第91話 待望の……

 えー……届きました、牡蠣。

 姉貴が翌日着で頼んだらしいんだけど、色々あって一日遅れたらしく。

 仕事が休みだからと家でゆっくりしてたら、ピンポーンって。

 んで、出てみたら牡蠣だった、と。

 その量、ドサッと3㎏……と思うじゃん?

 姉貴、一人3㎏で買ってやがりました。

 というわけで俺と姉貴で二人分、計6㎏。

 多いて。食うけど。

 ぜんっぜん食うけど。

 何なら倍あっても食うけど。


「ちなみに生食用を買ったから、そのままでいけるよ?」

「まぁ、まずは生でしょ」


 というわけで、何故かある牡蠣用ピックを姉貴にも渡し。

 まずは生でいただきます。


「翔、醤油取って」

「ん……」


 姉貴に言われて醤油を手渡し。

 じゃあ、俺もレモンを絞って……。

 待て? 確か冷蔵庫に……。


「なにしてんの?」

「いや、かぼすをそう言えば貰ってたなぁと思ってさ」


 転がっていたかぼすを取り出し、カットしまして……。


「レモンが合うならかぼすも合いそうじゃない?」

「面白そう! 私もやる!!」


 姉貴も乗ってきたので二人してかぼすを絞り、牡蠣をツルリ。

 …………うっめぇっ!

 これだよ!! これ!!

 プリップリの身と濃厚な味! 風味!!

 その後から来るかぼすの酸味と香りがたまらん!!

 ヤバい、いくらでもいけるわこれ。


「あ、合う」


 姉貴的にもヒットだったっぽいな。

 いや、うめぇわ。気が付いたら二個目食ってたし。

 リリウムさん達には悪いけど、やっぱこの見た目の食べ物はこの味じゃないとな……。


「ちなみに翔、もしこれを調理するとしたら?」

「牡蠣グラタンにクラムチャウダーはこの間言ったよな? ……味噌ベースのソースとチーズで和風グラタンとかどう?」

「採用! お昼ご飯それがいい!!」

「んじゃあ今から作るか。……他はお吸い物でいいよな?」

「全部任せる!!」


 という事なので今からお昼ごはんの準備。

 とはいえやることは単純明快。

 牡蠣を剥き、ソースを作って、さらに並べた牡蠣にソースを塗り、チーズを乗せて焼く。

 ね? 簡単でしょう?

 というわけで慣れた手つきで牡蠣を剥き、味噌、醤油、酢を混ぜ合わせた味噌ソースを準備。

 ここに、エシャロット……は無いので普通に玉ねぎのみじん切りを投入。

 よーく混ぜ合わせたら、グラタン皿にオリーブオイルを塗って牡蠣をギッシリ並べ。

 並べ終えたら先程のソースを薄く塗り、ピザ用チーズをたっぷりと乗せてオーブンへ。

 作ってる途中に食べたくなったから一つつまみ食いしたら、姉貴に咎められて姉貴もつまみ食い。

 焼き上がるまでに合計六個ほどつまみ食いしました……。

 牡蠣ってさ、やっぱり魔力なんよ。

 んで焼き上がった和風牡蠣グラタン。

 お吸い物とご飯とで美味しくいただきました。

 牡蠣には酸味のある調味料が合うね、やっぱり。

 あと、大葉を乗せても絶対に美味しかっただろうな。

 異世界バナナを食べた二人だからこそ、想像していた味の牡蠣を噛み締め、頬張りながら堪能しました。

 美味しかった……。



「すこぶる順調だったな」

「最下層まであっという間でしたわね」


 『ヴァルキリー』のリーダー、タラサと、リリウムはまるで確認のように口にして。


「扉の向こうに、ダンジョンボス」

「鬼が出るか蛇が出るか、と言ったところか」


 調理士のヘスティアと、ラベンドラがそれぞれの武器を構える。


「難易度的にも、そこまで高くはない。我々が踏破した情報を手に入れた冒険者は、このダンジョンに詰めかけるだろうな」

「そうなれば、ダンジョンの内部が詳細に描かれている地図は需要が高くなりそうですね」


 互いの地図を見せ合いながら、これまでの見落としがないかを確認し合うマジャリスとネモシュ。


「出来りゃボスだけは珍しい魔物がいいのう」

「さんせー! 少なくとも、オレたちも暴れられるくらいの魔物がいい」


 既に臨戦態勢に入っているガブロとアタランテは、扉の奥に居るボスと戦うのを今か今かと心待ちにし。


「皆さんに能力強化の魔法、かけ終わりました!」


 レトによる能力上昇魔法の強化が終わったという報告を受け――いざ。

 ダンジョンの最下層、ボスの居るエリアへと足を踏み入れた一行は……。


「なっ!?」

「こ、これは……?」


 入った瞬間から、耳に届くのは百や二百はくだらない魔物の声。

 今しがた足を踏み入れたリリウム達や『ヴァルキリー』を明確に敵とみなし、威嚇する声。

 その声の主は……。


「オークの群れ? ちゅーことは、ボスはオークジェネラルかの?」


 ガブロの言う通り、オークの声であり。

 ただ、オークがダンジョンのボスとは考えにくい。

 無論、どれほどの数が集まっていようとも。

 ゆえに、ガブロは、このオークの集団を統率する、オークの上位種がボスだと判断したのだが……。


「ジェネラルもいるが、ボスではないな」

「エリアの検知を終えた。ここのボスは――」


 ラベンドラとマジャリス。

 二人のエルフによって行われた、今いるエリア全域に渡る魔法による検知の結果。


「クラウンオークだ!!」


 ダンジョンボスは、オークの最上位種であることが判明したのだった。

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