第147話 おでんツンツン

「カケル、これは?」

「あ、それは厚揚げですね。豆腐を油で揚げたものになります」

「豆腐を揚げるのか……。むっ!? 外側の部分がつゆを染み込んで美味い! 火が通っているからか中の豆腐の部分も歯ごたえがしっかり感じられる」


 ラベンドラさんが最初に引き当てたのは厚揚げ。

 おでんはそもそもつゆが染み込みやすい食材を多く入れるもんだと思ってるけど、特に豆腐から加工された食材はこの傾向が強いよな。

 んで、折角ならと近所の豆腐屋さんで厚揚げとか、餅巾着とかを買って来てみた。

 そりゃあスーパーよりお値段はするけど、味はマジでダンチ。

 文字通り大豆の味がしっかり感じられて滅茶苦茶美味いんよ。

 ラベンドラさん達には是非ともこの豆腐を味わってほしかったからね。

 ちなみにその豆腐屋はパンダトレノなんかには乗ってない。


「これは……卵ですわね?」


 リリウムさんが引き当てたのは、おでんの具材の王様。

 おでんの具人気ランキングで常にトップ3を争ってる最強の一角、卵。

 しっかりと浸かり、表面の色がつゆの色に染まりつつあるその卵は、卵本来の味もさることながら、つゆと一緒に味わう黄身が俺は一番美味いと思ってる。

 褒められた食べ方じゃないけど、卵の黄身をご飯にまぶして、おでんのつゆをかけて食べる食べ方が大好きなんだよな。


「プリっとした白身につゆの味が移って、口の中で広がっていきますわ!! ――黄身も味が濃厚ですわね!!」


 お気に召したようで。

 マジでおでんの卵だけは外せないよね。

 他はまぁ、面倒な場合は外しちゃうこともあったりするけど。


「……これは?」

「ちくわです。魚のすり身を焼いたものですね」


 マジャリスさんが引き当てたのはちくわ。

 ちくわに限らず練り物系は総じておでんと相性がいい。

 かまぼこ、丸天に角天。じゃこ天なんかもいいぞ。


「……っ!! 生臭さでもあるかと思ったがそんな事はない! 独特の歯ごたえからくるつゆのうま味と、魚のうま味がじんわりと滲み出てくるな!」

「ちなみにえーっと……このかまぼこも魚のすり身からの加工品ですよ。こちらは蒸して作ります」


 練り物の話が出たから同じ練り物であるかまぼこもご紹介。

 この後、俺が美味しくいただきました。


「これはなんじゃい?」

「牛スジですね。肉っちゃ肉です」


 なんと言うか、牛スジって何? と聞かれても牛のスジとしか答えられんよな?

 まぁ、迷わず食えよ、食えば分かるさ。


「む、こいつは……」


 お前の次の台詞は、これは酒に合う! と言う。


「さ、酒に合う味じゃあ!!」


 ……ハッ!

 いや、うん。だってガブロさん予想しやすすぎるし。

 というわけで、


「ちょっとだけですよ?」


 おでんには日本酒や焼酎が合う。

 三国志にもそう書かれている。

 今回用意したのは焼酎。ちなみに麦。

 お湯割りとしてのご提供です。


「おお! こりゃあ嬉しいわい! ……ん? また知らん酒じゃな?」


 と、ガブロさん、匂いを嗅いだだけで初体験であることを看破。

 ……まぁ、ドワーフだし、それくらいはするか。


「――こりゃあ……美味いな」


 おや? ガブロさんの様子が?


「癖のない香りに香ばしい風味。スッキリと軽い飲み口にまろやかな口当たり……。こりゃあ、原料はなんじゃ?」

「麦から作られてると思いますけど」

「麦……麦か。麦の香りか……鼻をくすぐるいい香りじゃあ」


 酒になるとクソほどうるさくなってたガブロさんがしんみりしてるよ。

 どうしちゃったんだ?


「ほっといていいぞ」

「へ?」

「ガブロは自分が心の底から気に入った酒を飲むとああなる」

「は、はあ……」


 困惑する俺に、ラベンドラさんとマジャリスさんが声をかけてくれて。

 牛スジを食べてちびりちびりと焼酎を飲むガブロさんの姿が、飲み屋で一人酒を楽しむ年配の方に被ったところで。


「えーっと、ソーセージソーセージ」


 俺も箸を進めることとしよう。

 俺の一発目、狙いはソーセージ。

 あらびき燻製のあのソーセージを、皮をパリッと突き破って食うのがいいのはもはや一般常識。

 そこにおでんのつゆも絡むんですよ奥さん。

 そりゃあ米も進むってもんですわ。


「からしをちょいと付けましてっと」


 ソーセージにはマスタードだけどもね。

 洋からしもいいけど、和からしもいいもんですわよ。

 からしマヨとか最高だし。


「あー……うっめぇ!!」


 これよこれ。

 皮を歯で突き破った瞬間に溢れる肉汁!

 そこに掻っ込む白米! おでんにソーセージを初めて入れた人は天才だな。

 内閣総理大臣賞をあげるべきだと俺は思うね。


「ソーセージも入っているのか……」

「でも、私は野菜の方が美味しいと思いますわよ?」

「いや、練り物もかなりのものだ」

「厚揚げも酒に合うわ~い」


 ……今ガブロさんの口調バグって無かったか?

 めちゃめちゃ上機嫌でこう、オブラートに包んだうえで気持ち悪かったんだけど……。

 ガブロさんの皿の上を見たら、厚揚げ、牛スジ、卵、大根と、もう自分の酒に合うツマミしか取ってないでやんの。

 というか、練り物もちゃんと食べたか?

 合うぞ。酒に。


「おろ? もしかして誰も食べてない?」


 で、次何食べようかと鍋の中を見て見たら。

 明らかに他の具材よりも残っている物を発見。

 この間これは食べたばかりでしょうに。


「こんにゃく食べないんですか?」


 美味いんだぞ? おでんのこんにゃく。

 俺は何なら卵、大根、餅巾着に次ぐ四番目に好きだし。


「いやまぁ……」

「たこ焼きの時は食べたが、あの時は見えなかったからな」

「見た目が少し悪いのと、そもそも何が原料なのか分かりませんし……」

「色も見た目も全部が未知数じゃからな」


 ほーん? そんな事言いなさる?

 よーし、だったらお勉強タイムといこうじゃあねぇの!

 食に関して変態と言われる日本人の執念の結晶。

 こんにゃくの作り方を教えてやるぜ!

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