第154話 腐らせちゃうのは勿体ない

 ふぅ。

 あの人らがたこ焼きにハマってから、持ち帰りの料理が全部たこ焼き粉を渡すだけになっちまった……。

 曰く、


「まだまだ手の加えようがある」


 とかだそうで。

 ちなみにたこ焼き粉の配分表もガン見してたから、その内向こうの世界でもたこ焼き専用の粉として出回るんじゃない?

 向こうで再現出来る材料なのかは知らんが。


「ん~……そろそろ危なくなってきたか?」


 で、現在朝ご飯を食べてる所なんだけど、流石にシロミザカナモドキの鮮度が怪しくなってきた。

 毎日朝昼と食べてたけど、やっぱり一人での消化は時間掛かるね。

 量で言うともう少しなんだけどね……。


「よし。じゃあ今日はタコの唐揚げと魚の煮付けでまた和食御膳でも作るか」


 で、じゃあどうするかという話なんだけど、決まってるよね。

 四人にも食わせる。これに尽きるよ。

 その二品だけじゃあちょっと寂しい気もするし、厚焼き玉子でも付けようかね。

 煮物、揚げ物、焼き物でみそ汁かお吸い物も付ければ一汁三菜。

 ちょっとメインが二品あることを除けば、日本食の定番だし。

 何より、卵の黄色は色合いが豊かになって見た目が華やかになるからね。

 ついでにラベンドラさんに厚焼き玉子を伝授してやろう。

 フハハハ、オムレツとはまた違った日本料理の神髄、しかと見るがいい!



「お邪魔しますわ」

「いらっしゃいませ~」


 いつも通り魔法陣から出てくる四人を迎え入れ、ラベンドラさんがドラゴンエプロンをしながら台所へ。

 他三人がテーブルに着席すると、


「そう言えばカケル! 早速『たこ焼き』が私たちの世界でアレンジされていたぞ!!」


 ラベンドラさんが興奮気味に話し始めた。

 すげぇな。

 伝わってまだ数日しか経ってないのにもうアレンジして売るところが出てきたのか。

 で? 味は?


「どんなアレンジだったんです?」

「王都のレストランなんだが、ワイバーンのスープにたこ焼きを沈めたらしくてな」

「わ、ワイバーン……」


 ワイバーンってあれよな?

 翼竜とか言われる、手と翼が一体化してる感じの竜。

 龍じゃなくて、竜。

 あれの……スープ?


「待て……こちらの世界で言う、ビーフシチューなどの土台などのような味になるんだ」

「ビーフシチューの土台……?」


 ん~? どれだ?

 フォンドヴォー? あるいはコンソメとか?


「複雑で繊細な味わいだが、かなりうま味の濃いスープでな」

「あー……。なんとなく分かりました。それにたこ焼きを沈める、と」


 多分コンソメかな?

 で、たこ焼きのコンソメ漬けかぁ……。

 不味くはない、というか普通に美味そうだな。

 日本の出汁にたこ焼きを沈めたものもあるだろうし、普通にありな気がする。


「『たこ焼き』というのは、一つで凄くボリュームがあるでしょう?」

「スープでありながらメインディッシュになる、と話題になってるようじゃ」

「でも皆さん結構な数食べましたよね?」


 俺、忘れてないからな?

 あんたら、四人でとはいえ余裕で三桁個数食ってたからな。


「それで? 今日のメニューは?」


 席に座った三人が俺からの言葉に目を逸らしたら、抜群のタイミングで話題を変えたラベンドラさん。

 う~む……出来る。


「それなんですけど、まずタコの唐揚げを作ります」


 で、予想出来てたけどこの宣言に沸き立つ男女エルフ。

 座ってなさい。


「で、以前貰った魚がそろそろ傷んで来そうなので、消化を手伝って欲しいと思いまして」

「ほう。別に構わないが、調理法は?」

「煮付けにします。部位問わず煮付けにしちゃって、食べた時に部位ごとの違いを楽しめたらなと」

「なるほど、面白い」


 と、ラベンドラさんの了解も得たことでいざ調理へ。

 まずは一番時間が掛かる煮付けから……の前に。


「タコに下味をつけましょう」


 下処理を終え、一口大に切ったニンテイタコカイナを。

 ボウルに入れ、そこに醤油と酒、チューブのニンニクと生姜をぶち込んでかき混ぜて。

 全部どさーっと漬け込んでいく。

 よし、後は味が染み込むまで放置でヨシ。

 というわけで煮付けへ着手。

 鍋に日本酒、醤油、みりん、ザラメを入れて火にかけ、アルコールを飛ばしていく。

 本日は水を入れない煮付けを試み。

 煮立ったらそこに部位ごとに切ったシロミザカナモドキを入れまして。

 落し蓋をしてそのまま十分……だとハードグミ食感が残りそうなので気持ち多めの十二分。

 それで煮付けは完成。


「じゃあ、油を用意して唐揚げを揚げていきましょう」


 ちなみにご飯は用意済み。

 ここまで来てご飯がまだですなんて言ったら、暴動が起きちゃうよ。

 主に俺の腹から。

 炊飯器には保温機能があるし、俺は食事の準備はまず真っ先にご飯からするって決めてるんだ。

 しっかり炊飯ボタンを押したかどうかは指差し呼称で確かめる。

 一度だけね、スイッチを押したと思い込んでカレーを作って、意気揚々と蓋を開けたらですよ。

 しっかりと水に浸かった米と対面した時のやるせなさと言ったら……もう。

 以来、ご飯は最優先で準備することにした。

 失敗を反省して活かしてけ~。


「温度は大丈夫だ」


 と、ラベンドラさん事、油の温度管理委員会委員長から言われたので、漬けダレからニンテイタコカイナを引き上げて。

 水分をキッチンペーパーで拭き取り、片栗粉をまぶして油の中へ。

 俺は入れるだけで、後はラベンドラさんが面倒を見てくれるので、その間に手を洗ってお吸い物の準備。

 最近お吸い物がマイブーム。

 あの静かな美味しさって言うの? 奥ゆかしい感じがいいのよな。

 もちろんみそ汁もいいんだけども。


「揚がったぞ」

「こっちも準備OKです」


 で、レモンをくし切りにしたら全行程完了。

 唐揚げにレモンは賛否あるみたいだけど、タコの唐揚げにレモンは有無を言わせん。

 これが無いと始まらん。

 というわけで煮付けも盛り付け、完成!!

 ん? 何か忘れているような……。

 あっ! 卵焼き!! ちょ、ちょっと待ってて!! 

 大急ぎで作るから!!

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