第42話 何の戦略的優位もない

「先に食うぞい?」

「どうぞどうぞ。焼けたらそっちに持っていきますんで」


 一応ガブロさんからお伺いが立てられたけど、焼くの俺しかいないし。

 ってわけでみんな俺の事は気にせず先に食べちゃってください。

 ……私に構わず――ってやつですな。

 あっ、そう言えば大皿で出しちゃったけど大丈夫か?

 ――と思ったら姉貴がちゃんと人数分で等分して分けてたわ。流石姉貴。


「餃子にはポン酢が合うわよ~」


 とか言いながら自分の取った餃子にポン酢を直にかける姉貴。

 うん。言ってくれたらポン酢注ぐ用の小皿出したからね?

 初めて餃子食べる人に直にかける食べ方を教えないの。

 その人たち、まだどれくらいの量で丁度いいかなんてわかりっこないんだから。


「気が利かずすみません。これ、ポン酢用のお皿です」


 別に付きっきりになる必要ないし、ちょっとフライパンから離れて小皿を置いてきた。


「これにポン酢を注いで浸して食べるのだな?」

「ですです」

「皮から色が透けておるが、赤いのは『――』の身じゃな?」

「です」

「ふふ、楽しみですわ。――いただきます」


 まず先陣を切ったのはリリウムさん。

 俺はフライパンに戻ったから、肉餃子かエビ餃子のどちらを食べたかは分からなかったけど……。


「~~~!! これ、すっごく美味しいです!!」


 語気から幸せなのが伝わってくる感想を頂いた。

 これだよ。料理作ってて一番幸せな時間は。

 自分の作った料理で誰かが喜んでくれる。これに勝る感覚は無いね。


「身がプリップリで、まるで口の中で踊っているようでしたわ! それにこの調理法自体が面白いです!! 薄い皮を破るとそれだけで中の肉汁がジュワッと出てきて――。一口噛むごとに肉汁が増していきますの! そして口の中に広がる旨味と言ったら……」


 感想から察するにリリウムさんが食べたのはエビ餃子だな。

 ……美味いよなぁ。シュウマイとかも美味しいけど、俺はやっぱりエビ餃子が好きだね。

 作るにしても店で食べるにしても値は張るけど。


「頂くぞ」


 次鋒、マジャリスさん。

 食べる宣言の少しあと、タンッ! と音が聞こえ。

 何事かと思って振り向けば、マジャリスさんが箸を揃えた状態でテーブルに叩きつけてた。

 美味しい時に出る反応ですね。ご馳走さまです。


「なんだこれは? ……なんだ?」


 咀嚼しながらめっちゃ不思議がってるのおもろい。

 魔改造大好き日本食を楽しめ~。


「リリウムの言う通り、薄い皮を破って溢れてくる肉汁が凄い。そして、何より具だ。しっかりと肉の感じが残りつつ、食感の違う肉が見事にマッチしている」


 食べたのは肉餃子ですね?

 ブタノヨウナナニカとトリッポイオニクのハーモニー。

 ブタノヨウナナニカだけだとちょっとくどいか? と思ってトリッポイオニクと合い挽きにしたんだけど、それが大正解だったみたいだ。


「こういう調理の仕方もあるのか。……なるほど」


 と、こちらは既に食べていたらしいラベンドラさん。

 実を言うとラベンドラさんのコメントが一番身構えるんだよね。

 こう、料理をしている人だしさ。

 何言われるかって、若干怖い時がある。


「薬味の香りが素晴らしいな。これで脂のくどさがさっぱりする」


 ラベンドラさんは大葉入りを食べたみたいだね。

 大葉も入ってるだけで全然違うよね。入るだけでこれぞ和風! みたいな空気纏うもん。


「ほほー-っ!! この餃子っちゅうもんは最高じゃな!!」


 最後にガブロさんっと。

 うん。この人のコメントは期待してないよ。

 だって大体叫んで美味いって言ってがっつくからね。

 ……もちろん、嬉しい。と言うか、下手な食レポされるより、「美味い」だけの方が嬉しい場合があったりする。

 ようは、それ以外の感想が出てこないくらいって事だもん。

 まぁ、ガブロさんは絶対にそんな事考えてないだろうけど。


「肉とチーズの相性が最高じゃな!! こりゃあ絶対にビールに合うわい!!」

「お、分かってるじゃん!! 翔ー! ビール二本持って来てー!」


 ガブロさんのおつまみセンサーが最大感度になりましたっと。

 あと姉貴、便乗すんな。酒が弱い俺がそうビールを確保してると思うなよ?


「あるけどその二本で最後だからな?」

「? 餃子するつもりなのにビール買って来なかったの?」

「俺そんなに飲まないし」

「……マジ?」


 いや、そんな嘘でしょ……みたいな目で見られても。

 無いものは無いよ?


「このスープも美味いな」

「こっちの餃子は大きくてもちもちしていますわね」

「皮がスープを吸って丁度いい塩梅になっているな」


 ほら。呑兵衛二人は無視されて三人は水餃子を楽しんでるし。

 ……あー、もしかして焼き餃子が無くなっちゃった系?

 確認したらやっぱり奇麗さっぱり食べ終えちゃってるや。

 もう少しで次が焼けますからねー。

 ……この速度なら次は絶対に間に合わないし、しょうがない。

 フライパンを追加し、二刀流の構え。

 遅いぞ武蔵。待たせたな小次郎。

 というわけで焼き終えた餃子を皿に移し、五人の前に置いて先程の皿を回収。

 二つのフライパンで餃子を焼き始める。

 俺の餃子装填リロード革命レボリューションだ!!

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