第148話 そんな顔しなくても……

「……なぁ」

「はい」

「これはここまでして食べるものなのか?」


 違う!!

 俺はただ、四人にこんにゃくの事を知って欲しくて!!

 こんにゃくの作り方の動画を見せただけじゃないか!!

 なのになぜ! こうして疑問をぶつけられているんだ!?


「でも、美味しいですよ……?」

「ほぼ栄養価がない、というのがまた……」

「そもそも、毒性が強いから食えんと普通は判断するじゃろうに……」

「生では食べられないからと、乾燥して粉末化して練って毒性を中和する物と一緒に煮沸して固めてようやく食べられるようになります、では割に合いませんわ」

「私なら食うのを諦める」


 とうとうエルフにすら食べるのを諦めるとか言われる始末だし。

 というかラベンドラさん? あなたは年単位で食材探し求めてたんでしょ?

 だったらちょっと加工するくらいいいじゃないですか!!

 ――ちょっとか? ちょっとだよな?


「でも、たこ焼きに入ってたのは美味しかったでしょ?」

「味云々は正直覚えとらんぞい」

「食感がアクセントになっているとは感じましたけど……」

「こんにゃくを味わったかと言えば違うだろうな」

「……よし、食べてみよう」


 お! ラベンドラさん! そうだよな! そうこなくっちゃな!!


「ふむ……。プルプルとした食感はたこ焼きの時と変わらないが、確かにおでんのつゆが染みてて美味い」

「でしょ!?」

「だがまぁ……なんと言うか。――他の食材を押しのけてまでこれを食うかと言われると……」


 むぅ……。

 あまり評価されてないな……。

 こんにゃく……美味しいのになぁ。

 俺は好きなのになぁ……。


「む、意外と酒に合うのぅ」

「まぁ、珍しい触感ですし、一切食べようと思わないわけではありませんわね」

「こんにゃくには濃い味付けの方が合いそうな気はするな」


 他の三人も、とりあえず試す、みたいなノリで食べてはくれたよ。

 うん、食べられないとか、嫌いってわけじゃないんだよな。

 ただ、他の物ほど食いつかないってだけで。

 ちくしょう、こうなったら今度味噌田楽でも作ってやるぜ。

 こんにゃくの美味しさを四人に教えてやるんだ!


「すまないカケル、これの作り方を教えてくれ」


 なんて意気込んでる俺にラベンドラさんが持って来たのは一口食べた跡のあるかまぼこ。

 練り物、美味しいよね。

 板に付いた状態のかまぼこをそのまま齧る。これ、俺が子供のころの夢ね。


「それは魚をすり身にして蒸したものですね。ちなみにこれも魚のすり身で、こちらは焼いたものになります」


 さっきとは逆にちくわを探し当てて俺がパクリ。

 うん、美味い。

 キュウリやチーズをちくわに詰めた奴も美味いけど、俺はちくわはおでんが一番美味いと思ってる。

 なんと言うか、ちくわの持ってるポテンシャルを余すことなく発揮してる気がするんだ。


「魚をわざわざすり身に?」

「丸のまま一匹をすり身にするんじゃなく、色々と加工して残った部分を集めてすり身にするんです。捨てる所を減らすため、的な」

「なるほど……確かにすり身にすれば元の大きさや形は関係なくなるな」


 ラベンドラさん、滅茶苦茶メモしてる。

 こりゃあ向こうの世界でも練り物が作られちゃったりするのかな。


「あら? これだけ何か雰囲気が違いますわね?」


 と、リリウムさんが引き当てたのはロールキャベツ。

 まぁ、和食ではないですからね、それ。

 でも美味しいんで、どうぞどうぞ。


「――っ!! 外側の野菜がつゆを吸って、噛んだ瞬間にジュワッと溢れてきますわ!!」


 そうそう、ロールキャベツと言えばそれよ。

 外側のキャベツが汁を吸うんだ。

 だから、コンソメスープで煮込んだりすると美味しいんだよねぇ。

 ポトフとかに入れても美味い。


「中にはお肉が入っているのですね! 美味しいですわ~!!」


 ちなみにリリウムさんのこの言葉がよーいドンの合図。

 三人が一斉にロールキャベツを目がけて手を伸ばします。

 マジャリスさん、やや出遅れたか、位置が悪い。

 さぁ! 最初にロールキャベツを手にするのは誰だぁ~~!!?


「確かに、外の野菜が吸った汁が美味い」


 第一コーナーを制したのは、ラベンドラさんだぁっ!!

 先行で感想を伝えていくぅ!!


「本当に様々な食材に合う料理なのだな」


 なんと二番手にマジャリスさんが来ている!

 外からマクって来た~!!


「牛スジが美味いわい」


 えー、なお、ガブロさんは途中から牛スジに向けて斜行したため除外となります。

 というかあんたほとんど一人で牛スジ食いやがったな!!?

 どんだけ気に入ったんだよ!!

 ま、まぁ、牛スジはおでんにそのダシを吐き出す事も役割だから俺はいいけど。

 他の三人が気が付かない内に皿に積まれた竹串を処理しなさいな。


「ソーセージも美味い」

「こちらのソーセージは皮が薄いな。ナイフも無しで食べられる」

「中から溢れる肉汁も凄いですわ。どんなお肉を使っているのでしょうね」


 で、ソーセージは向こうの世界にもあるみたいです。

 そりゃあるか、ソーセージくらい。


「『――』の身も一層美味いな」

「その身の汁とおでんのつゆが合わさって口の中に溢れる……」

「かなり柔らかく仕上がっているな。ほぼ力を入れずに噛み切れるぞ」

「これも~酒に~合うぞ~~い」


 と、ニンテイタコカイナも好評です、と。

 あとガブロさん? 食事中は行儀が悪いので歌わないように。

 んで、力を入れずに噛み切れるは流石に盛り過ぎ。

 と思って俺も食べてみたらですよ!?

 本当にサクッっと噛めちゃった。

 え? 俺何かしたっけ? と思ったけど、前に本で、タコを柔らかく煮るには大根と煮る、みたいな調理をしててさ。

 煮込んだね、大根と。

 と思いまして。

 もちろん、普通のタコならこんなにならないんだろうけど、なにせ相手はニンテイタコカイナ。

 異世界食材と、現代食材のかけ合わせの結果なんだろうね。


「ふぅ……美味しかったですわ」

「色々な食材があると楽しさと満足感が格別だな」

「新しい発見もあった。今日の収穫は魚のすり身の加工品だな」

「新しい酒も仕入れたからな。ちと知り合いの醸造所に連絡を入れとくわい」


 と、四人が満足気にお茶を飲み干した。

 そこでね? 恐る恐る鍋の中を覗き込んだわけ。

 無くなってたわ。奇麗さっぱり。

 汁しか残ってなかった。

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