第43話 飽くなき探究心

 やっと餃子にありつける……。

 結局二百個は焼いたぞ。

 この人たちの食欲やっぱおかしいよ。


「ぶは―! もう食えんわい!!」


 ビールをひっくり返し、満足そうに叫ぶガブロさん。

 その表情から、餃子とビールの組み合わせには大層満足されているようだった。


「やっぱりチーズ入りが至高」


 その隣で同じくビールを逆さまにし、一滴も残ってない事を確認しながら言うのは姉貴。

 ていうかあんたら、なんか意気投合してない?

 単に飲み仲間の認識とかならいいんだけども。

 下手に意気投合されると厄介だから勘弁願いたいものだが。

 ……うん、美味い。

 姉貴の言う通りチーズ入り餃子は美味い。

 けど、重くもあるんだよなぁ。

 肉だけでも重いのに、そこにチーズも入るわけだからさ。

 ちょっと脂がきつくなってきた年齢の俺にとって、チーズ入り餃子はそんなに数食べられないかな。

 ……待って? 冷静に考えて俺より歳いってる姉貴が平気なのはなんでだ?

 もしや強靭な胃袋をお持ちでらっしゃいます?


「チーズ入りも美味かったが俺は大葉入りを推したい。香りと風味のアクセントが効いてさっぱりと食べられた」


 うんうん。

 ラベンドラさんの言う事は正しい。

 ……正確には、さっぱりと感じるだけで、結局肉なのは変わってないから重いんだけども。


「私は『――』の身の餃子が一番でしたわ」

「俺もだ。と言うか、カケルの調理した『――』の身を使った料理はどれも美味過ぎる」


 リリウムさんとマジャリスさんはエビ餃子推し。

 分かる。とても分かる。

 何だかんだ結局ハズレがないし、自分で言うのもなんだけどかなり良く出来てるよ。

 ほんと、最高に美味い。

 だけど……、


「次は蒸し餃子にもしたいよね。蒸し器とか準備が要るし、そうなると皮をまた自分で作らなくちゃだけど」


 エビ餃子は、焼きよりも蒸しの方が美味しそうな感じがする。

 作っておいて言うのもアレだし、みんなが食べ終わって言うのもアレだけど。


「蒸すやり方もあるのか?」

「ありますよ。ただ、皮をもう少し厚くしてやりたいですね」


 焼き餃子用の皮だと何と言うか、もっちり感が無いんだよな。

 蒸し餃子にするならもう少し皮をどうにかしたいところ。

 蒸した時に中の具は透ける厚さ。かつ、もっちりとした食感が楽しめる厚さ。

 それこそが蒸し餃子の至高。


「この餃子で蒸してみるのは無理か?」

「大丈夫だと思いますよ? 蒸し加減とか分からないんで、詳しいアドバイスとかは出来ませんけど」

「そうか」


 というわけで餃子と水餃子のスープを完食し、お片付け。

 四人から、


「それだけでいいのか!?」


 と驚かれたけど、別に俺は小食ってわけじゃないよ?

 あんたらが食べまくっただけ。

 ……と言いたいけど、冒険者なら身体が資本だし。

 食ってなんぼみたいなところあるんだろうなぁ。

 まごう事無き肉体労働だろうし。

 ……呪文詠唱するリリウムさんは頭脳労働かもしれないけど。

 さてと。


「ラベンドラさん、用意した餃子が結構余ったんで、残りは持っていきませんか?」

「是非頼む。あちらの世界でもまた餃子が味わえるとなれば、やる気が出るというもの」

「向こうのエールで楽しみたいのぅ!」

「ポン酢の再現が待たれますわ」

「そこのところは重要だが、どうなんだラベンドラ?」

「任せておけ。あとは素材だけで再現可能だ。既にレシピも確定した」

「流石じゃな!!」


 へー。

 ラベンドラさん、異世界でポン酢を作れるのか。

 ……マジ? 俺自体、ポン酢がどんなのか漠然としか分かってないのに?

 味と成分表だけ見て再現したってヤバくない?

 控えめに言って。


「素材もわりかし安価なものばかりだ。このレシピを献上すれば、我々のパーティの覚えも良くなるだろう」

「『OP』枠が外れる力にもなる、というわけだな」

「カケル様に感謝ですわ。何から何まで、私達に力添えして頂いて」


 なんかリリウムさんに感謝されたけど、俺はただ飯作ってるだけですよ?

 皆さんから貰った素材を使って。

 んで俺もその料理食ってるし。別に感謝は……してくれていいか。

 ありがとうって言われていい気がしない程、俺は人間ひねくれちゃいませんよ。


「あんまり持ち上げ過ぎたらダメよ? 翔はすーぐ調子に乗るんだから」

「姉貴の明日の朝飯はプレーンのトーストを用意しとくよ」

「ジョウダンデス」


 いいか? 食事事情を握った相手を怒らせちゃダメだぞ?

 こうなるからな?


「では、今回もお世話になりましたわ」

「最高に美味かったぞい。……次は、もっとビールを用意しておいてくれると嬉しいがの」

「調理以外にあまり負担を掛けさせるんじゃない。明日も頼むぞ」

「ではまた」


 虚空へ出現する見慣れた魔法陣。

 そこへ、挨拶を言った四人が次々と入っていって。

 全員の姿が消えた後、その魔法陣も消失。

 ……さて、と。

 明日の朝飯でも用意しておきますかね。

 ちょっとやりたい事出来たし、最後のエビダトオモワレルモノを使い切っちゃおう!

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