

「申し訳ありません、姫様」


 男は注意されるとその場で膝をつき頭を垂れる。その様子にカイとラウラは警戒度を上げる。


「話をしたいのですが…」


 姫がそう言うと、突然カイの頭上に水の塊が出来る。カイはギリギリできたことに反応出来たため頭上に赤い氷を張って水を防ぐ。突然赤い氷が出たことに魔人の2人は驚くが、男の方は怒りで顔を真っ赤にする。よく見るとサーバと言われた男の手には筒型の魔法道具マジックアイテムが握られていた。


「貴様ぁ!そんな姿で姫様と話そうとしてるのかぁ!!」

「何をやってるのですか、サーバ!!!申し訳ありません。私達は敵対している状態だと言うのに…」


 姫はサーバのことを𠮟りつけると、カイのことを真っすぐ見る。


「薄々感じていましたが、あなたの魔力は混ざっているのですね。そのような高等技術をすることが出来るとは…。やはり人間と言う物は凄いですわ」


 そう言った姫の目は何か羨ましく思っているようだった。


「私達がここに来たのは、同胞の、魔人の遺体を回収するためです。ここに魔人の遺体を持ちこんだと聞いてきたのですが、全て終わった後の様ですね」

「…魔人は何をしようとしてるの」


 ラウラの質問に姫は今度は寂しそうな顔をしてラウラのことを見る。


「魔人は今2つの勢力に分かれております。私達」

「姫様」


 姫が続きを話そうとした所で、サーバが待ったをかける。そのことで姫が不機嫌そうな顔になるが、渋々と言った様子でサーバのことを睨みつける。


「時間が使づいております。手短に」

「…分かりました。お2人方、魔人の遺体を持っていたりはしないでしょうか?譲っていただきたいのです」

「…譲れません」


 ラウラが言葉を出そうとした瞬間にカイが被せてくる。そのためラウラは黙り、カイのことを見守る。


「あなた達が敵ではない確証がない。そんな人達に渡すことは出来ない」

「貴様、さっさと」

「分かりました」

「姫様!!」


 先程から膝をついていたサーバは立ち上がり、カイに詰め寄ろうとしたが、姫がそれを止める。


「敵に渡すことが出来ない。その通りですわ。ですから、帰ります。私達のことを知りたいようでしたら、これを持って公国に来てください。そこで話してくれるはずですから」


 姫は懐からほとんどが何かの宝石で出来ているペンダントを取り出し、カイに手渡しできる距離に近づく。それを受け取るかどうかカイは一瞬悩むが、相手のことが気になっていると言うこともあり、そのペンダントを受け取る。ペンダントを渡した姫は研究所から出て行こうとする。だが、サーバはカイのことを睨んだまま動かない。


「サーバ、いつまでそうしてるつもりかしら。行きますよ」


 姫に言われてようやくサーバは動き出して研究所から出る。その間2人を攻撃することが出来たが、カイ達はあえて攻撃しないかった。

 カイは握っているペンダントを見る。続いてラウラもそのペンダントを見る。


「どう思う?」

「分からない。謎な事が多すぎる。でも魔人ことを知るきっかけにはなるはず」


 カイとラウラは最初よりも警戒しながら研究所の監視を続けた。

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