第150話 閑話:そんな時代もあったねと
「私は別に構いませんが……話してしまっても?」
と、ガブロからの問いに答える前に。
リリウムへと確認を取ったソクサルムは。
「構いませんわ」
というリリウムの言葉を受けて話し始める。
「とても昔ですが、私たちはとある国に仕えていました」
「リリウムが仕えてた国っちゅーと……」
「既に滅んだが、かなりの大国であったと聞いている。……ついでに、武力国家であったと」
「その通りです。その国で、軍師をしていたのが彼女、リリウムさんで」
「ソクサルムは参謀だったのですわ。私はもっぱら戦争の準備。物資の調達、資金の確保」
「転移魔法を駆使しての兵站は本当に助かりましたね。リリウムさんが居なければ、あの国はそもそも機能していませんでしたから」
二人の口から語られるのは、二人が共に国に仕えていたころの話。
四人とパーティを組むことになる、ずっと過去の話である。
「どれだけ正確で、完璧な策を練ろうと、それを実行できる物資がなければ絵に描いた餅。しかも、転移魔法の理不尽な点は奇襲や略奪にも効果的な点です」
「こちらは離れたところから奇襲出来ますし、相手の奇襲は察知した瞬間に部隊ごと転移すればいいだけですもの」
「そのおかげか、リリウムさんは特に他国から恐れられていましたね。ついた二つ名が『理不尽』でしたし」
「あら、軍師として『大国の身体』というのもありましたわよ?」
「それは私の『大国の脳』と合わさってのものでしょう?」
そうして出てくる話は、話を聞く三人にため息をつかせるような内容であり。
つまるところ、そりゃそうだろ、としか言えないような内容で。
「とまぁ、そんな感じで昔一緒に仕事をしていた仲ですね」
「そう言えば国が滅びてから話を聞かなくなりましたけど、何をしていましたの?」
「まぁ……色々してましたが。……しいて言うなら、ギャンブル……ですかねぇ」
「ギャ、ギャンブル?」
その立場や表情からは想像もつかなかった単語に、思わずガブロが口を挟む。
「ええ。大国が滅びてその利権を奪い合う周辺国。当然、治安は荒れます。だからこそ開かれる鉄火場がございましてね」
「確かに面白そうな話ですわね。……それで? 賭けたものはお金などではないでしょう?」
「ふふ、想像にお任せします。ただ、そのおかげでこうして大臣職なんて肩書にまでなってしまいましたねぇ」
そこまで来て、三人は理解する。
ソクサルムは賭ける側ではなかったことを。
そして、彼自身が、巧みな話術や大国で培ったあらゆる知識、更には大国にあったであろう隠し財産等。
彼しか知り得ない情報を駆使し、自身の価値をどんどん高めていったのだ。
どの国が彼を買うか。そしてその国は、そこからどこまで大きくなるか。
自身が景品になる事で、あらゆる国の反応を、交渉を、更には懐具合や交渉材料すらも勘定し。
恐らく、更に裏から彼自身が手を回し、自分にとって一番理想な国が自分を競り落とすように。
その結果が、大臣職なのだ、と。
「というより、国が滅びてからの話ならばリリウムさんの方が聞きませんでしたよ? 何をしてたんです?」
「継戦が不可能とあなたからの連絡が来て、全部隊を国に転移させた後の話かしら?」
「そうです。その後、あなたは忽然と姿を消しました。どちらに行かれてたので?」
「……そうですわね。里に帰っておりましたわ。里の長老から丁度戻って来いと連絡が来たもので」
そして、リリウムはカレーを食べ終えて。
しれっとおかわりを要求。
それに続くようにソクサルムもお代わりを要求し。
ラベンドラから皿を受け取ると、また口を開く。
「長老には転移魔法の改良をお願いしていましたの。あの魔法、便利でしたけど詠唱や大がかりな魔法陣が必要だったでしょう?」
「それはそもそもどの魔法にも言える事では?」
「それはそうなのですが、やはり煩わしくて……。で、無詠唱でも発動出来る様にしてくれとお願いしていましたの」
「それが出来た、と?」
それまで静かに聞いていたマジャリスが、スッとラベンドラに皿を差し出し。
無言で受け取りおかわりをよそったラベンドラは、ガブロを確認。
ゆっくり頷いたガブロから皿を受け取り、ご飯をよそい。
自分もしっかりおかわりをして、再度話に耳を傾ける。
「魔法陣はどうしても必要でしたので、そこは工夫して。あとは、ほとぼりが冷めるまで大人しくしていましたわ」
「で、ほとぼりが冷めたから冒険者に?」
「まぁ……それもありますけど」
「けど、なんです?」
「美味しいご飯が食べたくなりましたの」
「ああ、なるほど」
明らかに三人の肩から力が抜けたが、それを聞いたソクサルムは納得した様子であり。
「ふぅ。美味しかったです。ご馳走さまでした」
「お粗末様でした」
「では私は城に戻ります。プラムワイン、再現出来たらいの一番にお知らせください。……あと、カレーも王様は食べたい様子なので、次に作る時は献上して頂けると助かります」
「善処しよう」
「では、『夢幻泡影』の皆さま。あなた方のこれからの活躍、心より願っていますよ」
そう言ったソクサルムは、立ち上がり、ペコリとお辞儀をして歩き出し。
「カレーはまだ残ってるぞ?」
という言葉に足を止め、王への献上品として受け取りに戻り、今度こそ城に向けて歩き出す。
その道中、
「なんだ、やっぱり変わっていませんでしたね」
先ほどの話を思い出しながらそう呟いたソクサルムは。
さらに過去、初めてリリウムが国に仕えることになった日の事を思い出す。
「私、そんじょそこらのエルフとは違う、ハイエルフという種族ですの。美味しい料理が食べられる国なら仕えてもいいと国を巡っているのですけど、どこもイマイチなのですわ。さ、この国で一番美味しい料理をお出しなさい。美味しければ、この私、『ニンファエア・リリウム』が力を貸しますわよ?」
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