第80話 異世界式イタズラ
配膳終了。
それではみなさん、手を合わせてください。
「いただきま~す」
フライング姉貴。
まぁ、知ってた。
で、姉貴が食べ始めたらリリウムさん達も食べ始めた。
最初はみんなの感想を聞きますかね。
「ふま! 美味い!!」
サクッという小気味のいい音を立て、カニクリームコロッケに歯を立てた姉貴。
中身の熱さに若干苦戦しながらも、咀嚼しつつ美味い事をアピールするサムズアップ。
続いて、
「む? カツと違い衣が軽いな。……お、中身がトロリと……」
こちらはラベンドラさん。
同じ揚げ物のカツと比較してるみたい。
「熱っ!? ……これはまたうま味が濃厚だな」
噛んだ瞬間に流れてきた中身に苦戦しつつ、マジャリスさんの感想。
うんうん。カニクリームコロッケはうま味が強いよね。
「これ、私とても好きですわ」
一方こちらは一口食べてうっとりしてるリリウムさん。
箸置いて、目まで瞑っちゃってますわよ。
……んで、
「はふっ! ほふっ! あふっ! あふいっ!!」
何を思ったかガブロさん。
俵型のカニクリームコロッケを一口で頬張っちゃってさ。
出来立てで熱いのにそんな事をしたもんだから、口の中が凄い事になってるらしく。
金魚とか、鯉みたいに上向いて口の中の熱気を何とか逃がそうとしてらっしゃる。
ありゃあ口内の皮膚がベロンてなるやつだ。間違いない。
って、
「皆さん、ソースかけてないじゃないですか」
四人ともソース無しで食べてた。
まぁ、美味しいだろうけども。
なお、姉貴はしっかりかけて食べてる。
何なら、もう既にガーリックトーストとスープも半分は減ってる。
食うの早いな。
「いや、まずは何もかけずに食べておきたくてな」
「素の味を楽しむのは大事だ」
「どれほど変わるか、というのも気になりますし、かけない方が好みの場合も考慮しませんと」
「ああ、かけるの忘れておったわい」
だそうです。
すいません、私が浅かったです。
ガブロさん以外には謝罪します。
というわけで反応見たし、俺も食べるとしますか。
パクッとな。
……うんめ~。
ま~じで美味い。
ていうか不味いわけがないのは分かってるよ? 分かってるんだけど、予想を飛び越えてんだよなぁ。
まず衣ね。我ながら良い薄さに出来たと思う。
箸で掴んで持ち上げてもギリギリ崩れず、中身を支える薄さ。
そして、歯が当たった瞬間に崩壊し、中のカニクリームを流し込んでくる。
そんな絶妙な薄さ。その衣から解放された熱々のカニクリームと言ったらもう。
たっぷりのカニが口の中でぶつかり合い、噛めば必ず歯のどこかで身が潰れる。
身が潰れればそこから肉汁があふれ出し。濃厚なクリームと一体になって口の中で大奔流よ。
それが美味しくて我を忘れて二噛み、三噛みと咀嚼して、口に入れるはガーリックトースト。
衣よりも固いバゲットを放り込めば、カニクリームの風味を貫通して主張してくるガーリックの香り。
そこから舌に広がるバターの塩味が、口の中のカニクリームと合わさって。
幸せを噛み締めつつ咀嚼して、飲み込んだ後に飲むお茶がうめぇ!
で、スープをすすって口の中を温めつつ、またコロッケへ。
……悪魔の食い物ですねこれは。
「このソースをかけるとまた味が変わるな」
「ソース自体の深みもすごい。水分多めのソースだがそれがまたいい味を出している」
「ああ、なんて素晴らしい美味しさなのでしょう……」
「コロッケもじゃがワシはパンが気に入ったぞい。このコロッケにも負けないズドンと舌に来るうま味は目を見張るものがある」
なおソースは有名な錨マークのやつである。
あれ美味しいよね。何ならあれだけご飯にかけても全然食えるわ。
ソーライスって言うんですっけ?
「む、確かにパンにはまだ手を付けてなかったな……。どれどれ」
なんて言って、思い出したようにガーリックトーストをザクリ。
「お、かなり強めの香りが鼻に抜けるな。その後に来る塩味がいい。それらを固めの食感のパンが持ち上げている訳か」
「これまで持たせてもらっていたパンは我々の世界だと高価だが、このパンなら向こうでも再現出来るんじゃないか?」
「これも美味しいですわね。……ただ、少し口内に防御魔法を張る必要がありますけど」
いや、確かにバゲットが口内を傷つける可能性はありますけど、芋けんぴほどじゃないですよ?
今度食べます?
「スープもこれまでのようなホッとする味じゃが、慣れ親しんだ味でもあるのぅ」
「みそ汁だったか? あれとはまた違ううま味のするスープだ」
と、スープを飲んだガブロさんとマジャリスさんの感想。
ちなみにスープは全員オニオンコンソメ。
喧嘩になりそうだったからね、違う味にすると。
「確かに向こうでよく口にするスープに近いですわね。こちらの方が色も味も濃いですけど」
「野菜くずや肉の端を入れて煮ただけの代物だからな。我々の世界のスープは。その点このスープは、しっかりと材料から計算されている正真正銘のスープだ」
元は粉末ですけどね。
お湯注いだだけですけどね。
*
「ふぅ。美味かったわい」
「美味しゅうございました」
「また新たなレシピを手に入れられた」
「クリームパスタが再現出来た事だし、これも再現出来るんじゃないか?」
「可能だろうな。問題は揚げるための油だが」
「オークバターは使い切っていないんだろう? あれを使えばいいじゃないか」
「オークバターから作った油は海鮮には向かない。生臭さが際立つぞ」
「そ、そうなのか……」
なんか色々話してるなぁ。
……気にしないでおこう。
「あ、そう言えばカケル、これから数日の話なのだが」
「? どうかしました?」
「手間を増やしてすまないが、持ち帰り用の食事を倍作って欲しくてな」
「ば、倍ですか……」
ただでさえ一般的な食事量の倍くらいは作ってるんですけど……。
更に倍か―……。
「もちろん、無理ならばこれまで通りで――」
「いいわよ」
「へ?」
「は?」
あの……姉貴?
なんで俺の代わりに返事してらっしゃるの?
あなた手伝いなんてしないでしょ?
「い、いいのか?」
「大丈夫、私に任せて」
そう言って席から立った姉貴は、ゆっくりと俺に近づいてきて。
「あの人らから受け取った宝石が捌けたら、高級食材送るからさ」
なんて耳打ち。
ぐっ……だがそれくらいで揺らぐ俺では……。
「ブランド牡蠣、うに、和牛にいくらとかどう?」
あふん。
そ、そこまで言うなら……。
「作ります」
深いため息をつきながら、リリウムさん達に返事。
……直前にバナナ味の牡蠣さえ食ってなきゃ堕ちなかったんだけどな。
……待てよ?
「あのリリウムさん」
「はい? なんでしょうか?」
「この間頂いた果実ってまだあります?」
姉貴に聞こえないようにヒソヒソ話。
「ありますよ?」
「二つほど頂いても?」
「分かりましたわ」
そう言って袖の下からブツを貰い。
「じゃあ、今から作っていきますね」
明日の朝、姉貴へちょっぴりいたずらをすることを決め、俺は持ち帰り用の料理に取り掛かる。
「ちなみにメニューは?」
「カニグラタンコロッケバーガーになります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます