第155話 欠かせないもの
ふぅ。
俺としたことが危ない危ない。
卵をボウルに割り入れ、そこに砂糖、塩、醤油を入れてかき混ぜる。
……ちなみにだけど、俺はカラザを取る派。
あの、黄身にくっついてる白いやつね。
なんか嫌なんだよね、アレ。
卵ご飯とかする時も、まずはアレの除去から開始するくらい。
というわけでカラザを取ってかき混ぜて、そこにマヨネーズを少し。
そしたら熱した玉子焼き器に油を垂らし、溶いた卵を流し入れ。
固まったら、箸で巻きながら片方に寄せまして。
空いた片方に新たな溶き卵を流し、これも固まって巻いたら一人前完成。
……まぁ、簡単じゃないよね。
俺が最初に料理してて、壁として反り立ったのがこいつだもん。
今じゃあ当たり前に作れるようになったけどね。
「そうやって作るのか……」
「昨日のカクタコや、オムレツなんかと作り方はそこまで変わりませんよ。何度か巻いたりするだけです」
個人的にはオムレツの方が苦手だったな。
ひっくり返すのもだけど、何より火の通し具合が面倒この上ない。
中身半熟で、綺麗な形に整えるのは中々に難しいのですよ。
「というわけでお待たせしました、完成です!」
人数分の厚焼き玉子を焼き終わり、皿に盛って大根おろしもトッピング。
これにて異世界食材和風御膳の完成也。
「唐揚げと、煮付けと、もう口の中が涎で凄い事になってますわ!!」
「いくつもおかずがあるのがいいな。見た目も豪華だ」
「調理をしていて思うが、複数の調理法で作った料理を出すのは大変じゃないか?」
「わしらは嬉しい限りじゃがのぅ」
食べ始める前にラベンドラさんから聞かれたけど、何というか……。
「好きでやってることですからねぇ……。何より、美味しい料理は多いに越したことはないですし……」
もう、慣れちゃってる。
もちろん、一人で食べる時にこう何品も作るかと言われると微妙ではあるが。
折角の複数人で食べる料理で、しかもメイン材料はラベンドラさん達が用意してくれる。
当然材料には鮮度があるし、何より、量を作った方が美味いのは料理の真理。
食べきってくれるという四人の信頼ももはや出来てるしで、俺としては俺が食べたい料理を何個か作ってるだけに過ぎないし。
それを美味い美味いと某柱の人みたく気持ち良く食ってくれるから、大変ではあるけど別にいいかなって。
洗い物は大体食器洗浄機がやってくれるし。
「そうですわ! 美味しい料理は多いに越したことありませんわ!」
「カケルの負担になり過ぎていないのならばいい。……食べよう」
「その言い草だと待ちきれなかったな?」
「ラベンドラは調理をしとるからの。匂いや見た目をわしらよりも感じとる。……そりゃあ我慢も出来なくなるじゃろ」
という事なので、全員でいただきます。
早速ニンテイタコカイナの唐揚げにレモンを絞りますわぞ~。
「やはり唐揚げにはレモンか!」
「私はまずはそのままでいただきますわ」
「唐揚げと聞けばエールが欲しくなるのじゃが……」
「向こうの世界で作ってやるからそれまで待て」
と、みんないの一番に唐揚げに箸を伸ばしますわね。
まぁ、今日のメインと言っても過言じゃないし、今まで唐揚げに裏切られたことないだろうし。
期待する気持ちは大いにわかる。
ちなみに俺はいまだに唐揚げに裏切られたことはない。
生涯無敗である。
「~~!! カリっとした外側の食感と、噛み応えのある中の『――』の身の歯ごたえがたまりませんわ!!」
「しっかりと付いた味と、噛むほどに溢れる旨味がたまらん」
「レモンが凄くいい働きをしているな。油臭さや若干の生臭さすら吹き飛ばしている」
「び、ビール……。ビールをくれぇい!!」
えー、大好評です。
で、ガブロさんに朗報。
ビール、あります。
「そんなガブロさんにどうぞ」
渡したるはコラボビール。
と言ってもビール同士のコラボで、俺が愛飲している黒い星のビールと、七福神の一人が描かれてるビールのいいとこどりを謳った金色の星のやつ。
好奇心には勝てなかったよ……。
「むほっ!? ええんか!!?」
「ダメなら出さないでしょ」
「スマン!! いただくぞい!!」
と、俺の手からビールを受け取り……。
カシュッと。
ビール開封RTA現状一位の記録、0.11秒の成立です。おめでとうございます。
「あーーッ!! キンッキンに冷えてやがる!!」
……翻訳魔法さん?
どこで学んだんです? その翻訳。
「『――』の身のうま味も、衣の油っぽさも、全部アルコールで流れていくぞい!!」
「それはいい事なのか?」
「当然じゃ! これこそビールの醍醐味よ!!」
だそうです。
で、ガブロさん、350mlのビールを二回で飲み干しちゃった。
俺がやったらぶっ倒れるね。こちとらほろよいでガチ酔いするからな。
酒に弱い体質舐めるんじゃねぇ。
なお、お酒自体は好きなもよう。
「煮付けもとろけるような美味しさですわ……」
「箸で触るだけでホロホロと崩れるほどに柔らかくなっている」
「味も良く染みているぞ。ご飯が進みまくる」
「味が濃いものは酒に合うぞ~い」
と、煮付けも高評価。
いやぁ、いい気分ですなぁ。
「どの部位もパサついて無く、それなのに部位ごとに差異がある」
「しっとり、もっちり、サラサラとでも言いましょうか。舌で押しつぶすだけでほぐれていく柔らかさは共通ですのにね」
「尻尾に近い部分のサラサラ感が好みだな。歯に当たるだけでほぐれて口の中で米と混ざるのが最高だ」
「しっかりした噛み心地が最高じゃろ。中ほどの部位のもっちり感がたまらんぞい」
「しっとりした上品な頭に近い部分が一番だ。この部分は王都の高級レストランで提供されても引けを取らないだろう」
「全部最高でいいじゃありませんの。下手な優劣を付ける物ではありませんわ」
今リリウムさんがいい事言ったな。
そうそう、料理に優劣なんて付けるもんじゃないの。
みんな違って、みんな美味い。
それでいいじゃない。
「卵焼きも食いでがあっていい。何より、煮付けのタレとも合う」
「大根おろしがさっぱりしているおかげで、どれの後に食べてもしっかりと味わえるのが素晴らしい」
「卵だから栄養価も高いし、色がしっかり出ているのもいいな」
「何だかんだ、この卵焼きが一番落ち着く味な気がするわい」
とまぁ、卵焼きも好印象。
不味いはず無いからな。
「お吸い物で落ち着いて、お漬物で口内をリセットして」
「煮付けと、ご飯。唐揚げと、ご飯」
「次はどれに行くか、と自分の中で順番を決めるのもいいものだ」
「おかずが多いと満足感も高まるわい」
そろそろ四人も和食に染まりつつあるな。
日本人として鼻が高いわ。
「ふぅ……満足じゃわい」
「とても美味しゅうございましたわ」
「正直なところ、俺は肉の方が好みだったんだが……。ここ数日で、考えが改まってきている」
「この世界の魚介を使った料理はどれもこれも美味い。それこそ、肉に引けを取らない程に」
なんて、マジャリスさんとラベンドラさんに言われたわ。
日本が誇る魚介料理はマジで突出してるぞ。
日本人が区別できる魚の種類から見てもそれは確定的に明らか。
ただ、あなた方はまだ日本の海鮮をまだ十分に知ったとは言えない。
明日、同じ時間にここに来てください。美味しい海鮮をご馳走しますよ。
……言わなくても来るだろうけど。
「それじゃあ、お持ち帰り用のご飯の用意をしますね」
「手伝おう。何を作る?」
「タコの唐揚げを、タルタルソースと一緒にパンに挟もうかと。ついでにチーズも」
なんて、持ち帰り用のご飯の話をしたら。
後ろで、三人がハイタッチしてた。
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