第149話 過去を知る者

 ふわぁ~。

 気持ちのいい休日の朝ですわね~。

 眠い目擦って歯磨きしたら、朝ご飯の準備ですわぞ~。

 昨日具を全て食われたおでんの残りつゆ。

 こいつを使って美味しい朝ごはんを作りませう。


「リンゴとはちみつ……」


 パッケージに描いてあるものをリズムに乗せて口ずさみつつ、取り出したるはカレールー。

 今日の朝ご飯は、おでんつゆをベースにした和風カレーにござい。

 あの四人にカレーを振舞った時は鍋の素スープを使ったけど、今日はこうして残ってるし。

 大根とか牛スジからいいダシが出てるんだよ。

 おでんのつゆからしか出せないうま味がある。

 というわけでつゆに少し水を足して薄め、カレールーを投下。

 あとはカレールーが溶けたら完成。

 炊き立てのご飯をよそって、納豆二パックを開封してかき混ぜまして。

 それをご飯の上にぶちまけ、カレールー。

 本日の朝ご飯は納豆カレーなり。



「にしても、農業ギルドの持つ栽培用ダンジョンは凄いな……」

「ついこの間渡した稲が、もう食用として出回っているとはな……」

「あのダンジョン内だと、植えた作物の成長速度が通常の三倍ですものね」

「そこに成長促進のポーションやらを使うんじゃろ? ノーム族の農業に関する情熱は凄いわい」


 おでんの残りつゆとカレールーを翔から受け取り。

 異世界に戻ったリリウム達は、王都で米が売られている事を発見。

 早速購入し、王都を離れ平原で、カレーと共に調理中。

 広範囲に結界を張り、カレーは既に完成。ご飯ももうすぐに炊ける……と言った頃合いで。


「美味しそうな匂いですね」


 不意に、四人の誰でもない声が響く。


「「――っ!?」」


 あまりに突然で、しかも感知すら出来ず。

 声が届く範囲まで接近された事実から、三人が警戒をする中。

 ただ一人、リリウムだけが。


「懐かしい声ですわね。お元気でして?」


 そう、声の主へと問いかける。


「ええ、私は変わりなく。リリウムさんも息災の様で」


 そして、声の主がそう答えたことで、リリウムが他の三人へ合図。

 その合図を持って、警戒を解いた三人は。

 声の主、大臣職であることを示す赤色の、装飾付きのローブを纏ったエルフに向けた武器を下げ。

 そっと、リリウムへと体を寄せる。


「知り合いか?」


 というガブロの問いに、リリウムが答えるよりも早く。


「この国の大臣職を務めてます。『ストレプト・カーパス・ソクサルム』と申します。どうぞお見知りおきを」


 そう、自己紹介をし。


「さて、特に隠す事も無いので早速本題に行きたいと思ったのですが……」


 何やら気になることがあるのか、チラリとラベンドラの方へと視線を投げると。


「とても興味をそそる匂いが気になりまして……。ぜひ、ご相伴に預からせてもらえませんか?」


 と、カレーを指差して言うのだった。



「複雑なうま味と舌先を刺激する香辛料の辛み、それらをまとめているうっとりとするようなまろやかさ……。これがカレーという食べ物ですか」

「そう言えば、カレーパンは献上しましたけど、こうしてカレーライスとして食べさせた事は無かったですわね」

「と言っても、こちらの米はやはりまだ美味さに欠けるな。……もっと言うならば、米が細い」

「と言うと、あなた方がご存じの米はこれよりも美味しい、と?」

「もっちりとしていて粘り気があって、カレーに滅茶苦茶合うんじゃわい」


 ソクサルムは自分用によそわれたカレーを一口含むと、目を閉じ、自分の記憶からカレーの味や刺激に近い素材を探し。

 わずか数秒で、その行為を停止。

 無理、と判断し、全力でカレーを楽しむことに。


「このカレーもですけど、もう少しレシピを公表して頂けませんか? もちろん、これまでのレシピの公開や新しい調理法の発見。さらには稲などの新たな食材の発見と、同じBランクの冒険者たちに比べて実績は群を抜いてはいるんですが……」

「我々にも事情があってな。これでも、自分たちで問題ないと判断したものは、出し惜しみなく公開しているつもりだが?」

「あ、はい。それは間違いなく。ですが、やはりまだまだ隠してるのではないか? と私も下から突き上げられる立場でして……」

「あら、貴方らしくありませんわね? それとも、私に隠し事でもするつもりなのでしょうか?」


 と、カレーを楽しみつつ、もっと様々なものを公開しろ、と言ってきたソクサルムに。

 リリウムが口を挟む。


「いえいえ滅相もない。……我らが王が、この間献上頂いたプラムワインの製法を知りたがっておりまして。そちらのレシピを頂くことは?」

「……残念だが、あれは我々が作ったものではない」

「ほぅ。では作成者が他に居る、と?」

「居るかどうかで言えば居るじゃろうが、今も生きているかは分からんぞい」

「……どういう事でしょうか?」

「場所は伏せるが、ダンジョン内で見つけた飲み物だ。誰が作ったか、や、どうやって作るのか、何を使うのかすら俺らは知らない」

「――そういう事ですか」

「だが、再現は可能だと考えている」


 ラベンドラがそう言うと、ソクサルムは表情を輝かせ。


「本当ですか!?」


 とラベンドラに詰め寄って。


「もし再現が出来たらすぐに連絡をください! リリウムさんを経由して頂ければすぐにでも伺います!」


 そう言った後、


「その際には、国が保管する魔物の素材や、各ダンジョンの情報。あとは……そうですね、国にある食材なんかも自由に持って行ってもらって構いません」


 と、梅酒の再現の報酬を明示し。

 それに顔を見合わせるマジャリスとラベンドラに目を細めると。


「報酬も魅力的じゃが、わしはもっと他の事も聞きたいぞい」


 ズイっと、ソクサルムの前に出るガブロ。

 そして、


「なんでしょうか? 答えられる範囲であれば答えますが?」

「リリウムとはどんな関係なんか、話してもらうぞい」


 と、切り出すのだった。

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