突撃！ 隣の世界の晩御飯！

第286話 初生食異世界食材

「刻み海苔、ヨシ！　炒りゴマ、ヨシ！　わさび、ヨシ！！」

「かいわれとネギと大葉は？」

「もちろんヨシ！！」

　現在、四人が来るまでの時間で姉貴と薬味のダブルチェック中。

　海鮮丼の薬味はね、なんぼあってもええですからね。

　ちなみにご飯は炊けた後、すし酢を作って酢飯にしてある。

　やっぱり海鮮丼のご飯は酢飯でなくちゃ。

「あの人らはどうせおかわりするだろうからいいとして、俺らはそんなの出来ないわけじゃん？」

「普通のお茶碗でミニ丼を複数作るのは？」

「……初めて姉貴を尊敬したわ」

「毎秒尊敬しろ～？」

　俺たちにも希望の光が見えたところで、トッピングの確認。

「まずは無加工のサーモンいくら丼でしょ？」

「刻み海苔とわさびでいいかな」

「だね」

　ゴマはヅケに合わせたいし、大葉は炙りと合わせたい。

　刻み海苔とかいわれはご飯の上に散らします、と。

「シメにお茶漬けなんかしちゃう？」

「今日冴えてるじゃん。もしかして偽物？」

「ふっふっふ、正体を知りたければラーの手鏡を持ってきな」

「鏡じゃないんだ」

「持ち運び大変じゃん」

　なんてバカな会話をしてたら、姉貴のポケットが若干振動。

　ほー、そうやってこっちに来る合図出してるのか。

「来るよ」

「あい」

　という事で待つこと数秒。

　目の前に紫の魔法陣が出現。

　そこから現れるいつもの四人。

「お待ちしておりました」

「む、邪魔するぞい」

　ラベンドラさん以外……もちろん姉貴も含めた各々がテーブルに着席し。

　ラベンドラさんはエプロンを着ながら俺に近寄り。

「何をすれば？」

　との事なので、

「本日は丼です」

　宣言し、丼をラベンドラさんに手渡す。

「牛丼等と一緒というわけだな？」

「です。ご飯をよそって、上から具材乗せるだけです」

「その具材が？」

「もちろんトキシラズですよ」

　という事で早速盛り付けましょう。

「ちなみにお代わり前提で考えているので、ご飯は少しだけ少な目で」

「了解した」

　俺の言葉に従い、控えめ（四人比）にご飯を盛り。

　そこに刻み海苔と刻んだかいわれを散らし。

　後は映えを意識してトキシラズの切り身を盛り付けて第一弾の完成じゃい！！

「？　二人はそれだけでいいのか？」

「俺らもお代わり前提ですから」

　茶碗で作った俺と姉貴のミニ丼に言及されるが、いいのいいの。

　全然食べる予定だからね。

「よし、これで完成か」

「と思うでしょう？」

　終わらせないんだなぁこれが。

　ここで冷蔵庫から取り出すのはもちろんイクラの醤油漬け。

　こいつを中央に盛り付けましょう。

「？　それは？」

「こっちの世界でのトキシラズの卵ですね」

「トキシラズの……卵？」

「クソほど研究したい単語が聞こえてきたのですけれど！？」

　イクラの説明してたらリリウムさんが割り込んできた。

　あの、お願いだからその顔と口調でクソとか発さないで欲しい。

「言うてもこっちの世界ですからね。手紙にあった様な、時間を泳いだりできませんよ？」

「というかそもそも魚卵を食う文化が無いからのう。どんな味か気になるわい」

「同意だ」

　……へー、異世界って魚卵食べないんだ。

　イクラとか、とびことか、数の子とか美味しいのにね。

「また我々の初体験が増えるな」

「偶然この世界に来ることが出来て本当に良かったですわ」

　まぁ、経験は絶対に何かしらの糧になるだろうし。

　早速その初体験をしていただきますか。

「ワサビはお好みで」

「了解した」

「醤油を軽く回しかけてね」

「承知」

　というわけで早速いただきましょう。

　忘れずにみそ汁を出し、お茶もコップに注ぎましてっと。

　異世界トキシラズの海鮮親子丼……ここに完成。

「むほ！」

「うむ！！」

「まぁ！！」

「美味ぁい！！」

　貴重な初めての一口、その反応は。

　四人微妙な違いはあれど、示す結果はほぼ同じ。

　すなわち、

「美味いのぅ！！　箸が止まらん！！」

「程よくのった脂と、酸味のあるご飯の相性がいいなんてものじゃあない」

「敷き詰められた海苔やマンドラゴラの風味や刺激も美味しさに一役買ってますわ！！」

「いくらという魚卵の味もいいぞ！！　プチプチした食感と噛むと溢れる塩味の効いた中身がトキシラズと最高の相性だ！！」

　という事。

　んっんー、大成功だなこれは。

「めちゃうま」

「どれくらい？」

「北海道で食べた海鮮丼と同じかそれ以上」

「……いつ行ったんだよ」

　姉貴が気になる事抜かしやがったけど、無視しよう。

　北海道土産、貰ってないんだけど？

「ワサビもあるとないとじゃ段違いじゃな！　脂のしつこさが消えるようじゃわい」

「お代わり前提と言っていたが、そんなもの無くともこれはお代わりしてしまうほどの味わい！」

「我々の世界で生で食える魚は初めてだったが、こうして食べてみると驚くほどに美味い」

「本格的に呪いの解呪を学びましょうか。色々と生で食べたい魚が浮かんできますもの」

　そういや、異世界には寄生虫とかって問題よりも、呪いの問題の方が大きいんだよな。

　というかあの食の権化たるリリウムさんが生魚には目もくれてなかったのか今まで。

　……リリウムさんから逃れるために、自分に呪いをかけてたとかないよな？

　無いな。

「……あ、うめ」

　そんな事を考えながら丼を掻っ込んだらですよ。

　まず舌にダイレクトに来るトキシラズの旨味ね。

　噛むと溢れる肉汁と、あっさりした脂のコラボ。

　そこからワンテンポ遅れる酢飯の酸味とかいわれのピリッとした辛み。

　んで、トキシラズの身は噛むと甘みも出てくるんだよな。

　その甘みがまた酢飯と合うんですわ。

　それを支える海苔の香りよ。

　最後に全部を洗い流すように溢れるイクラちゃんも憎い仕事するね。

　やっぱりトキシラズとイクラの相性も良かったな。

　世界は違えどほぼ親子みたいなもんだし。

　そう考えると、異世界親子丼というか、世界腹違い丼とかになるのかな？

　倫理観疑われそうなネーミングだけど。

「あっという間に一杯目完食じゃい！！」

「まるで飲むように食べてしまいましたわ！」

「次の丼はどうするんだ！？」

「少し落ち着け、まだカケル達が食べているだろう？」

　なお、早々に食べ終わった異世界組に次の丼を催促される模様。

　もう少し待ってもろて……。