第299話 ドキドキするじゃん
「……カツなのにソースはかけんのかい?」
「かけても大丈夫ですよ。ただ、結構しっかり下味付けたのと、トキシラズ自体の味が強いので最初は無くてもいいかなーって」
凄いよね。
カツにはソースって文化が根付いちゃってる異世界人。
まぁ、そこまで教育したのは俺なんですけど。
「それもそうじゃな」
ガブロさんも納得してくれたみたいだし、早速いただきましょう。
「衣はしっかりしているが、身は箸でもスッと切れる」
「衣を持てば持ち上がりますし、きっと身はフワフワでほぐれますわよ!」
という食事前の感想後に繰り出されるのは……。
「美味い!!」
「ん~~~っ!!」
「こりゃまた……美味いのぅ!!」
「美味し!! 美味し!!」
四人からの美味いのカルテット。
まぁ、知ってましたけどね?
「本当に口に入れた瞬間にふわりと広がる!!」
「旨味と甘い脂を溢れさせつつ、自身の脂でとろけるような食感!!」
「中から香る粒マスタードの風味が全体を引き締めとるな!!」
「頬が落ちそうなほど美味しいですわぁ!!」
嘘だろ……?
あのリリウムさんが慣用句を使った……?
いや、多分これは翻訳魔法さんの仕業だな。
きっとそれっぽい事をこっちの慣用句に訳しただけだ。
……徐々に日本の文化を理解してきてない? 翻訳魔法さん。
だったら、この前の味噌汁の件、理解してて欲しいんだけどなぁ。
いや、むしろそう翻訳されなかったって事は、そのまま毎日みそ汁を飲みたいっていう言葉通りの意味だったと解釈できるか。
良かった。
現代人(男性)に求婚したエルフ(男性:年齢不明)は居なかったんだね。
「あ、本当だ。口に入れた瞬間一気に広がりますね!!」
箸で一口サイズに切り、口に入れたトキシラズマスタードカツは。
歯に当たる前に、衣を割る前に自分から解れてるんじゃないかと思うほどに身が柔らかく。
その身も、適度な弾力とたっぷりの肉汁を溢れさせるおかげで、噛むのに夢中になる。
そうして、ほぼジュースと化したマスタードカツの味が残ってるうちに掻っ込む白米と言ったらもう……。
最高です。
シンプルに。
「トキシラズにマスタードは合うな」
「向こうの世界にもあるんです? マスタード」
「似たような代物ならある。ただ、それはこうして魚介とは合わせる事は無かったな」
まぁ確かに? マスタードが合う魚介類って俺はこのマスタードカツしか知らんかも。
ソースにすれば結構な魚に合いそうだけど。
「基本は肉の臭み消しとして添えられているな」
「それも、ある程度以上の値段のレストランで、ですわね」
「あ、やっぱり高いんです?」
「全体的な値段で言えばそこまで値は張らない。だが、処理や日持ちの問題でな」
「あー……なるほど?」
異世界マスタード。どうやら作るの面倒みたいです。
あと日持ちしないらしい。
……香辛料って日持ちするのが一般的では? と思うけど、異世界だしなぁ。
特別な事情がありそう。
「日が経つと風味が抜けるんじゃ」
「ただの黄色い無味クリームになる」
「……虚無?」
「見た目は変化しますわよ? 見た目だけですけれど」
賞味期限的な意味じゃなく、香辛料的な意味で日持ちしないのか。
風味が抜ける……炭酸かな? いや、現実でも風味が抜けるとかはあると思うよ?
ワサビとかさ。でもこう、数日置いといたら抜けちゃうのか……。
高級わさびの本物の香りとかの次元の話じゃない? それって。
少なくとも、チューブわさびとかでは起こらないような……。
「カケルの味噌汁は落ち着くな」
「やはりこのみそ汁だな。毎日飲みたい」
「じゃな」
……言葉通りの意味。言葉通りの意味。
というか、何故に男からしか言われん。
どうせ言われるなら、俺はリリウムさんから言われたいよ、もちろん。
「今日のお漬物、とてもご飯と合いますわね!!」
まぁ、そのリリウムさんは味噌汁よりも漬物に夢中ですけどね。
「まろやかな味じゃな。確かに飯に合うわい」
「……この漬物とみそ汁だけで無限に白米が食えるぞ」
「昨日の漬物と違い、全体的に丸いな。風味も味も、香りも」
「それがご飯に合っていますわよね。ご飯の甘みをよく引き出していますの」
……確かに俺も好きだけど、ぶらぶら漬け。過去一評判いいかもしれない。
なんと言うか、全体的に丸いって表現がしっくりくるんだけども。
こう、美味い!! って感じの漬物じゃなくてさ。
あれば食べる、気が付いたら食べてる、くらいのゆるーい雰囲気な漬物なんだよね。
で、それがご飯によく合う感じ。
あとお茶にも合う。俺が訪問してお茶と一緒にお茶請けで出てきたら、俺は惚れるね。
そんなお漬物。
「マスタードやトキシラズの味が強烈じゃから、この漬物とみそ汁の優しい味わいが良い対比になっとる」
「そのどちらでも米が進むのが最高ですわ」
「思うに、米という主食が色んな意味で万能過ぎるんだ」
「一理ある。正直な所、パンよりもはるかにいろんな料理に合うように思えるからな」
ふははー。敬えー。
日本の米は世界一ー!!
長年品種改良したり、作り続けてくれた農家の方々に感謝感謝ですわよ。
「そう言えば、異世界の米はどんな感じです?」
「段々と確立はされて来ている。今の所、米を収穫するためだけにダンジョンが作られたところだな」
……米作り専用のダンジョン? 何それちょっと詳しく。
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