第376話 目と目が合う~
「うぼぉあぁぁぁ……」
ピザ生地を持って庭に行く途中、奇妙な声を聴いた。
……と言うか、その声って庭から聞こえてきた気がするんですけど?
んで、ガブロさんでもリリウムさんでもマジャリスさんの声でもない。
――とすると?
「ゴーレムの準備は出来ているようだな?」
……ゴーレム?
いや、あの、作るって言ってたの、窯。
ゴーレム、話題にも出てない……。
とにかく庭に出てみると……。
「準備は終わってますわよ?」
「よし、火をつけろ」
デン!! と、庭の真ん中に某ヘドロポケモンみたいなのが居るんですけど?
流石にヘドロじゃなく、主成分は泥みたいなんだけど……。
あと、ちゃんと顔があって、その顔の下にかまくらみたいな空洞がある。
……まさかこれが窯とか言わないよね?
ゴーレムって言ってたしね。
「ピザの準備は済んだのか?」
「俺とカケルを何だと思っている?」
で、そんな泥ゴーレムの後ろからマジャリスさん登場。
……顔、泥で汚れてますよ?
ほら、鼻の頭の所。
「普段より一回り大きいな」
「一度にたくさん焼けた方がいいだろう?」
う~ん……考えないようにしてたけど、やっぱりこの泥ゴーレムを窯として使うみたいだなぁ……。
なんと言うか、馴染み無さ過ぎて怖いんだよね。
ずっと俺の事見てるし、ゴーレム。
「よし、カケル。焼いていこう」
「え? あ、はい」
焼くんだ、やっぱり。
というわけでラベンドラさんが魔法でピザを浮かせて窯の中へ。
そのまま、ラベンドラさんのさじ加減でピザがそれぞれゴーレムの中に配置されまして。
「どんなピザがある?」
「まずはオーソドックスなトマトピザ。トッピングにワイバーンとこの間のハーブだ」
「あの茶色いピザはなんじゃい?」
「照り焼きピザとの事だ。楽しみにしている」
「あちらのは?」
「昨日『無頼』から譲り受けた肉と、それに合いそうなソースというカケルチョイスピザだ」
と、色々ピザの解説をしてますけどね?
俺としては、得体のしれない物というか、どんな味かわからない食べ物は口にしないって牡蠣バナナで誓ったんだ。
だから、当然のように『無頼』って人から貰ったって肉も塩茹でして味見済み。
なんと言うか、凄く癖が無くて脂が少ない上質な赤身だった。
ちょっと歯ごたえというか、食感が独特だなって感じ。
羊肉……それもマトンに近い感じだったな。
あそこまで臭くなかったけど。
で、それに合うソースって言ってたけど、普通にプルコギソースを使いました。
ヒツジナゾニクにプルコギソース、そこに玉ねぎとネギを振りまいて、チーズで包んだプルコギピザ。
普通にピザ屋さんのメニューにあったりするし、間違いないよねって感じ。
「なんかめっちゃ見てくるんですけど?」
で、未だに俺の事を見続けてくるこの泥ゴーレムさんと、今後どのようにお付き合いしていけば?
動くと目で追ってくるんだよな。普通に怖い。
「人間を見たのが初めてだから珍しいのだろう」
「耳でも動かして私達との違いを強調してみたら面白いかもですわよ?」
出来るか。
いや、耳を動かせる人も中にはいるけど、俺は動かせないのよ。
「俺、耳動きませんよ?」
「!?」
いや、そんなひと昔前の顔文字みたいな驚き方せんでも……。
Σ(・□・;)←こんな顔ね。
「わしも動かんから驚く事でもないじゃろ」
「そりゃあ、あなたはドワーフですもの」
「俺だって人間ですけど?」
もしかして、あっちの世界の人間って耳が動くのがデフォなの?
こう、耳を動かして周囲の音を拾うのが必須とか?
……あり得そうだな。
ダンジョン内では音も重要な情報だろうし、そっち方面に進化してても何ら不思議ではない。
「ちなみにもうすぐ焼けるが、この後にはシーフードピザが待っている」
「なんかもう色々と全部美味しそうですわ!!」
「ちゅーか焼き上がる匂いが最高に腹が減るわい!」
「ワイン! カケル! ワイン!」
ステイ、マジャリスさん、ステイ。
焼き上がる前にワイン渡したら飲み切っちゃうでしょ!!
その辺最近分かって来たんだからね!
「生地の薄い方が先に焼き上がりだ」
と、空中を飛んでくるクリスピー生地のピザ。
乗ってる具材は照り焼きね。
そいつが、空中で綺麗に五等分されて、俺の手元に。
魔法って便利だなぁ(思考停止)。
「早速いただこう。焼きたてが美味い」
と、熱に耐性のあるガブロさんは元より、魔法で熱耐性をどうとでも出来るエルフ三人もピザを即座に掴み。
そのままパクリ。
ザクッという固い生地の音が心地いいですわね~。
「むほっ!」
「美味い!!」
「美味しいですわ!!」
と、照り焼きが不味いわけないのでこのリアクションも納得の翔君。
まだまだピザには触れません。熱いからね。
「ソースの甘さがいい。チーズの塩味やワイバーンの旨味と合わさって最高だ」
「海苔の香りと焼けた香ばしさも最高ですわよ!」
「ピザ生地が薄いからスナック感覚で食える。美味い」
「こりゃあビールにも合うじゃろうなぁ……」
「当然、ワインにもな」
あ、いや、あの。
分かってるんですよ?
分かってるんですけど、ちょっと待ってもらっていいです?
今やっとこさ爪の先端でピザを支えれば食べられることに気が付いたんで。
――ザクッ!
……照り焼きしか勝たん!!
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