第302話 一連の流れ

「そうじゃ、忘れ取ったわい」


 髭にきな粉と黒蜜を付け、水信玄餅を完食したガブロさんが言い出したこの一言。


「なにしとる?」


 身構えただけですが?

 だってその切り出し方で食材が出て来なかったことないじゃないですかヤダー。


「燻製が終わったから渡そうと思っただけじゃわい」


 という言葉と共に、渡されたのは……あ、トキシラズの生ハム。

 そう言えば言ってた言ってた。

 ガブロさんが作るって。

 ほへー、出来たのか。

 渡されたのは……そうだなぁ。

 広げた両手位のサイズ……かなぁ。

 燻製されてオレンジ色が少しだけ強くなったサーモンの身、そのものの見た目。

 ちょっと……味見したいよね。


「このまま食べられます?」

「いけるぞ」


 との事なので薄くスライスしまして……。

 そのまま口に入れると――。

 まず香るのはスモークの香り。

 普段食べてるスモーク系より一段煙っぽさが強いね。

 スモークサーモンと思って食べないと咽るかも。

 でも、その香りの後に来るトキシラズの締まった濃厚な味がとてもいい。

 身もしっとりしてる。あと、ちゃんと噛み応えもあるよ。

 肉とかとは比べ物にならないくらい柔らかいけど。

 

「美味いですね」

「じゃろ?」

「少しスモーク感が強くないか?」

「まぁ、それはありますけど美味しいですよ?」

「燻製に使う材料でかなり挑戦していたからな」

「別に食えんほどではなかったろうが」


 ……ラベンドラさん、すっごく物申したいような顔してる。

 けど、燻製とかをガブロさんに任せちゃった手前、自分がやるって言えない感じか。

 まぁ、先に決めた役割を後から変更するって変なわだかまり産みそうだし。

 それに、食べられない程じゃないからいいじゃないですか。


「じゃあ、これでお持ち帰りを作りましょう」

「任せろ。何をすればいい?」


 というわけでスモークトキシラズを使ったおみやを作ります。

 と言っても簡単だけど。


「まずはコイツをスライスしてもらって」

「薄さは?」

「薄すぎないくらいで」

「分かった」


 ラベンドラさんにスモークトキシラズをスライスしてもらってる間に冷蔵庫から材料の準備。

 動かないマンドラゴラたちは楽だねぇ。

 ……普通は野菜は動かないんだけどさ。

 人参、玉ねぎを取り出し、玉ねぎは薄くスライス。

 人参は細切りにしまして。


「次は?」

「パンを割って、バターとマスタードを塗って貰えます?」


 ラベンドラさんにバゲットを人数分渡し、お願いする。

 この四人ならバゲット一本くらい余裕余裕。


「塗った後は?」

「切った材料を挟んでいくだけですね」


 って言ってる間にパンに包丁を入れて切り拓き、バターとマスタードはそれぞれ宙に浮かせたバターナイフに塗らせてて。

 俺の想定よりだいぶ進行が早い。

 えっと、クリームチーズ、オリーブの実、マンドラゴラの頭葉……。

 あ、トマトもいいなぁ。


「塗り終わったが?」

「じゃあ、切って挟んでいきましょう」


 というわけでまず一番下にマンドラゴラの頭葉であるレタスを敷きまして。

 その上にスモークトキシラズ、クリームチーズと乗せまして。

 スライスした玉ねぎ、トマト、刻んだ人参を乗せたら。

 塩漬けのオリーブの実をちょいちょいと挟んで完成!

 ……と思っていたのか?

 ごめんなさい、ドレッシング忘れてました。


「ドレッシングを複数使って、味の変化をさせましょう」

「いい案だ」


 というわけで、イタリアンドレッシング、胡麻ドレッシング、和風ドレッシングをそれぞれ三分の一くらいを境目にかけ分けまして。

 完成! スモークトキシラズのクリームチーズサンドイッチ!

 もちろん俺のも作ったよ?

 イタリアンドレッシングと胡麻ドレッシングで、全体量はラベンドラさん達一人分の半分くらい。

 これでも多いかもしれん。


「出来たようじゃな」

「美味そうだぞ」


 と、出来上がりを嗅ぎつけて寄って来た食いしん坊をトリオにサンドイッチを渡し。


「ほれ」


 ガブロさんから新しい食材を代わりに渡され、受け取って。


「では、また明日もよろしくお願いしますわ」


 紫の魔法陣に消えていく背中を見送――、


「ちょっと待てぇっ!!」


 思わず芸人のツッコミみたいな言葉が出ちゃったよ。

 何サラッと新しい食材渡しとるねん我ぇ!!


「どうかしました?」

「?」


 なんで呼び止められたんだ? みたいな顔されても。


「この食材の説明をですね……」

「ああ」


 いや、ああ、って。

 これまでも割と渡しとけば俺が美味しく調理してたからいいか、とか思ってたんじゃないだろうな?

 しっかり食材アキネイターやってもらうからな。

 えーっと……身の色は半透明の乳白色で……。

 持った感じもエビダトオモワレルモノの時とほとんど変わらない。

 つまりはエビ!! 天地明察!! この食材、エビだな?


「海の生き物です?」

「違うな」


 違ったみたいです。

 待て、確か火山に行くとか言ってたような……。

 つまり火山に居るような生き物……。

 何? 火山の生き物って何?


「サラマンダーですか?」

「違うぞい」


 むむむ……、火山っぽい生き物……。


「ドラゴン?」

「んなわけ無いだろう」


 ですよね。

 じゃあなんだ?


「スライム系の魔物ですわ」

「スライム……」


 なんと言うか、スライムってあの……スライムですよね?

 こんな透明感ある乳白色のイメージ無いんですけど……。


「コロッサルの触手の集合体のような魔物でな。冷えた溶岩を纏って鎧のようにしていた」


 コロッサルコロッサル……確かタコの事だったな。

 タコの足みたいなのの集合体って事?


「その冷えた溶岩を剥がし、薄皮を剥いた中身がそれじゃ」


 なるほど。……いや、説明受けたけどさ。

 何一つ俺の頭に合致する情報なかったんだけど?

 何味? どんな食感? あとコイツそもそも何?

 スライムでいいの?


「じゃ、調理は任せるぞい」

「いや、ちょ、待っ」


 なお二回目の制止は奇麗に無視されてみんな異世界に返って行った模様。

 ……また塩茹でにして味見するかぁ……。


────


ラヴァテンタクル:核を中心にタコのような触手を生やす。溶岩内に潜伏し、溶岩に近づく生き物を捕食する。大きさは個体差によるが、『夢幻泡影』の仕留めた個体は20歳前後。表面が溶岩に覆われており、自身は魔力で薄く膜を張っているため燃えたり焦げたりすることはない。産卵期には陸上に上がり活動することもある。

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