第392話 それでも僕はやってない

 ……ふう。

 ジャーキーの下ごしらえが終了。

 後はラベンドラさん達に時間跳躍をして貰って、ゴーレム君に燻製して貰えれば完成。

 そして、ベーコンの代わりにしようと思っている燻製ヒツジナゾニクも完成しましたわぞ~。

 しっかり燻されていい塩梅。

 こりゃあ明日のゴーレム君のご飯は少しだけ豪華にするか。

 ……と言っても、丸い固形の肥料を追加してやる事しか出来ないけど。


「邪魔するぞ」


 なんて思ってたら四人が登場。

 何やらお疲れ気味?


「疲労困憊ですか?」

「色々とあり過ぎてな……」


 との事で、ドラゴンエプロンを着たラベンドラさん以外は、テーブルにぐったりと突っ伏して。

 マジャリスさんに何があったかを聞いてみる。


「何があったんです?」

「この世界の土……土壌で育ったマンドラゴラに出くわしたんだがな? これがすばしっこくて耐久力もある」


 ……もしかして俺のせいか?

 俺が神様に言っちゃったから?


「しかも、どこに居るのか探知魔法で探る事が出来ない。強い、というよりは厄介な相手だった」

「ただ、その厄介さが目を引きまして、自然に土壌の方へと目を向けさせることは出来ましたわ」


 まぁ……あれだ。

 元々の目的はその土壌を持ち帰る事だったし、そこに持って行くまでの不自然さが無くなったのならばまぁ……。

 つまり俺のせいじゃない。いいね?


「ちなみにカケル。そのマンドラゴラというのがこれなんだが……」


 と言ってラベンドラさんが見せてきた物。

 それはまさしく……。


「トリュフ?」


 世界三大珍味で有名な、あのキノコそのもの。

 色は黒いし、恐らくは黒トリュフ。

 ただ残念ながら、実物を見るのは初めてなんだなこれが。

 パスタソースに混ぜられているのは食べたことあるけどね。


「おお! やはり知っていたか!?」

「我々はこの食材は初見なのだ。ぜひレシピを知りたい!!」


 あー……そういう事か。 

 確かにこっちの世界から持ち込んだ土壌で育ったマンドラゴラだもんね。

 そりゃあ初見か。

 ――ん? マンドラゴラ?

 お前キノコじゃろ? いつの間に植物の括りに入り込んだんじゃわれ。


「俺が知ってるレシピだと、それをメインに据えたものはありません。香りが独特で、その香りをアクセントにする使い方が一般的ですね」

「……ほう?」

「クリーム系のパスタに薄く削って散らすとか、ポタージュスープに仕上げで乗せられる程度です」

「ふむふむ」

「あ、あと、肉との相性がいいはずなので、肉を焼いた時にいいかもですね」


 俺が持つトリュフの知識ってこんなもんよ。

 ……あ、あともう一つあった。


「後は、細かく砕いて塩と一緒に混ぜて、フライドポテトなんかにかけると美味いです」


 トリュフパウダーって言うの?

 それにした状態でポテトにかけて出されたことがあってさ。

 それはめっちゃ美味しかった。

 あとビールが進むんだよね。


「……腹が減ってきたな」

「ですわね」

「今日のご飯はアヒージョですよ」


 さて、小粋かどうかはわからないトークで疲労困憊なみんなに空腹を思い出して貰えたので。

 これからは料理の説明でより空腹にしていきますね。


「アヒージョ、とは?」

「オリーブオイルにニンニクと鷹の爪の香りを移して、そのオリーブオイルで色んな具材を煮る料理です」

「……絶対美味い奴だ」


 というわけで早速取り掛かりますわよ。

 まずは小鍋を二つ用意。

 片方は肉、もう片方は魚介類のアヒージョにする。

 鍋にオリーブオイルを薄く敷き。

 そこにニンニクをスライスして一片。

 さらに包丁の腹で潰した一片を入れ、細かく刻んだ鷹の爪を一本入れてっと。

 こいつを香りが移るまでしっかりと加熱。

 ……その間に、


「ちなみに今の状態で時間跳躍ってお願い出来ます?」

「……食後まで、待って欲しい」

「了解しました」


 ダメか。

 まぁ、見たまんま疲れているだろうし。

 しゃーなし。


「この料理は入れる具材は制限が無いのか?」


 と、ここでこれから入れる材料を確認したラベンドラさんからの質問が。


「ですね。肉でも魚介でも大体美味いです。ただ、魚介と肉は分けた方が無難ですね」

「なるほど」


 にしてもトリュフかぁ……。

 パスタソースに使うとして、他には……。

 あー、シイタケのクリームポタージュとか作って、それに混ぜてみるのはどうだ?

 絶対に美味いぞ?

 あと、ジャーマンポテトとかも美味そう。

 丁度侯爵芋と、燻製ヒツジナゾニクもあるから丁度いいな。

 明日のレシピ決まったじゃん。やったぜ。


「いい香りがしてきましたわ」


 という信頼度星五のエルフの嗅覚で、オリーブオイルに香りが移ったことを確認。

 そしたらここで追いオリーブをし、塩を少々振りまして。


「この中に具材を入れて、じっくり煮込んだら完成です」

「なるほど、香りを付けた植物油で煮込むだけか」


 ……いや、うん。

 まぁ、間違いではないよ? オリーブオイルも植物油だろうさ。

 ただなぁ、何と言うか、オリーブオイルは植物油の中でも別枠というか。

 独立しちゃってる感じだと思うの。

 翻訳魔法さん、いい感じに翻訳しといて。


「ちなみにこのオリーブオイル、具材の旨味をたっぷり含むので、シメにパスタやバゲットに付けて食べると最高です」

「ごくり」

「あと、最後に入れますけど、チーズがもう最高に最高です」

「ごくり」

「なので、煮込み終わるまでもうしばらくお待ちください」


 めっちゃ今すぐ食べたそうな顔してますけど?

 残念ながら完成までもう少しかかるんですよ。

 空腹は最高のスパイスだからね。

 我慢してね。

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