第74話 カニミタイナカタマリ玉あんかけチャーハン

 目の前には熱され、白い湯気をあげている中華鍋。

 その横にはいつでも焼けます状態に準備されたフライパン。

 その前に座すは私、臥龍岡 翔。の隣にはラベンドラさん。


「というわけで、まずはチャーハンを作っていきます」


 と宣言し、ラベンドラさんがこくりと頷いたのを確認し。

 まずは割っていた卵を中華鍋に落とし、直ぐに黄身を割って、炒り卵に。

 そこへすかさずご飯を投入。これがまた重いんだ。

 何せ大食いの四人+俺の分なわけだからね。

 手首が悲鳴を上げる寸前の重さだけど、これも料理の為。

 卵とご飯がある程度混ざったら、ネギ、カニミタイナカタマリ、かまぼこを投入して混ぜ合わせ。

 塩コショウと水に溶いておいた味覇をぶち込む。

 すかさず鍋を大きく振って混ぜ合わせ。

 フライパンの方にかに玉の具を流してかき混ぜて。

 そっちは蓋をし、蒸し焼きに。

 そしたら甘酢あんを火にかけて温めなおし、その間に出来たチャーハンを盛りつけまして。


「……よく同時並行で料理を進められるな」

「まぁ、慣れてますから」


 俺の動きを見てたラベンドラさんがポツリ。

 まぁ、マルチタスクの極みだと思うよ。複数の料理の同時進行って。

 でもまぁ、マジで慣れというか。

 それが出来ないと作れない料理とかそこそこあるじゃん?

 だからまぁ、自然に身に付いたというか……。

 これが仕事にでも活かせればいいんだけどね。

 現実は非情である。


「後は盛り付けるだけなんで」


 といって、皿に盛ったチャーハンの上にかに玉を乗せ。

 その上に甘酢あんをかけまして。

 完成! あんかけかに玉チャーハン!

 カニさえありゃあ結構簡単に出来るんだよね。

 カニさえあれば。


「もう匂いだけで美味いぞい」

「音だけでも美味い」

「期待が高まりますわね」


 なんて、待ってる三人が言ってるよ。

 なんだっけ、目の前で調理することで味の期待感を高めるみたいな手法。

 音とか、匂いとかで味覚以外にも訴えるやつ。

 ……ライブなんちゃらとかだったような――。

 ま、いいか。


「材料は教えた通りで、調理にあまり難しい事はしませんから、材料さえ揃えば再現は簡単だと思いますよ?」


 なんて、提供しながら言ってやれば、三人は期待の目をラベンドラさんに向けてみせ。

 ラベンドラさんも、


「任せておけ」


 と自信たっぷり。

 瞬間、揃ったようにガッツポーズする三人っと。

 楽しそうですわね。


「それじゃあ、早速いただくぞい」


 と、出されたレンゲでかに玉をほぐし、チャーハン、あんと一緒に掬ったガブロさんは、大口を開けて一口。

 ――すると当然、


「美味い!!」


 おろ? むほほとか言い出すと思ったら、シンプル美味いですか。

 ちょっと想定外。


「これ、とてもすごく美味しいです!! 卵はふわふわで、かかってるあんも凄く美味しいです!!」


 リリウムさんは無事に語彙が喪失と。

 マジャリスさんは?


「…………」


 無言でがっついてますわね。

 良かった。またネット民みたいな言葉を発するんじゃないかとひやひやしたよ。

 やっぱり翻訳魔法のバグだったんかな、あれ。


「パクパクですわ……」


 ダメみたいですね。

 そんな呟くように言わんでも。

 というか、何をどう翻訳したらそうなった?

 むしろ翻訳前の言葉を知りたいまであるぞ?


「卵の食感から現れる各食材の風味。それらを後ろからなぎ倒してくる『――』の身のうま味。喧嘩する直前にあんの甘みと酸味に仲介され、手を繋いだ時にそれらを押しつぶすチャーハンのうま味。……芸術か?」


 料理っす。

 ラベンドラさん、あなた調理工程は見てたでしょ?

 そんなに褒めても何も出らんぞよ。


「チャーハンだけでも美味しいんですのに、こうして卵やあんが乗っていると味が数段アップしますわね」


 語彙力おかえりなさい、リリウムさん。

 まぁ、チャーハンとあんかけチャーハンはまた何というか、戦う土俵が違うと申しますか。

 チャーハン界隈とあんかけチャーハン界隈は相容れぬ存在といいますか……。

 あ、個人の感想です。


「ほぼ初見じゃろう素材をここまで完璧に調理するとは、やはりカケルは調理士として腕があるのう」


 なんてガブロさんに言われるけど、初見――初見ねぇ。

 だってカニだよ? 今までもそうだけど、見知った食材ですもの。

 そりゃあ調理法も知ってるわよって事。


「私から見ても、カケルは非常に料理が上手い。特筆すべきは作業の無駄のなさだな。工程を間違わず、時に並行して行える。我々の世界ならば、引く手あまただっただろう」


 ラベンドラさんからも褒められちゃったや。

 けどなぁ、本職料理人の人達からすりゃあ、俺なんて素人もいいとこ。

 本職の人達は、もっと色々と洗練されてますわよ。

 ま、褒めすぎるとすぐ調子に乗るんで、その辺にしといてください。


「上手く出来て良かったです」


 なんて言って、ようやく一口。

 ……あー、うっめ。

 いや、チャーハンにかに玉なんてまず間違いなくハズレがない組み合わせなんだけど、ここまでうめぇか。

 カニの――いや、カニミタイナカタマリの底力とでもいうのか? これが?

 チャーハンはしっかりパラリと仕上がってて、かに玉はみんなが言うようにふっくらしてる。

 そこに甘酢あんが絡んで、マジで飲み物みたくスルスルと食べれちゃうや。

 そういや、某大食い動画でも言ってたな。

 あんがあるとないじゃ全然違うみたいな。

 カレーすら飲み物ってのは有名な話だけど、その人たちからしたらあんかけ○○も全部飲み物とかなんとか。

 そういった意味じゃあ、このあんかけかに玉チャーハンが飲み物と言われても納得せざるを得ない。

 つまりはあんかけかに玉チャーハンは大成功ということ。


「本当に、毎回期待を越えてくれる」

「この為に購入したようなものですものね」

「身だけだったから値段は抑えられたがな。あとは、ガブロの解体の腕も大きい」

「久しぶりの大物で楽しかったぞい」


 なんて四人の会話を聞きながら、俺はゆっくりとお茶を飲んだ。

 美味しかったのとスルスル飲めちゃったから、食べすぎちゃったよ。

 しばらくは動きたくないね。

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