第21話 新しい食材の試食
弾力がありそうなプリプリとした見た目。
乳白色で半透明な色。
テーブルの上に鎮座する、ガブロさんに出された肉を観察し。
……天地明察!! この肉……多分エビです。
俺の知識の中で、この見た目に当てはまる肉は一つしかない。
――頼むっ!! これが脂身の塊とかはやめてくれ!!
じゃないと俺は、今後脂身オンリーのカツとかを作る羽目になっちまうんだ……っ!!
……あるらしいけどね。自由の国に。脂身だけのカツが。
しかも美味しいらしい。いや、美味いのは分かるよ?
でもさ、脂を油で揚げて食ってるんだぜ? それはもはやただの油なんよ。
あと胸焼け凄そう。翌日の胃もたれも。
まぁとりあえず、この肉が何なのか探るため、我々はアマゾンの奥地へ向かう事無くお湯を沸かした。
ブタノヨウナナニカ肉の時もそうだったんだけど、焼くよりは茹でたいよね。最初は。
少しだけ包丁で切り取って、少しだけ塩を入れた鍋に身を投入。
半透明な身から透明感が消えた頃合い……から少し長めに保険をかけて茹で、まずはシンプルに塩でいただいてみる。
「エビ……エビだな!」
感想は、うん。特に語彙力もなくエビの味がしたよ。
ただ、繊維っていうの? それが結構大きめ。
エビとかよりロブスターの方が近いんだと思う。食べたことが無いから知らんけど。
……予想より美味かったな。もうちょっと茹でよう。
味付けも塩よりマヨだなやっぱ。
身に直接マヨを絞って……と。
「あ~、美味い!」
茹でただけなんだけど身のパサつきとか全然なくて、噛めば――というか、身の繊維が歯に当たるとプツリと軽く切れ、そこからうま味の汁が溢れてくるんだよね。
俺の知ってるエビより匂いが少なく、その分エビ特有の風味も薄いけど、あまり気にならない感じ。
繊維は簡単に切れるはずなのに、身自体の弾力はあるから心地いい噛みごたえだし、この食材はちょっと個人的にヒットかもしれない。
……小さめの段ボールほどの大きさでなければ、だが。
「美味いんだけどこの量なんだよなぁ……。はぁ、何にするか」
とはいえエビと言えば結構お値段するもので。
そのくせ美味い調理法がこれでもかとある食材である。
この大きさならエビがバカみたいにはいったエビチリや、どれだけでも大きい頭悪いようなエビフライが可能。
エビしか入ってないエビグラタンとか最高だろうし、あ、アヒージョなんかにもしたいなぁ。
「とりあえず分割してラップ巻いて冷蔵庫に入れとくか」
流石にそのままの大きさじゃあ冷蔵庫に入らないし、8分割ほどにしてラップで巻いて冷蔵庫に。
……嘘。半分くらいは冷凍庫にぶち込みました。
だって! 入らないんだもんよ!! それに、絶対悪くなる前に食べきれねぇって!!!
ただでさえ生ものなのに!!
と、誰に向ける訳でもない怒りを発散しながら、その日は就寝。
風呂入ったり、歯磨いたり、寝付くまでの間ずっと、あのブロックエビを一体全体どう調理してやろうか、それだけを考えていたよ。
*
「お~い、あんたガブロだろ?」
ダンジョンから帰還し、次の予定を立てて必要なアイテムの補充をしていたガブロは、遠くから声をかけられた。
「なんじゃわい」
「ちょっと時間いいか?」
そう言われたガブロは、他の三人を見渡して。
三人も、大丈夫とアイコンタクトを送ると、ガブロが身を乗り出す。
「……解体か?」
「察しがいいな」
ガブロに声をかけたのはBランクの冒険者たち。
その目的は……、
「ひょんなことからとあるモンスターを狩ることになってな。狩るには狩れたが、俺らじゃそのモンスターを解体できなくてさ」
「幸運な事に、この町にはあんたが居ると聞いて探し回ったんだよ」
「頼むよ! 凄腕解体士のガブロさんよ!」
モンスターの、解体である。
「まずモノを見んことには何とも言えんぞい」
「町中で出すわけにもいかない。ついて来てくれ」
と、促され、辿り着いたのは……。
町のはずれにある広場だった。
そこでは、他の冒険者たちがモンスターの解体をしており。
トラブルなどが起きないようにか、鎧を着た見張りが数人立っていた。
「解体場の利用だ。ほい、料金」
「受け取った。周囲の迷惑にならないようにな」
ここは、町が提供する解体場。
入場には料金が必要で、利用と見学によって値段が違う。
利用はそのまま、解体場にてモンスターを解体する際に支払わなければならない金額。
そして見学は、他の冒険者が解体した素材をその場で交渉して買う為に必要な金額である。
「あんたらの分も支払ってある」
「そりゃ親切にどうも」
「で? モンスターはなんじゃい?」
ガブロに促され、顔を見合って頷いた冒険者たちは詠唱を開始。
程なくして空中に緑色の魔法陣が出現すると、その魔法陣へと手を突っ込み……。
そこから引っ張り出したのは――。
「こいつだ。頼めるか?」
全長およそ10m。高さおよそ3mはあろうかという、巨大なエビだった。
「ガーディアンシュリンプか」
「そうだ。たまたま見つけてな。殻はいい素材になるからと思って狩ったんだが……」
「前の町では解体できる奴が居なくてな。そこでこの町に来てみたら、あんたの話を聞いた」
「現状三人しかいない特級解体士の称号を持つあんたなら余裕だろ? 頼むよ!」
「別に構わんが、報酬は貰うぞい?」
「もちろん! タダでなんてやらせるわけがねぇ!! ……ただ、殻を報酬として持っていくのは勘弁してもらえねぇか?」
「そうじゃな……じゃあこいつの身を貰うことで手を打とう」
「身か。それならどれだけ持っていっても構わねぇよ」
というやり取りの後、ガブロはガーディアンシュリンプの解体に着手した。
この時、依頼した冒険者たちは気が付かなかったが、ガブロ――いや、ガブロを含めた四人が、身をどれだけでも持っていっていいと言われた瞬間。
口角が僅かに上がり、そして、喉を鳴らして唾を飲み込んだことを。
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