第300話 異世界食事情2

「ダンジョンって作れるんですか?」

「作れるぞい? と言っても、わしらには無理じゃがな」

「ノームという土魔法に精通した種族が居る。そいつらの高位者が複数人集まれば作れるらしい」

「現に、私たちの世界ではマンドラゴラ栽培用のダンジョンを複数作成し、様々な街に卸しておりますわ」

「マンドラゴラだけじゃあない。凶暴性が薄く、飼育しやすい魔物たちに住みやすい環境を整え、テイマー達で育てて出荷していたりもする」

「酪農とか、農業って事ですね?」


 ちょいちょい疑問に思ってたんだよな。

 異世界での食事情について。

 魔物食が基本だとして、でもそれだと地域によって食事に格差が産まれやしないか? と。

 もちろん、この日本にだって格差って程じゃないけど食事に差は出てはいる。

 北海道の魚介と沖縄の魚介じゃあ獲れる魚とか結構違いそうじゃん?

 ただ、異世界の格差はそんなものじゃなく、いわゆる高ランクの冒険者が立ち寄る街とそうじゃない街の格差ね。

 って言うのを思ってたんだけど、なんだ、ちゃんと農業とかもしてるのね。

 ……でも、牛乳とかって珍しいみたいな話もしてたような。

 あ、それが飼育しやすさが関わってるのか。

 つまりは牛乳とかを採取できる魔物は凶暴だったり?


「やっぱりカツにはソースですわ!!」

「このピリッと来る刺激と甘さがよりトキシラズの味を引き立てる!!」

「無論米にも合う!!」


 なんて俺が考えてる間に、ソースを付けての二口目を食べてらっしゃいます四人。

 待って、普通に色々聞きたい事があるから待って。


「サラッと流しましたけどテイマーって職業があるんですか?」

「あるぞい。魔物を飼いならし、食用に出来る大きさまで世話する職じゃな」

「下手なテイマーだとダンジョンから脱走させたりするが、腕の立つテイマーだとかなり上位の魔物を飼育できるようだ」

「腕の立つテイマーは貴族や王族お抱えになり、同じくお抱えのダンジョンで飼育を行っていますわよ?」

「無論、腕利きのノーム族と共にな」


 ……何と言うか、日本に居ると貴族ってあんまり聞かないからさ。

 実際どうかってのは分からないんだけども……。

 異世界の貴族、結構好き勝手してるな? 現実でもそうだったんかな?

 なんと言うか、かなり金使ってそうなイメージなんだけど……。


「そのせいかテイマーは街で派手に遊ぶし、それに憧れてテイマーを目指す者もいる」


 ただ、金は循環してそうだなぁ。

 こう、マジもんの実力主義ではあるけど。

 種族も人間だけじゃないし、産まれた時からの才能だって絶対に必要。

 この日本とは比べ物にならないくらい、人生ガチャがヤバそうだな……。

 正直、日本に産まれただけで俺はガチャ大当たりだと思ってるから、異世界に転生したいかと言われると首を振るけどね。


「……そう言えば、魚系の魔物もテイマー達が飼育してるんですか?」

「? してないが?」

「普通せんじゃろ。漁に出れば獲れるんじゃからな」


 あ、魚の養殖とかってのはやってないのか。

 ……これは俺が日本人だからの発想だろうか? 肉も野菜もやってるなら、魚もやっちゃえばいいのに。


「それに、テイマー達の飼育した魔物や、ノームのダンジョンで育てられたマンドラゴラはな、普通にダンジョンに生息する同種の魔物よりも味が落ちると言われとる」

「マジです?」

「マジだ。だから冒険者が狩って来た魔物の素材が収入として見込める訳だ」

「じゃあテイマーは要らないんじゃ……」

「冒険者からの供給が安定すれば、そうだな」

「あー……」


 それもそうか。

 下手すりゃ魔物にやられちゃうんだもんね。

 冒険者も冒険者でギャンブルみたいなもんか。

 常にサイコロで1の目が出せるなら苦労しないって感じか。

 しかもサイコロが六面とは限らないし。


「だが、それにしても魚系の魔物を飼育するという話は興味があるな」

「じゃな。カケルが口にするという事はこの世界では当たり前の事なんじゃろう?」

「まぁ、養殖という事で広がっていますけど……」

「詳しく知りたいですわね。こちらの世界で出来るかはともかくとして、知識として知っていれば今後に役立つかもしれませんわ」


 なんて身を乗り出して言って来られまして……。

 えーっとタブレット……。

 養殖、やり方っと。

 ……へー、ブリやハマチが養殖量一位なんだ。

 知らなかった。

 動画で養殖の設備を紹介してくれるみたいだな。

 これ見せときゃおとなしくなるでしょ。


「こちらが我が国の養殖になります」


 代表的というか、検索して一番上に出て来た奴だけどね。


「ふむ」

「ほほう」


 と、四人がタブレットに夢中になってる間に、俺もソースを付けてパクリ。

 ちなみに今日のソースはウスターソース。

 カツ言うても魚だしね。魚にはとんかつソースよりこっちよ。


「うんめ~……」


 トキシラズとマスタードだけでも美味いのに、そこにウスターソースの尖った塩味と後から微かに来る甘さ。

 米が進む進む。

 揚げても美味いんだね、トキシラズ。

 ……ただ、かなり身が柔らかくて、もう身は持てなくなってる。

 衣があるから辛うじて持てる感じだし、ちょっと調理時の扱いに気を付けなくちゃな食材かも。


「なるほどな」

「これならばやれそうですわね」

「漁師数人を引っ張ってくればやれそうだ。だが、我々が説得してこれをやってみようと思うものが居るかどうか……」


 ご馳走さまでした。

 なんか考えてるみたいですけど、甘いもので脳みそ解しませんか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る