第237話


 部屋に案内されている途中、カイ達がいるのは屋敷だと言うことが分かった。それもかなり大きな物だ。先程呼ばれた部屋から既に5分も経っているが、未だに部屋には案内されていない。

 まだつかないのかと思い前を見ると、メイドの後ろ姿から機嫌が良いのが伝わってくる。


「かなり大きな屋敷ですね。それに作りもかなり良い」

「それもそうですよ!ご主人様は公国を治められる方!そこらにある屋敷と一緒の物に住むわけにはいきませんから!」


 自分達が知らない情報を話してくれると知ったカイ達は、主にフラージュが話しかけて行く。


「貴方はここで働き始めて長いの?」

「私はまだまだ新人です!ここに来てまだ3ヵ月程しか経ってないです。新人ってことで、今はメイド長のリオ様に色々教えて貰っています。ですけど、リオ様が先程ご主人様に呼ばれましたから。本当はお客様を案内するのはリオ様だったんですよ。今はいないので私が、と言うことです!」


 メイド長がいなくなったと言われ、もしかしたら公国の町に転移して来たメイドがその人なのかもしれないと考えながら、フラージュは質問し続ける。


「そうなのね。そう言えば、オムニさんは普段何をされてるのかしら?」

「私は国の仕事をしてるとしか…。ご主人様は多忙な方ですので、私達一端のメイドは滅多に会うことは無いんです。なのでご主人様に会ったメイドはよく自慢してます!あ、こちらの部屋になります。皆さまにお1つずつ用意いたしました。何かありましたら、机に置いてあるベルを鳴らしてください」


 いつの間にか、泊まるための部屋に着いたためカイ達はそれぞれ部屋に入っていく。




 部屋の中は全部一緒の物になっており、豪華な装飾が施され数人で囲むことが出来る机と椅子が数個。1人で寝るには十分すぎる程のデカさを誇るベッド。そして壁には2枚の絵画がかけられており、片方はある女性を描写した物で、もう1つが風景画だった。森に囲まれた滝が描かれている絵だったのだが、写真と見間違えるほどに上手い絵にカイが引き込まれていると、扉がノックされた。その音で正気に戻る。


「ちょっといい?」


 ミカの声だったため躊躇うこと無く扉を開けると、そこにはフラージュとミカがいた。


「ちょっと話し合ったほうが良いと思って。今からラウラさんの部屋に行かない?」

「分かった」


 まだ部屋について間もなかったこともあり、常に持っていないといけない袋は持っていたためカイはそのまま部屋を出てラウラの部屋に向かう。


 そしてラウラの部屋につくと中から話し声が聞こえる。その声はラウラとシャリアの物で楽しそうに話しているようだった。

 先程と同じ様にミカが扉を叩くとラウラが扉を開け、隙間から中を見るとシャリアが優雅に紅茶を飲んでいた。


「入って。紅茶もある」


 ミカが何かを言う前に何のために来たのか察したラウラが素早く部屋に通す。通されたまま椅子に座り、紅茶を飲んだミカが不図声を漏らす。


「この紅茶美味しいですね。いつも飲んでる物と少し違う」

「それはそう。これはさっき貰った物」

「私達も普段のよりもおいしくて驚いておった所じゃ」


 そんな話しを軽くしつつ、姫と呼ばれる魔人とメイドが言ったことをまとめて行く。


「問題はカイの魔力が狙われることですよね。でもそれならラウラさんも…」

「それはあっちがラウラにそこまでの技術があると知らないからじゃろ。ラウラ、お主も用心しとくんじゃぞ」

「分かってる」

「正直、魔国については明日以降に話した方が良いと思います。明日も話しを聞くわけですし」

「そうじゃのー。ならメイドの言っていたことじゃ」

「公国を治めてることと、メイド長のリオさん?って人ですか?」

「治めてると言う話しは納得じゃの。ここまでの力を持っとるんじゃ。治めててもおかしい話では無いの。治めてる貴族達のトップと言った所かの?ただ、未だに魔法陣を使った魔法以外見てないのは疑問に思うがの。魔人はつぶれたようになっておったから、予想出来るのは岩か氷じゃが…。私の拳を簡単に止められる程じゃからの。腕力だけでどうにか出来そうじゃ」


 ここまで話しを聞くことしかしてなかったため、魔人のことを知らなかったカイ達3人は魔人がいたことに驚き、詳しい状況をミカとシャリアに聞く。


「それは…。魔法道具マジックアイテムは?」

「正直分からん。ローブで隠れてたからの。もしかしたらまた魔法陣かもしれんの」


 謎が多いと結論付けると、次はメイド長の話しに移る。


「メイド長のリオさんって人は十中八九、公国の町に現れた人だろうね。普通ご主人様にあんな口は利けないから」


 それに納得した全員は頷く。


「それと、俺気になったんですけど、たびたび『寝てた』って出て来てますよね?あれって…」

「普通に考えたら睡眠じゃが…。何かの隠語かの?」

「そうかも。…明日思いきって聞くのもあり」


 それからは他愛もない話しを、おいしい紅茶を飲みながらして、その日はもう遅いと言うこともあり解散となった。




 次の日、長旅で自分が予想しているよりも疲れていたカイは、扉が叩かれる音で目覚める。すぐに目を覚まさせるとすぐに扉越しに声をかける。


「どうされましたか?」

「カイ様、おはようございます。朝食の用意が出来ましたのでお呼びいたしました」

「すぐ行きます」


 カイは寝間着から着替えると、直ぐに部屋を出る。そこには昨日公国の町に来た、オムニと同じ白髪で、瞳が真っ赤に燃える炎の様に赤色の人がいた。


「おはようございます。案内させていただきます」


 そう言って歩き出したメイドの後ろに着いたカイは話すチャンスだと思い話かける。


「えーと、あなたがリオさんですか?」


 メイドは歩くのを止めず、こちらを見ずに返答し始める。


「そうですが、一体どこで?」

「昨日案内してくれたメイドさんが言ってました」

「全くあの子は…」


 小さく呟いた声は、誰もいない廊下に響き渡る。


「あの子が何か失礼になることはしなかったでしょうか?」

「全然。しっかり案内してくださいました」


 丁度食堂に着いたため、扉を開けてカイに入るように促す。カイは軽く会釈してから中に入ると、そこには既にミカ達がいた。


 カイは相手いる椅子に座ると、朝食が運ばれてくる。


「昨日は挨拶をせず申し訳ありませんでした。私、この屋敷のメイド長をしております『リオ』と申します」


 まだ、並べている途中だったこともあり、全員がリオの話しに集中する。


「皆さまにまず、謝ることが。本日、主であるオムニなのですが、諸事情にて皆さまに会うことが出来ません。なので、何かありましたら私にお聞きくださ…」


 リオが話している途中で、外から爆音のような物が聞こえてくる。食事を運んでいるメイドは驚いたのか、数人が腰を抜かしている。カイ達は椅子から立ち上がり、音のした方を見ながら警戒し始める。リオは扉を素早く開けるとカイ達の方に近づく。


「皆さま、こちらへ。避難いたします」

「一体何が…」

「おそらく、魔人が攻めてきました」


 リオのその言葉に一瞬にして緊張感が走る。

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