第303話 半トラウマ

※注意 この話の中で虫を想起させる描写があります。苦手な人は備えてください。


────


 ……スライム。

 ある意味では日本で一番有名な魔物と言っても過言ではないだろうその存在。

 昔はゲーム一択だったんだけどね。

 『弱い』の代名詞として知名度あったから、その弱いはずなのに実は強い……みたいな作品が有名になったり。

 なんと言うか、現在進行形で擦られ続けてる魔物だと思う。

 ……で、それを今から塩茹でにしますと。

 干して乾燥させて食べるみたいな作品はあったけど、塩茹でにして食べるは聞いた事無いな……。

 まぁ、スライムって言うか、もろテンタクル――いわゆる触手だけど。

 なんかこう……薄い本に出てくるような触手を想像するけど、明らかに太さが俺の胴体とかレベルなんだよな。

 今手に持ってるのは丸っと一本じゃなく、刺身の柵を20倍くらいに大きくしたサイズだけど。

 ガブロさんは片手で渡してたけど、俺は両手で持ったうえで腰を落とさないと持てなかった。

 でまぁ、持った感触はエビなんだよなぁ。

 はてさて、どんな味なのやら。


「キュッと締まるな」


 塩を入れたお湯に入れたらさ、身から透明感が失われて一回り小さくなった。

 ……氷水で締めるか?


「いいや、まずは茹でたてで食べよう」


 勝手にエビっぽいと決めつけてたけど、これが下手したらフルーツみたいに甘い可能性すらあるわけで。

 氷水で締めるのはそれからだね。

 というわけで、あらゆる先入観を頭から消し去り……パクリ。


「……あー。なるほど?」


 ちなみに大丈夫だった。

 ちゃんと見た目の範疇を越えない味をしておられた。

 というわけで逆様邪さかしまよこしま天地明察!!

 このスライム系触手――ほぼ蝦蛄シャコ!!

 ただ、俺の知ってる蝦蛄よりちょっと身が固くて締まってる感じ。

 んでも、その締まった身から相当な量の肉汁が溢れてくる。

 トキシラズと違って脂とか無しの、正真正銘のうま味の汁。

 あと、身が固いとか言ってたけど、だがそれがいい、状態なんよな。

 しっかりと噛み締められる幸せって言うの?

 変に柔らかく無いから、じっくり噛み締められる。

 食べる時の音を表現するならモシャッ! って感じ。

 正直本当に美味いよ?


「ちょっと氷水で締めてみるか」


 続いて、茹で上がりを氷水に入れ、身を締めまして。

 こっちは醤油付けて食べよう。

 ……むほほほ。

 思わず笑っちゃうね。

 氷水で締めると身の甘さが際立つ。

 その甘さと醤油のしょっぱさがもう絶妙。

 これと米だけで無限に食えるわ。

 あと、蝦蛄! って思わなくていいね。

 比べるならエビより蝦蛄が近いってだけ。……ていうか、一度作ったけどこれでエビチリとかしたいな。

 絶対に美味い。

 エビダトオモワレルモノとはまた違った美味しさがある。

 よし、確認完了したし寝よ――う?

 なんでテーブルが光ってるんだろう?

 しかも紫色に。

 なーんて、絶対に転移魔法なんだよな。

 何か忘れものかね?

 なんてテーブルを見ながら何が転移してくるかと待っていると。

 ヴモッ! っと。

 物凄く例えが悪いんだけど、芋虫サイズのさっきまで茹でて食べてたスライム系触手がおびただしい量湧いて来て。


「ヒィッ!!?」


 テーブルから湧きだすほぼ芋虫のそれらは、テーブルを埋め尽くすほどの量が出た頃にようやく止まり。

 一番最後に、巻かれた羊皮紙を吐き出して紫色の光が消える。

 トラウマなるわ。

 マジで。

 ホラー映画とかで今のシーン流してみ? 暴動起きるぞ。


「全く……」


 芋虫の中央にある羊皮紙にそーっと腕を伸ばし、指を伸ばし。

 羊皮紙を摘まんだら一気に引き戻す。

 えーっと……何々?

 ラベンドラさんからの手紙だな。


『すまない、説明を忘れていたが、今回渡した魔物は通常は生食できない。――が、自身を呪う術をまだ知らない幼体ならば生食可能だ。その事を発見したため、遅れる形になったが幼体を送る。料理に活用して欲しい』


 ……なるほど?

 成長してないから呪えない……だから生食出来る、と。

 芋虫コレを? 軽く怖いんだけど?

 でもまぁ、見た目悪くても美味しい食材はいっぱいあるし……。

 何なら、芋虫も食えなくはないはずだから……。

 と自分に言い聞かせつつ、スライム系触手の幼体を一匹持ち上げ。

 目を瞑って口の中へ。

 ……へ?


「うまー!!」


 なにこれウッマ。

 あれだ! 甘えび!! 俺の中指位のサイズあるけど、味とか食感とかはマジで甘えび!

 しかも甘えびより味が濃いな。あと身がねっとりしてる。

 いやうんめぇ。お前まじで見た目で損してるぞ……。

 どうしよう、さっきまでテーブル一杯の芋虫に嫌気がさしてたけど、こう美味いなら大歓迎だわ。

 タッパーに詰めて保存しとこ。

 滅茶苦茶楽しめるぞ、この量だと。

 あ、前に動画で見たユッケ丼作りたいな。

 あとはかき揚げとかも絶対にやりたい。

 トキシラズももう少し残ってるし、それと合わせて海鮮丼とかやりたくない?

 エビとサーモンの海鮮丼とか、絶対に美味しいやつじゃん。

 ちょっともう一匹食べよ。

 いやぁ、美味い。

 こんな美味いのタダで貰っちゃっていいの? 最高なんですけど?

 ……タッパー四つでもまだ足りんな。

 続いてジップロック。

 甘えびのヅケ丼とかも絶対に美味いし、何ならケジャンとかもやりたさあるな。

 食材一つで夢が広がりんぐですわよ。

 ありがとうラベンドラさん達。

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