第149話 過去を知る者
ふわぁ~。
気持ちのいい休日の朝ですわね~。
眠い目擦って歯磨きしたら、朝ご飯の準備ですわぞ~。
昨日具を全て食われたおでんの残りつゆ。
こいつを使って美味しい朝ごはんを作りませう。
「リンゴとはちみつ……」
パッケージに描いてあるものをリズムに乗せて口ずさみつつ、取り出したるはカレールー。
今日の朝ご飯は、おでんつゆをベースにした和風カレーにござい。
あの四人にカレーを振舞った時は鍋の素スープを使ったけど、今日はこうして残ってるし。
大根とか牛スジからいいダシが出てるんだよ。
おでんのつゆからしか出せないうま味がある。
というわけでつゆに少し水を足して薄め、カレールーを投下。
あとはカレールーが溶けたら完成。
炊き立てのご飯をよそって、納豆二パックを開封してかき混ぜまして。
それをご飯の上にぶちまけ、カレールー。
本日の朝ご飯は納豆カレーなり。
*
「にしても、農業ギルドの持つ栽培用ダンジョンは凄いな……」
「ついこの間渡した稲が、もう食用として出回っているとはな……」
「あのダンジョン内だと、植えた作物の成長速度が通常の三倍ですものね」
「そこに成長促進のポーションやらを使うんじゃろ? ノーム族の農業に関する情熱は凄いわい」
おでんの残りつゆとカレールーを翔から受け取り。
異世界に戻ったリリウム達は、王都で米が売られている事を発見。
早速購入し、王都を離れ平原で、カレーと共に調理中。
広範囲に結界を張り、カレーは既に完成。ご飯ももうすぐに炊ける……と言った頃合いで。
「美味しそうな匂いですね」
不意に、四人の誰でもない声が響く。
「「――っ!?」」
あまりに突然で、しかも感知すら出来ず。
声が届く範囲まで接近された事実から、三人が警戒をする中。
ただ一人、リリウムだけが。
「懐かしい声ですわね。お元気でして?」
そう、声の主へと問いかける。
「ええ、私は変わりなく。リリウムさんも息災の様で」
そして、声の主がそう答えたことで、リリウムが他の三人へ合図。
その合図を持って、警戒を解いた三人は。
声の主、大臣職であることを示す赤色の、装飾付きのローブを纏ったエルフに向けた武器を下げ。
そっと、リリウムへと体を寄せる。
「知り合いか?」
というガブロの問いに、リリウムが答えるよりも早く。
「この国の大臣職を務めてます。『ストレプト・カーパス・ソクサルム』と申します。どうぞお見知りおきを」
そう、自己紹介をし。
「さて、特に隠す事も無いので早速本題に行きたいと思ったのですが……」
何やら気になることがあるのか、チラリとラベンドラの方へと視線を投げると。
「とても興味をそそる匂いが気になりまして……。ぜひ、ご相伴に預からせてもらえませんか?」
と、カレーを指差して言うのだった。
*
「複雑なうま味と舌先を刺激する香辛料の辛み、それらをまとめているうっとりとするようなまろやかさ……。これがカレーという食べ物ですか」
「そう言えば、カレーパンは献上しましたけど、こうしてカレーライスとして食べさせた事は無かったですわね」
「と言っても、こちらの米はやはりまだ美味さに欠けるな。……もっと言うならば、米が細い」
「と言うと、あなた方がご存じの米はこれよりも美味しい、と?」
「もっちりとしていて粘り気があって、カレーに滅茶苦茶合うんじゃわい」
ソクサルムは自分用によそわれたカレーを一口含むと、目を閉じ、自分の記憶からカレーの味や刺激に近い素材を探し。
わずか数秒で、その行為を停止。
無理、と判断し、全力でカレーを楽しむことに。
「このカレーもですけど、もう少しレシピを公表して頂けませんか? もちろん、これまでのレシピの公開や新しい調理法の発見。さらには稲などの新たな食材の発見と、同じBランクの冒険者たちに比べて実績は群を抜いてはいるんですが……」
「我々にも事情があってな。これでも、自分たちで問題ないと判断したものは、出し惜しみなく公開しているつもりだが?」
「あ、はい。それは間違いなく。ですが、やはりまだまだ隠してるのではないか? と私も下から突き上げられる立場でして……」
「あら、貴方らしくありませんわね? それとも、私に隠し事でもするつもりなのでしょうか?」
と、カレーを楽しみつつ、もっと様々なものを公開しろ、と言ってきたソクサルムに。
リリウムが口を挟む。
「いえいえ滅相もない。……我らが王が、この間献上頂いたプラムワインの製法を知りたがっておりまして。そちらのレシピを頂くことは?」
「……残念だが、あれは我々が作ったものではない」
「ほぅ。では作成者が他に居る、と?」
「居るかどうかで言えば居るじゃろうが、今も生きているかは分からんぞい」
「……どういう事でしょうか?」
「場所は伏せるが、ダンジョン内で見つけた飲み物だ。誰が作ったか、や、どうやって作るのか、何を使うのかすら俺らは知らない」
「――そういう事ですか」
「だが、再現は可能だと考えている」
ラベンドラがそう言うと、ソクサルムは表情を輝かせ。
「本当ですか!?」
とラベンドラに詰め寄って。
「もし再現が出来たらすぐに連絡をください! リリウムさんを経由して頂ければすぐにでも伺います!」
そう言った後、
「その際には、国が保管する魔物の素材や、各ダンジョンの情報。あとは……そうですね、国にある食材なんかも自由に持って行ってもらって構いません」
と、梅酒の再現の報酬を明示し。
それに顔を見合わせるマジャリスとラベンドラに目を細めると。
「報酬も魅力的じゃが、わしはもっと他の事も聞きたいぞい」
ズイっと、ソクサルムの前に出るガブロ。
そして、
「なんでしょうか? 答えられる範囲であれば答えますが?」
「リリウムとはどんな関係なんか、話してもらうぞい」
と、切り出すのだった。
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