第153話 たくましい料理人
「いただきます」
四人と手を合わせて合唱し。
みんなそれぞれ思い思いの料理に箸を伸ばす。
「まぁ!! とろける位に柔らかいですわ!!」
リリウムさんが最初に手を付けたのは大根と煮た桜煮。
食べやすい様に盛り付け時に一口大の大きさに切ったんだけど、その時から柔らかさは伝わっててさ。
頬に手を当てて美味しさを噛み締めてる様子を見るに、想像以上に柔らかくなってるみたい。
ええことじゃ。
「たこ焼きというよりは向こうで作った卵焼きじゃな。……これなら向こうの世界でも作りやすいかもしれんのう」
ガブロさんがいただくのはカクタコ。
あー、やっぱり異世界でたこ焼きというか、明石焼き作ったんだ。
どんな反応だったんだろ。
「ちなみに、異世界で作った時の反応ってどうだったんです?」
「凄かったぞ」
俺の問いかけに、お吸い物をすすった後のラベンドラさんが答えてくれた。
最初は汁もの。ラベンドラさんは本当に馴染んでらっしゃるよ。
「我ら四人で作り続けて、それでも列が途切れないくらいには行列になっていた」
「最初はおっかなびっくりみたいでしたけど、昼を回る頃には口コミで広がって、最後の方にはギルドにあった『――』の身も使うほどでしたもの」
「ギルドもウハウハだっただろうな。最初は美味いか分からないと脚一本だけを俺たちが引き取ったせいで、残りの足どころか胴体や頭まで使えるか分からない在庫だったんだから」
「わしも引っ張って行かれてギルドで解体。そこに調理士ギルドも巻き込んで、持って来させた大量の塩でぬめり取り。それを重さいくらで売りに出したら飲食店がこぞって買って行っておったな」
「じゃあ、異世界でもタコが食べられるようになったんですね」
そう言って俺もカクタコを口に運ぶ。
ちなみにカクタコには大根おろしと、スーパーで見かけたしょうゆフレークなるものをかけてある。
液体じゃない、固形の醤油でさ。それがニンニクとか玉ねぎ、ごまとかと混ぜてあって、絶対美味いじゃんってなってさ。
タコにも卵にもしょうゆは合うわけで、カクタコにもじゃあ合うじゃんってなってね。
俺の目論見は当たりました。
むしろ外す方が難しいまである。
「こちらの世界には無い調理法……まで行くかは分からないが、確実に新しい食材として認知はされただろう」
「後は料理を生業にしている方々が、創意工夫で発展させていくことでしょう」
「案外戻ったらカクタコくらいは作られててもおかしくないわい」
「鉄板の加工は簡単ではないからな。あの鉄板が必要でないならこちらが主流になってもおかしくない」
こう、どこの世界も料理人って凄いよな。
それこそ、未知の食材だろうが調理してアレンジしちゃうんだもん。
俺には既存のレシピをなぞるくらいの腕と発想力しかないから、羨ましくはある。
ただ、それを仕事にしたいかと言われると無理だと思うけど。
「ああ……米が美味い」
で、タコ飯を噛み締めるマジャリスさんなんですが、何かありました?
ああ、元の世界だと米がこっちほど美味しくないとか言ってたっけ。
噛み締めろ~、そしてもうこっちの世界の米じゃないと満足できない身体になっちまえ。
「米に付いた味も美味いし、共に炊いてある野菜もいい。……ところでカケル、この食材は?」
と言って摘まみ上げたのはゴボウ。
あー……。そういやなんかで読んだな。
外国人捕虜が腹減ってたからってゴボウを食べさせたら、木の根っこ食わされた、虐待だ! って終戦後に言われた的なの。
でもまぁ、この人達ならそんな事言わんか。
……ちょっと――いやかなり不安だけど、ここは翻訳魔法さんを信じることとしよう。
「ゴボウっていう根菜ですね。独特の歯ごたえとか香りが特徴です」
「確かに風味がある。だが、この風味が『――』の身のうま味を引き立てるな」
と、タコ飯を頬張ったラベンドラさんが参戦。
美味しいよね、ゴボウ。
牛肉にも合うし、炊き込みご飯では入ってないと違和感まである。
「まぁ、根くらいなら当たり前に食べるか。……うん、確かに美味いな」
マジャリスさんも受け入れてくれたみたいだしね。
ちなみにゴボウの一番美味しい食べ方は天ぷら。異論は認める。
「ご飯と一緒に炊く、という調理法も、材料次第で工夫が出来そうですわね」
「ソーセージを入れた炊き込みご飯だって存在しますからね」
初めて見つけた時にびっくりしたよ。
でも、作ってみてそりゃあ美味いわ、ってなった。
不味くなるような材料使わんしな。
ちなみに今回のお漬物はさっぱり重視でべったら漬け。
炊き込みご飯とかするとさぁ、漬物はあまり強くない味のものを用意したくなるんだよね。
俺の若干のこだわりかな。
「それにしても、大根で叩くと柔らかくなるのは驚きだな」
「ですわね。そもそも、食材で叩くという発想がありませんでしたもの」
「一緒に煮た大根も味が染みて美味かったぞい」
「大根という食材に、まだ知られざる効果があるのかもしれない。戻って研究してもいいだろうな」
以下、食後のお茶飲み団らんタイム。
にしても、大根で叩く効果は凄いけどさ……。
手間も凄い。うん。
あと、俺の腕への負担ね。結構きつかった。
鰹節削るのも久しぶりだったし、何だかんだ一時間とか削ってたからな。
もう確定で筋肉痛です。本当にありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます