第89話 思わぬ効果
人参に箸を突き刺し、煮えて柔らかくなっている事を確認。
うん、抵抗なく箸が入っていくね。
じゃあ――卵……割りますか。
中にどれほど入っているかは知らないけど、とりあえず一旦ボウルを用意。
で、テーブルの角にぶつけてみた。
――けど……。
「割れない……」
結構力入れてぶつけたのに、逆にテーブルが動いたぞ?
殻、固くない?
「カケル、貸してみろ」
それを見たラベンドラさんが、卵を渡せと。
何するんだろうなぁと思いつつ、卵を渡すと……。
「せい!」
卵の先端部分? あの尖った場所ね。
そこを数センチほど切断してくれたよ。
……手刀で。
もしかしなくてもラベンドラさんて武闘派だったりします?
あ、答えなくていいです。怖いんで。
「ほら」
「あ、ありがとうございます……」
多分顔が引きつってたと思うんだよな。
ま、まぁ、とりあえず切断してもらった卵をボウルの上で逆さまに……。
デュロン! って勢いよく中身がコンニチワ。
って、ほぼ黄身じゃん。
白身っぽい白身が見受けられない。
まぁいいか。白身はあっても無くても。
色も凄いな。
あの、某ドラマのオープニングみたいな変な色してるとかじゃなく、単純に濃い。
あんな? オレンジには二百色あんねん。
とまでは言わなくても、同じオレンジでも赤の比率が多かったり、逆にほぼ黄色みたいなのもあるじゃん?
あんな感じで、とにかく濃いオレンジ。
100%のオレンジジュースよりも濃い色してる。
んでまぁ、それに箸を突き刺し……これ、混ぜる必要あるか?
そのまま流し込んじゃえばいいんじゃね?
って事で、そのまま具材に回しかけ。
蓋をして、火を止めて、蒸らしタイム。
ゆっくり卵に火を通しながら、今のうちに丼にご飯をよそい。
……今日もお吸い物だな。本日はアサリのお吸い物なり。
いやぁ、スーパーに期間限定とかで置かれててさ。
買うよね。普段と違うお吸い物だし、期間限定だし。
「いい匂いだ。……そうだ、先程のつゆはお吸い物に味が似ているかもしれない」
お湯が注がれ、昇って来たお吸い物の香りを嗅いで、ラベンドラさんが一言。
確かに、お吸い物もダシっちゃダシか。
「あの繊細な味のスープか」
「上品な味でしたわよね」
「むぅ。美味いには美味いが味が薄すぎりゃせんか?」
「あくまで似ているだけだ」
四人の反応は面白いんだけど、これ以上待たすと姉貴の空腹爆弾が爆発してしまう。
親子丼の具の蓋を開けると……。
いい感じに固まってますわね~。
じゃあ、それを丼に盛りつけまして。
カイワレをてっぺんに添えれば完成!
本当は三つ葉がいいんだけどね。カイワレが求めやすくて好き。
「お待たせしました。親子丼です」
「ほぉ! 卵で具材を包んでいるのか」
「包むほどの事はしていなかったぞ? あえて言葉にするなら卵でとじていた、という所か」
「なんだっていいわい。美味けりゃあな」
「美味しそうな匂いがしていますもの。間違いありませんわ」
と、既に喜んでる四人に比べ、
「どんな感じ?」
「うまく出来たと思うよ。まぁ、不味くはないな」
リクエストを出した当の姉貴は匂い嗅いだり、結構疑ってそう。
初めて砂糖を使わずに親子丼作ってみたけど、別に変な味にはならないだろうし。
普通に食いなんし。
「早速いただくぞ」
まず先陣を切ったのはラベンドラさん。
つゆも味見してるし、俺がどう作るかも見ているしで、一人期待感が高まってたのかもね。
具とご飯を口一杯に頬張って。
しばし目を瞑って咀嚼。
味に集中しておられ、
「さっぱり、あっさりとした味付けだ」
最初の一言はそれ。
ただ、
「それゆえに誤魔化せない美味さになっている。奥行きのある味わいで広がっていく風味。それらを包み込む卵特有の味、甘み、コク。どれか一つでも歪になれば、ここまでの味にはなるまい」
と続いた。
で、そんなの聞いたら他の三人が掻っ込まないと思う?
思わない。デスヨネー。
って事で、残りの三人も掻っ込んで。
「美味い!! 確かにあっさりとした味だが決して薄くはない」
「味の系統的には炊き込みご飯にも似ていますわね。あちらと違い、つゆがご飯に絡むのがポイント高いですわ」
「確かに美味い。味の中に一つどっしりとした芯がある様じゃ」
だそうです。
四人的には大成功。
さてさて姉貴は?
「あ、美味し」
目を丸くして驚いてるよ。
おーい? リクエスト主が美味しくて驚いててどうするよ全く。
少しは信用しろっての。
「滅茶苦茶美味しい。なにこれ」
そんな驚く事かよ、と思いながら俺も一口。
……え?
「うっま。なにこれ?」
「でしょ? なんと言うか、知らない美味しさよね?」
姉貴が同意を求めてくる理由が分かる。
味は和風なあっさりの親子丼。
なんだけど、何か絶対に俺が知らない味が一つ入ってるんだ。
それのおかげで全体の美味しさが一段上がっているというか……。
え? 普通に怖い。別に今日特別な事は……。
――あ、卵。バジリコックとかいう魔物の卵!
使ったじゃん! 得体のしれない食材!
「卵のせいかも……」
「……納得」
いや、誤算だったけどマジで美味いわ。
異世界産卵、見直した。
「はっ!? わしは天啓を得た!」
食べてたらガブロさんがいきなりそう叫び、何をするかと思ったら日本酒をトプトプ。
んで、親子丼を掻っ込んで。
飲み込んだらすかさず日本酒。
あー……合いそう。
「くぅ~~~!! 最高じゃな!!」
甘くない親子丼なんて、日本酒に合わないわけがないじゃんね。
くっそ幸せそうに飲んでましたわ。
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