第19話 初めちょろちょろ?

「まずはタレに漬けてた肉を引き上げて水気をきります」


 そう言って肉をザルに引き上げ、タレをシンクへ流す。


「捨てるのか!?」


 と驚かれるけど、生肉を付けたタレなんて火を通してでも食いたくないよ。

 怖いし。甘酢あんは別に用意してるしね。

 それに、元々肉がギリギリ漬かる程度の量しか用意してないからそこまで多いわけでもないし。


「生肉が漬かっていたタレは衛生的に怖いんで食べませんよ?」


 そう説明し、水気を切った肉に小麦粉をまぶしていく。

 ラベンドラさん、


「そうか……」


 とか言って考え込んでるけど、異世界に衛生って考えはあるよね?

 調理前に手を洗うとか、風呂に入るとか、そういう初歩的なもんくらいは。


「小麦粉をまぶしたら、こいつらを油の中にぶち込みます」


 要は豚肉……ブタノヨウナナニカ肉で唐揚げを作っていくわけだ。

 ……ところでなんだけど、フライドチキンと唐揚げの違いって知ってる?

 衣に味をつけるのがフライドチキン。肉自体に味をつけるのが唐揚げだってさ。

 なので今作っているのは紛れもない唐揚げである。いいね?


「また油か……」

「高温で調理できるので重宝しますよ?」


 別に油って一回の料理で使い切りってわけじゃないし。

 使い終わって粗熱が取れた油は衣とかを漉して再利用してる。

 よっぽど汚くなるまでは新しくしないかな。魚料理とかの後だとすぐ汚くなるけど。


「あ、ちなみになんですけど皆さん酸っぱいのとか大丈夫ですよね?」


 今更な事だが四人に確認を取る。

 そう言えば俺の友人には酢がダメで、料理とかに入ってるとお腹を壊す奴がいたな。

 寿司でもそうなるって言ってて、じゃあ寿司食わないの? って聞いたら、


「大好物だから腹が痛くなるのを承知で食う」


 って言ってた。

 いやはや、食い物に対する意地って凄いよね。


「問題有りませんわ」

「顔をしかめるような酸っぱさなら勘弁してほしいが」

「飛び上がる程でなければ大丈夫じゃわい」

「俺も問題ない」


 四人は大丈夫みたいだな、良かった良かった。


「揚がったみたいなんで引き上げますね」


 ブタノヨウナナニカ肉のから揚げを引き上げ、一旦広げた新聞紙の上に。

 油吸ってくれるから重宝してるよ、新聞紙。


「で、次はこっちで調理です」


 と、フライパンを火にかけて、ごま油を薄く引き。

 ある程度油の落ちた唐揚げをフライパンに投下。

 肉自体には火が通ってるから、間髪入れずに適当カットした野菜たちも投下し火が通るまで炒め。

 火が通ったら甘酢あんを全体に回しかける。

 後は、あんが全体に絡むようフライパンを振り、完成。

 え? パイナップルが入ってない?

 ……おどれら異教徒か? 酢豚にパイナップルは入れんじゃろがい?

 正確に言うと、店で頼んで出てきた酢豚に入ってきたら食うよ?

 でも、家で作る酢豚にはパイナップルは入れなくない?

 そもそもパイナップルって結構高いぞ? 剥くのも結構手間だし。


「とまあこんな感じで完成です」


 出来上がった酢豚をそれぞれ皿に盛り、このメニューなら合うのは卵スープかなとフリーズドライの卵スープに手を伸ばし。

 ポットのお湯で人数分の卵スープを用意してはい完成。

 酢豚定食ですよ~……本当は酢豚を大皿に盛って、洗い物を減らしたかったんだけどね。

 四人がどういう環境と言うか、慣習と言うか。

 こう、一つの皿から複数人が取るっていうのに抵抗があったら嫌だなって事で、丸いであろう各人に一つ皿を用意した次第である。

 その辺の話も聞きたいんだけどな。

 いまいち聞くような空気にもならないんだよな。


「お待たせしました~」

「待っとったぞい!!」

「随分と食欲をそそる匂いですわね」

「香りにも酸味が入っているな。余程酸っぱいのか?」

「そこまで酸っぱいという事はないだろう。恐らくだが」


 と、酢豚を見た感想は四者四様。

 言われてみると酸っぱい匂いって確かにあるな。

 まぁ、味覚と嗅覚は近いって話があるし。

 四人にそれぞれお茶も用意して、いただきます。


「むほほほ! 肉がしっとりとしとるわい!!」

「味も素晴らしいですわ! 確かに酸味はありますが、何と言うか……尖ってない、丸いような酸味ですわ!!」

「酸っぱいだけじゃないな。酸味の奥から甘みやうま味が顔を覗かせる」

「肉にも野菜にも合う素晴らしいタレだ……そして何より」

「「ご飯に合う!!」」


 最後はみんなでハモっちゃったよ。

 まぁ、喜んでもらえた様で何より。


「むぅ……」


 と、ここでガブロさんが怪訝な顔をし始める。

 あのガブロさんが。食いしん坊と書いてガブロと読むような人が。

 食事の手を止め、まじまじと白米を見つめていた。


「どうかしましたか……?」


 たまらず不安になって尋ねてみると……。


「米が美味い……」


 と、低くうなる様に言ってきて。

 それを聞いて、他の三人もハッとなって米だけを口に運ぶ。

 えーっと……みなさん?

 どうされたので?


「言われてみるとそうだ。米が美味い……」

「米にも何か秘密があるのか?」


 マジャリスさんとラベンドラさんが顔を見合わせながらそんな事言ってるし。

 マジで何の事なんだ?


「つい先日、教えて貰ったレシピをラベンドラが作ってくれたのですが……」


 リリウムさんが困惑している俺を見て説明し始めてくれた。

 教えたレシピ……あ、チャーハンね。


「確かに美味しかったですし、振舞った相手も絶賛して食べてもらえたのですが……」

「今この米を食ってハッキリわかった。向こうで食べた米は、あまり美味くない」

「というより、こっちの米が美味過ぎるんじゃわい」


 と、口々にそう言う事を言ってきた。

 炊き方……かなぁ?

 最近の炊飯器はどれも凄いし、企業の努力の賜物だよ。


「美味い米、美味いおかず、美味いお茶。控えめに言って最高だ」

「あら、この卵のスープも美味しいですわよ?」

「何でも美味いってことだ」

「昨日飲んだ酒も美味かったぞい!」


 なんてワイワイ四人で騒ぎながら。

 それぞれの目の前にある皿が、空になるのにそう長く時間はかからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る