第301話 びっくりしたぁ……

 というわけで、デザート――水信玄餅の登場ですわよ~。

 お皿と黒蜜、きな粉をそれぞれみんなに配りまして。

 容器に入れて冷やしてた水信玄餅を提供。


「……それが今日のデザートか?」

「ですです。こうして……」


 興味津々で見てくるマジャリスさんの前で、お皿の上で容器を押して。

 プッチン……とはいかないけど透明な水信玄餅がペトっと落下。

 ――瞬間。


「離れろ!!」


 いきなりラベンドラさんからの大きな声が耳へ飛び込んだかと思えば、ガブロさんが俺を突き飛ばし。

 その突き飛ばされた俺をリリウムさんが抱き抱え、空中へ浮遊。

 弓を構えたマジャリスさんと、短剣を取り出したラベンドラさんが見据えるは……水信玄餅。

 あの……何を……?


「ステルススライムが紛れていたか」

「探知からも逃げられる新種かもしれん」

「刺される前で良かったわい。どんな毒を持つか分からん」

「カケル? 体調に変化などは……?」


 あの、それ……水信玄餅です。

 スライムじゃあないです……。


「あの……」

「大丈夫だ、すぐに処理する」

「いえ、それ作ったの俺です」

「任せてお……なんだって?」

「水信玄餅という和菓子でして……」


 どうしよう、めっちゃ見られてる。

 何言ってんだコイツ……みたいな顔されてる。


「お前は何言っておるんじゃ?」


 顔だけじゃなくて口にもされてる……。


「と、とりあえず降ろして貰っていいですか?」


 落ちないようにリリウムさんにしがみ付くのもキツくなってきたし、そうお願いすると。

 ゆっくりと着地し、解放。

 にしてもびっくりしたなぁ……。

 まさか水信玄餅がスライム判定受けるとは。

 ……どっちかというとスライムよりぷよぷよじゃない?

 こう、抹茶とかで着色してさ。


「ほ、本当にカケルが作ったデザートなんかい?」

「間違いなく」

「うぅむ……」

「そんなにステルススライムって魔物に似てるんです?」

「似てる似てないという次元ではない。もはやそのものだ」


 まぁ、名前からして何となく察するけどさぁ。

 見た目とか、特性とかさ。


「って忘れてた。すぐ食べないとダメなんでしたこれ」


 レシピに書いてあったんだけど、すぐに食べないと崩れるとかなんとか。

 固まるギリギリ量のアガーで作ってるから、冷蔵庫から取り出して時間が経つとダメなんだって。


「早く言え!」


 というわけで真っ先に反応マジャリスさんが水信玄餅を容器に取り出し。


「どう食べる?」


 と聞いて来て。


「薄く味は付いてますけど、やっぱり用意したきな粉と黒蜜をかけて食べるのがいいかと」

「分かった」


 それに説明で応えたら、すぐにきな粉と黒蜜を山盛り。

 そしてスプーンで一口サイズに掬い……パクリ。

 ……反応は?


「――んまい!!」


 いい反応どうも。

 ほんの一瞬前まで臨戦態勢だったとは思えないくらいの変わりようですね。


「この間食べた黒蜜やきな粉より今日の方が美味いぞ!」


 お、いいねぇ。

 今日のは前回より上質なのを買ってますからね。

 前回ってアレよね? 牛乳餅の時よね?


「スライムはどうだ?」

「スライム自体にはカケルの言う通り薄く甘みがあるだけだな」


 スライムじゃないが? 水信玄餅ですが?


「ただ、スライムから感じる水分はかなり繊細だな。初めて飲むレベルの水の美味さがある」


 という感想をマジャリスさんが口にしたあと、リリウムさんがパクリ。


「! 確かに、黒蜜やきな粉が前回と違いますわ!!」

「甘いが甘さだけじゃない。コクが深く、甘さも浸透するような深い味わい……」

「きな粉はそもそも色から違うのぅ。記憶にあるきな粉より香ばしさは若干薄いが、きな粉自体の甘みはこちらが上じゃな」


 それを追うようにラベンドラさん、ガブロさんが続きまして。

 最後尾は俺です、と。


「おー、こんな感じか」


 なんだろうね。ぶっちゃけ、水信玄餅ってマジで水。

 ゼリーかと思って口に含むと、口内の熱で水に戻る、みたいな。

 そんな感覚かなぁ、食べた感じ。

 レシピの材料に、出来るだけいい水って書かれてたのに納得。

 ここで水自体に変な匂いとかあると、全部台無しだもん。

 無味無臭であるがゆえに、ほんの少しの匂いが目立っちゃう感じだね。

 甘さを付けてるから無味ではないけど。

 あと、信玄餅とか、わらび餅ってよりは、すっごく柔らかいゼリーって感じだね。


「スライムはサッパリ、黒蜜はこっくりで、大豆はしっかりだった」


 早々に食べ終えたマジャリスさんが総評をしてくれたみたいだけど、凄いよね。

 ほとんど分からん。


「ちなみにお代わりは?」

「ありますよ?」


 あんたらが一つで満足できない読みおかわり作成はもはや規定コースなわけで。

 まぁちなみに冷蔵庫から取り出したお代わりに、マジャリスさんは飛びついた事を記録しておく。


「スライムもだが、俺はこの緑色のきな粉がいい。黒蜜控えめ、きな粉多めが好みだな」


 で、青きな粉がお気に入りである、と。

 俺が食べてみた感じ、普通のきな粉より甘みが強いと思う。

 その反面、香ばしさは若干無いかなって感じ。ほぼガブロさんの感想と一緒よ。


「私は黒蜜だけでもいいくらいですわね」

「普通に両方じゃろ」

「だな」


 リリウムさんが黒蜜寄りで、ガブロさんとラベンドラさんがバランスタイプっと。

 まぁ、俺もバランスかな。

 で、俺は一つでいいや。

 普通にお腹一杯ですわ。

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