本編と関係なくただ全員でおせちを食べるだけの回

 新年あけましておめでとうございます。

 タイトル通りです。

 本編と2%しか関係がないのですが、今日どうしても投稿したい内容だったので投稿します。

 本編で戻って来てない姉貴が帰宅してるとかありますが、正月スペシャルとして読んで頂けると幸いです。

 なお、こちらは本編ではないので、本編は普段通りにこれとは別に二話投稿されます。


────────────


「新年あけましておめでとうございます」

「おめでとうございます」


 元旦、いつも通りにやって来た『夢幻泡影』に、姉貴と揃ってご挨拶。


「……何事じゃ?」


 なお、当人たちはポカンとしている模様。


「俺らの世界で暦が一周して、今日から新年なんですよ」

「……なるほど?」

「無事に一年を過ごせたから、おめでたいってこと」

「ですです」


 異世界には無い文化なのかな、新年を祝うって。


「虚を突かれたが、何となく把握出来た」

「では、今年も一年よろしくお願いします」

「こちらこそ、だ。これからもよろしく頼む」


 と、挨拶も終えまして。

 

「おせちを食べましょう」


 取り出したるは、注文していたおせち。

 四人と食べようと思って、結構奮発して買ったんだ。

 なお、その事を知った姉貴がお金は出してくれたもよう。

 姉貴様様だぜ。


「この入れ物は?」

「お正月に食べる、特別なものですね」


 早速オープン。

 ちなみにおせちって、段ごとに何が入るか決まってるって知ってた?

 一段目には黒豆とか数の子とか、祝い肴って呼ばれるもの。

 二段目には魚や酢の物など。三段目には煮付けなんだってさ。

 これ以上段が増えたらその都度細分化されていくらしい。

 俺は知らなかった……。


「この魚は?」


 早速ラベンドラさんが田作りに興味を示した。

 えーっと、なになに?


「田作りと言って、小魚を飴炊きしてごまを散らした料理ですね。田んぼの肥料にこの小魚を使ったら豊作だったので、豊作祈願との事です」

「なるほどのぅ。つまりは願掛けも兼ねた料理っちゅーわけじゃな」

「それでしたらこちらの世界にもいくつかありますわね」

「だが、豊作祈願の願掛けは聞いたことが無い。大体が死なないように、生き延びれるようにと祈るのが関の山だな」


 ……異世界、そういうとこあるよな。

 神様? もう少しどうにかならなかったんですか?


(何でもかんでもわしが決めとるわけでもないしのぅ……)


 さいですか。


「ちなみにこちらの豆は?」

「煮豆ですね。甘く煮てあって、皺が出ないように煮るのは大変なんだそうです。意味としてはマメに働けるように、とかかってるみたいです」

「甘いのか!?」


 甘いの大好きマジャリス君が速攻で食い付いたな。

 だがまだだ、


「甘いのならこれもそうです。栗きんとんで、色から財宝を連想させるため金運アップ。あとは昔から『勝ち栗』と呼ばれて勝負事に勝つという縁起物でした」

「栗!!」


 スイーツで栗の美味しさは宣伝済みだからな。

 これにはマジャリスさんも栗きんとんを独り占め――させるか!!


「俺も好きなんで、栗きんとん」

「ぶぅ」


 ぶぅじゃない。

 ちなみにおせちの説明はおせちに付いてた説明書を読み上げてるだけだったり。

 おせちそれぞれがどんな意味だとか覚えてないのよ。


「この黄色い巻かれたものは玉子焼きでしょうか?」

「伊達巻と言って、卵ももちろんですけど魚のすり身や出汁を混ぜて甘く味付けしたものですね。巻物に見た目が似ている事から勉学や知識に関する縁起物です」

「研究者気質なエルフにピッタリだな」

「じゃあガブロさんにはこれですね」


 と俺が指差したのは昆布巻き。

 

「それは?」

「昆布巻きでして、喜ぶに通じることから縁起物です」

「……それが何でわしに?」

「お酒によく合う料理ばっかりなんですよ、おせちって」


 と言いながら日本酒をドン!!

 この時期によく見る金粉入りのやつ。

 ちなみに金粉は入ってても味とかには影響しないらしい。

 まぁ、溶けないしね、金って。

 でも見た目が華やかに変わるから必要である。


「それは確かに『喜ぶ』じゃな!!」


 分かってくれたようだ。

 と言うわけで日本酒をどうぞ。


「残りは食べながら説明しますよ」


 お箸を手渡しそう言って。


「「いただきます!!」」


 全員で手を合わせ、合掌。


「田作り!!」


 と真っ先に田作りへと手を伸ばすマジャリスさん。


「……甘くはあるが魚の香ばしさとほろ苦さ、ゴマの風味が入り混じっていて面白い」

「その苦みが口に残ってる時に日本酒をクイッと」

「――ほう。日本酒の甘さが引き立てられて美味い」

「この伊達巻、凄く美味しいですわ!! 噛むとジュワッと溢れる汁が甘くってとても凄く美味しいですわ!!」

「なぬっ!? 俺も一つ!!」

「魚のすり身が入っているおかげがふっくらしっとり、それでいて独特の食感になっているな」

「黒豆も美味いぞい」


 それを皮切りに、みんな思い思いにおせちへと箸を伸ばす。

 ――で、姉貴? なんでそんなに静か……ああ、カニの殻剥き失敗して箸でほじくってるのか。

 不器用だなぁ……。


「エビやカニも縁起物か?」

「です。エビは髭が長い事、身体が曲がっている事から長寿の象徴、あと紅白の色は縁起がいいとされています」

「確かに人間は年を取ると体が曲がっていくな」

「エルフは違うんですか?」


 思えばエルフの長老とかで腰を曲げたキャラって思いつかないかも。

 俺が知らないだけだと思うけど。


「エルフは年を取ると肌に皺が増え、腕や体が細くなる」

「枯れ木と一緒じゃわい」

「ちなみにドワーフは加齢で見た目はそこまで変わらん。……その代わり、物忘れが激しくなる」

「最後は自分の名前も覚えとらんとかじゃな」


 ……人間以外の種族の加齢も面白いもんだな。

 どれがいいとは一概に言えないだろうけど。


「ん~、伊達巻が美味い」

「昔から好きだもんねぇ、翔」

「俺個人用に二本買ってるからな、伊達巻」

「それ言うなら私だってきんとんを自分用に買ったけど?」


 ふっ、墓穴を掘ったな姉貴め。

 マジャリスさんの前でそんな事を言ってみろ、今にねだられるぞ。

 ――あれ? 来ないな?


「この黒豆……美味すぎる」


 ……バカなっ!? あのマジャリスさんが黒豆に夢中で『きんとん』ってワードに反応しなかっただと!?

 というか、どれだけ黒豆気に入ったんだよ。


「カケル、この魚は?」

「鯛ですね。表面が赤いので縁起がいいのと、名前が『めでたい』に掛かるので」

「ではこちらの魚は?」

「ブリですね。体の大きさで名称が変わる出世魚で、その事から出世を祈る縁起物です」


 なお、ブリの幼体からの名前は覚えてない模様。

 ブリはブリだろ。英語だとイエローテールで固定だぞ。


「ブリの照り焼きで飲む日本酒が美味い……」

「鯛のしっとりした身も美味いぞ。甘みもある」

「お味噌を塗って焼いた物もいけますわよ?」


 鯛とかも、ヘタすりゃこうしておせちに入ってないと食べないかもしれない。

 食べる機会があるとすれば回転寿司くらいだろうし。

 そう言えば過去に教えた塩釜焼き、鯛で作るのを知ったのが最初だったんだよな。

 確か漫画だっけな、読んだの。


「ん、酸っぱ」

「なます、ですね。俺らの世界のサラダって所でしょうか」

「これは縁起物ではないんかい?」

「縁起物ですよ。材料の人参も大根も土中に根を張るので、根付く、土台になると言った意味があるそうです」

「ふむ。ではこれは?」


 そう言って指を刺されたのは数の子。


「それは魚卵なんですけど、まんま子孫繁栄を願う食べ物です」

「なるほど、子孫繁栄か」


 ガブロさんがそう呟いた瞬間、俺と姉貴で揃って顔を背ける。


「……言わない方がいいのだろうな」

「ですわね」


 ……世の中には触れない方がいい事もあるのだよ。


「最後は煮物ですの?」

「色んな材料を一緒に煮ることから、夫婦円満、家族が仲良く、などの意味がありますね。あと使われている蓮根が穴が開いている事から見通しが良い、に繋がるとか」

「なるほど?」

「まさしくこの場を表しているようだ」

「言い得て妙じゃわい」


 と言ってみんな煮物を皿に取り分けパクリ。

 何だかんだ、こうして囲んで食べるおせちって美味いな。


「ふぅ、食べた食べた」

「そろそろシメ作ってくる?」

「よろ~」


 お腹をポンポンと叩いた姉貴に声をかけたら、シメを所望された。

 うちのおせちのシメは、お雑煮に餅の代わりに蕎麦を入れた奴なのよね。

 年越し蕎麦をそのまま年越ししてから食べるっていう。


「皆さんも食べますよね?」

「もちろん!」

「頂くぞい」


 お酒も飲んでるし、蕎麦でシメってのもいいものよ。


「あ、あと姉上殿のきんとんも一緒に出して貰えると助かる」

「えっ!?」


 ……聞こえてたんかい。

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