第390話 献茶

 持ち帰りのご飯は当然ヒツジナゾニク角煮サンド。

 煮汁から引き上げてバットに乗せ、数分置いて余分な煮汁を切っていきまして。


「キャベツよりはレタスが合いそうですかね?」


 と、ラベンドラさんに確認。


「そう……だな。レタスの方が合うだろう」


 という事で、バタールの腹に包丁を入れ、貫通しないように切り開きまして。

 そこにレタスを敷き、ヒツジナゾニクを詰めまして。


「薄くからしマヨネーズでも塗ります?」

「お願いしたい」


 マヨとからしを混ぜ合わせ、出来たからしマヨを薄くバタールへと塗りましてっと。

 角煮サンドの完成です。

 そう言えば、最初に持ち帰って貰ったのも角煮サンドだったような……。

 あっちは食パンで作った記憶。


「よし、完成です」

「これで明日も頑張れる」

「実際、わしらと共にする冒険者たちと分けとるが、探索の効率が凄い事になっとるからの」

「あ、そうなんです?」


 そういや、前は持ち帰り分を多くしてくれって言われたけど、今回は言われてないな……。

 どうしてるんだろうと思ったらちゃんと分けてるのか。

 ……でもそうなると、一人分が少なくなって足りないんじゃあ……?


「予定していた踏破ペースを楽に上回っている」

「半分……とまではいきませんけれど、それでもそれに近い日数で踏破出来そうですわ」


 なんだろう、こういう現場に生活の全てが掛かってる人の予定ってさ、ほぼ誤差なく綿密に立てられるものだと思うわけ。

 それを倍に近いペースで進めているとなると、どれだけ美味い物を食べるって事がやる気出させるのか分かるっていう。


「後は、皆が美味い食材にありつきたいと躍起になっている節もある」


 ……あとこれか。

 美味い物を食った上で、もっと美味い物を探そうというやる気スイッチ。

 そりゃあ……押すか。そのスイッチ。


「ちなみに持ち帰りの食事は皆さんで分けているんですよね?」

「じゃぞ?」

「一人分が少なくなりません?」

「足りない分は用意すればいい。もちろん、持ち帰る食事がメインではあるが……」

「『ヴァルキリー』にも調理士は居るんだ。そこも、カケルの料理を食べて最近は燃えているらしい」

「聞くところによると、チョコレートは常備しているらしいですわよ?」


 ……まぁ、持ち帰りの食事だけで食事を済ませてるわけじゃない、か。

 なるほどな?


「ではカケル、世話になった」

「お茶、とても美味しかったですわ」

「そろそろビールをじゃな……」

「明日も楽しみにしておく」


 そう言って、姿を魔法陣へと消していく四人。

 ……さて、


「お茶の淹れ方、調べるか」


 飲んだ感想。

 絶対に入れ方適当すぎた。

 もっと美味しく入れる方法があると確信する。

 というわけで検索検索ぅ!!


(のう)


 どうしました神様?


(こちらの世界の神が口々に茶を褒めとるんじゃが、そんなに美味いんか?)


 美味しいですよ?


(飲みたいのぅ)


 えぇっと……何々?

 温度は40℃くらいで、ゆっくり茶葉を開かせて抽出するのか、なるほど。


(お~い)


 最後の一滴まで絞る、と。


(そんな事より、一献くれまいか?)


 百万石の酒ぞ。

 ……なんで神様がそのネタ知ってるんですかねぇ?


(翻訳魔法が勉強してるのをチラ見したんじゃよ)


 するな、神様がチラ見なんて。

 あと、ネタを口にもしないで欲しい。

 既に崩れかかっている神様のイメージが、音を立てて崩れ去っちゃう……。


(お茶~)


 分かりましたよ。淹れればいいんでしょ、淹れれば。

 まったく……。



「……畑?」

「土の色がおかしい」

「新種のマンドラゴラが居るかもしれない。注意」


 異世界に戻り、休息し、食事を終え。

 探索を再開した『夢幻泡影』、『ヴァルキリー』、『無頼』達は。

 次の階層への階段を下ると、目の前に広がる光景に困惑。

 ――いや、事前に情報を持っていた『夢幻泡影』だけが、動揺すらしなかったが。


「『探査』」


 地面に手を付け、魔力による探査魔法を放つも、その魔法に引っ掛かった魔物の数は皆無であり。


「成長して抜け出した後か?」


 探査に引っ掛からなかったという結果から、至極当然の結論を口に出した『ヴァルキリー』のタラサ。

 しかし、


「……っ!? 何か来やがるぞ!?」


 魔力頼りではない、自分の本能からの警告に、周囲へと警戒を求めた『無頼』の言葉通り。

 その『何か』はやって来た。

 先ほど、探査の魔法で無感知だった土の中から。


「なんだこいつは!?」

「どう見ても新種のマンドラゴラですわね!!」

「なるだけ傷つけず捕まえろ!!」

「出来るか分からねぇぞ!!」


 そう言って、土の中からの脅威に対し、思い思いに動き始める『夢幻泡影』達。

 もし仮に、ここに翔が居たならば。

 きっとこう叫んだだろう。


「もしかしてそれ、トリュフですか!?」


 と。



「……すばしっこいのに、なンで固いンだよ」

「恐らく、一定以上のダメージを受けない」

「等しく十回攻撃すれば動かなくなりましたものね」

「そんな事より、魔力による『探査』に引っ掛からなかった方が気になる」

「魔力に反応しない特性……今までそんな魔物居なかった」

「つまりは……新食材?」

「腕がなる」

「明日の食事は楽しみにしておきますわよ!?」


 トリュフマンドラゴラとの戦闘を終え、畑のど真ん中に座り込んだ一行は、とりあえずもう襲ってくる個体が居ない事を確認しつつ、それまでに倒した個体の特徴を確認。

 翔からすれば、神様が新しく作り出した魔物という事前情報があるが、『ヴァルキリー』達にはそれは無いわけで。

 結果として、新種の魔物という結論には至るのだが。


「香りはいい。スパイスのようなニュアンスがある」

「これがどう料理に化けるか楽しみだぜ」


 そんな事より、ここにいる全員が気にしているのは……その味なのであった。

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