第90話 現代人的お茶目

「そう言えばなのだが……」


 みんなに持たせるご飯……親子丼の具を更に卵で包んでオムレツ風にしたサンドを作っていると、ラベンドラさんから声を掛けられ。

 何事かとそちらを向けば、ラベンドラさんの視線は俺の手に持つ包丁へと注がれていた。


「その包丁……名のある鍛冶師の製作か?」

「? あー……有名というか、まぁ、職人さんが作ったものですね」


 今時包丁なんてスーパーで買えるもの。

 だが俺はあえて! ちょっとお高めのいい包丁を使っていたりする。

 別に見ている動画配信者がコラボしたとか、そのコラボ包丁が抽選でしか買えなくて何度も挑戦したとか、抽選が当たった時には一人でガッツポーズしてたとかではない。断じて。


「やはりか」

「何かありました?」


 なんだろう? 

 別にそこまでの包丁……いわゆる、日本刀のような包丁ではないはずなんだけど。


「いや、肉も野菜も魚介も難なく切れているし、余程物がいいのだなと」

「もっと上の包丁になれば凄いものはいくらでもありそうですけどね」

「そうなのか……」


 なんてやり取りをして思ったわけ。

 よくさ、異世界転移系の作品とかで、ドワーフに日本刀を再現させる……みたいな展開あるじゃん?

 やってみたくね?

 って事でガブロさんにお声がけ~。


「ガブロさ~ん」

「む? なんじゃい?」


 ちびりちびりと日本酒を飲ん出たガブロさんが、赤い顔をこちらに向ける。

 って、もう日本酒が半分以上減ってる!?

 飲むペース速くないか!? ……て、ドワーフだもんな。

 しょうがないか。


「ちょっとこちらの動画を見ていただきたくて~」


 取り出したるはタブレット。

 検索は日本刀の作り方解説。

 というわけで刮目せよ! 日本のオーパーツ、日本刀の神髄を!!


「む、鍛冶の映像か」


 酔っていたのかトロンとした目も、映像が鍛冶関係と分かった瞬間。

 キッと鋭い目つきに変化。

 さてさて、俺はお持ち帰り用に集中しますか。

 いわゆる和風オムレツサンド。まぁ、不味くはないはず。

 あと、小細工として今日買って来たパンは米粉パンだったりするのだ。

 和風の具に合わせるならこっちの方がいいと思ってね。

 米粉パン……美味いよなぁ。

 もっちもちのしっとりしててさ。

 焼き戻すのもいいけど、俺は断然焼かずにそのまま派。

 余ってたバジリコックの卵に、塩コショウと親子丼の具のつゆを適量。

 よくかき混ぜて、フライパンに流し。

 表面が固まったら、親子丼の具をそこそこ乗せて、包んで完成。

 卵で卵を包むのは不思議な気もするけど、まぁ、食べたら一緒だって。

 不味くはならんだろうしね。


「……いや、こやつらは何を言っておるんじゃ?」


 で、動画を見てたガブロさんがそう呟いたもんだから、どの辺かな? と覗いて見れば。

 日本刀の、固い鉄と柔らかい鉄? みたいな解説だったね。

 ようは、焼き入れの時に刃の部分に泥を塗るって部分の解説。

 まぁ、言われても分からんよなぁ。俺も分からん。


「ほー……そうなるんか」


 ガブロさんは理解できたみたいだけどね?

 やっぱり本職の方は違いますわね。


「我らの武器に応用できそうか?」

「すぐには無理じゃな。素材の選定やら、試しに作ってみたりせんと……」

「時間が掛かりそうです?」

「弟の工房でやらせてみるわい。……ただ、もしこの映像の通りのスペックになれば、一つ、時代が進むじゃろうな」

「そこまでの代物か?」

「そこまでの代物じゃな。というか、既存の剣などにも全然応用が可能じゃからな。それこそ、短剣とかがこの切れ味になれば護身用として頼もしいじゃろうて」


 なんて冒険者で盛り上がってる所に、


「解体用ナイフとかに使われてもおかしくないですよね」


 と、何気なく言った俺の一言に、全員がバッとこちらに顔を向けてきて。


「……そっちの方が需要高そうじゃな」

「敵を倒せてこその解体では?」

「いや、よく切れるというだけで、かなり解体がやりやすくなる。手早く済ませなければいけない魔物は多いからな」

「この映像が本当なら、骨すらも切断できるのだろう?」

「骨髄系の素材が取りやすくなるわい。砕いて潰したとかは今後無くなりそうじゃわい」


 さらに盛り上がる。

 ……というか、再現できる前提で喋ってるけど、出来るのかな?

 まぁ、出来るからこんな話してるんか。


「ダンジョンから出たら、わしは一旦里に戻るぞい」

「分かった。……ではその間は自由行動にするか?」

「どうせガブロはレシピを伝えるだけでしょう? 私が転移して送りますわ。でないと、夜に間に合いませんわよ」

「それもそうか」


 夜? ……夜に何かあるのか?


「一応確認だが、カケルの飯を抜くという考えは?」

「一切ないわい」


 あ、そうか。ここに来るのか。

 ……自分で自分の事忘れてるのヤバいわ。


「あ、出来上がりましたよ」

「む? すまないな」


 ちなみに途中からオムレツが面倒になったから卵焼きにスタイルチェンジした。

 卵焼き用のフライパンでやった方が楽だったし。


「ほほぉ。タマゴサンドか」

「今日食べた丼の具が中に入ってるんで、美味しいと思いますよ」

「いつもありがとうございますわ」

「また明日も頼む」

「じゃあね~」


 渡された卵焼き(オムレツ)サンドを受け取り。

 テーブルに突っ伏してだらけていた姉貴の見送りの声を背中に受けて、魔法陣へと姿を消す四人。

 さて、洗い物をしていきますかね。

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