第20話 生姜焼きサンド
「それは何を作っているんだ?」
食事を終え、持ち帰り用を作っているとラベンドラさんに覗き込まれた。
「しょうが焼きです。パンに合いますよ~」
酢豚は流石にサンドするには不向きという事で。
俺は昼に食ったけど、この人たちは食べてないからとしょうが焼きを挟むことに。
肉も野菜もゴロゴロしてる酢豚は、流石にサンドイッチの具としてはちょっと……ねぇ。
その点しょうが焼きはハンバーガーの具とかにもなってるし。
何より、タレと絡めて焼くだけだから楽だしね。
というわけで、現在はブタノヨウナナニカ肉を成形中。
薄切り程薄くせず、とんかつ用みたいに分厚くもしない。
この塩梅が難しくてね。
スーパーとかにある生姜焼き用の肉の厚さをイメージしながら切ったけど、厚みはばらけちゃった。
まぁ、こんなもんでしょ。趣味で料理する人間の腕前なんて。
「適度な厚みに切った肉をタレと一緒に焼いていきます」
醤油、砂糖、酒。そしてたっぷりのショウガ。
これらを混ぜたタレを、火を通した肉に絡めて焼けばほら簡単。
生姜焼きの完成ですわよ。
ショウガはチューブのやつ使ってるし、なんなら市販の生姜焼きのタレ使えば肉さえあればすぐ出来る。
そのくせ美味しいし、ハズレがない。
唯一気を付けるとすれば、しっかりと火を通すことくらい。
あまりにも簡単に挟む具が出来たから、挟むパンにも一工夫しようか。
と言っても、片面にカラシマヨネーズを塗り込むだけだけども。
「タレに入れていた黄色いものはもしや……?」
「ショウガですか? ……あー、香辛料っちゃ香辛料ですね」
日本に住んでるとショウガが香辛料って忘れたり、知らない可能性あるよな。
でも当たり前にカレーとかに入ってるし、香辛料で間違いないはず。
「また新しい香辛料……」
ラベンドラさんがちょっと暗い顔してるけどとりあえず無視。
パンにキャベツの千切りを乗せ、そこにたっぷりの肉。
仕上げにタレを回しかけ、マヨネーズを追加して完成!
生姜焼きサンド!! 今回は耳付きにしてみた。
……四人にサンドを作ってあげる時に毎回耳を落としてたら、結構たまっちゃったんだよね。
使い道なんて、俺には揚げて砂糖まぶすくらいしか思いつかないし。
それも大量に食べられるもんでもないし。
もうこの際、落とさなくていいやって思っちゃってさ。
「出来ましたよ」
と生姜焼きサンドを渡すために振り返ると、
「今回のにも新たな香辛料を使っているようだ……」
「やはり相応の対価を支払うべきじゃろうな」
「この世界でも価値のありそうなものと言えば……」
「アレしかありませんわね」
四人で何やら相談中。
? 何を話してらっしゃるので?
「カケル」
俺が疑問に思っていると、マジャリスさんに名前を呼ばれ。
「はい、何でしょうか?」
思わず身構えると。
「我らで話し合ったのだが、食事を作り、さらには持ち帰りの品までをも作るのは、食材を提供するのとは見合っていないという結論に達した」
「我らにばかり都合がよく、カケルに負担を強いるものだったと反省している」
「まぁ……だから、なんじゃ。追加で物を渡そうと思っての」
なんて言われて、俺は青ざめた。
ただでさえ先日貰ったブタノヨウナナニカ肉の消費に四苦八苦しているというのに、これ以上追加されたらたまったもんじゃない。
ようやくブタノヨウナナニカ肉も少なくなったというのに。
「いやいやいやいや! 大丈夫ですって!! 俺がやりたくてやってる事なんですから!!」
これ以上食材を追加されてたまるかという強い意志で、申し出を断ろうとすると。
「食材では不釣り合いなのですから、何か価値があるものをと考えまして」
俺の考えを察したのか、リリウムさんが取り出したのは……。
「この世界でも、宝石というものは価値があるのでしょうか?」
小指の爪ほどの大きさの青い宝石の付いた指輪。
なんだこれ? サファイア? でもなんか、サファイアよりも明るい青っぽい色してるんだけど。
「ワシら冒険者は基本かさばる現金を持たんでな」
「金は全部こうして宝石の類に変えているんだ」
「俺らの世界の金なんてこの世界で使えないだろうが、宝石だったら売れるんじゃないか? と思ってな」
「受け取ってくださいますか?」
そうしてリリウムさんに差し出されたその指輪を、俺は受け取るしかなかった。
何故なら、受け取るか躊躇っていると、
「やはり足りないのでしょうか……」
とか言ってさらに何かしらを追加されようとしたから。
指輪に価値があるとかじゃなく、これ以上俺の飯に対して対価を貰いたくなかった。
だって、そう言う事をして欲しくて作ってるわけじゃないんだし。
ただ、
「ちなみにこれって、何の宝石か分かります?」
宝石の名前くらいは知っておきたかった。
それに、これで宝石の名前が翻訳されず、この世界に存在しない宝石であるならば、突っ返せると思ったし。
……なお、現実は非情である。
「ブルートルマリンですわ」
「あ、そうですか」
しっかり翻訳されたし。
にしてもブルートルマリンって言うのか、この宝石。
奇麗な青してんねぇ。
「リングはプラチナだし、そこそこの価値があるはずだ」
「これで何とか、これからも我らに食事を提供して欲しい」
「それじゃあ、頂いていきますわね」
と、俺が指輪を受け取ったのを確認した四人は、生姜焼きサンドを受け取って魔法陣へ。
去り際に、
「もしよければ次回から少し多めに持ち帰り分を作っていただけないだろうか?」
とラベンドラさんに言われちゃった。
朝をしっかり食べるタイプの食生活なのかな?
「分かりました、任せてください」
「お、そうじゃそうじゃ。そろそろ肉が尽きる頃じゃろ? そら、新しい食材じゃ」
そう言って、ガブロさんがテーブルにデン!! と次なる食材を置いていき。
「え? あ、ちょっ」
まだ肉がある。
そう伝える前に、四人の姿は魔法陣の中へと消えていった。
……冷凍しよう。ブタノヨウナナニカ肉。
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