第77話 閑話 報連相

「お前らが昼に呼び出してくるとはな……」


 リリウム達によるオズワルドの昼頃の呼び出し。

 それに応じたオズワルドは、やや不満気に集合場所の宿屋やってきて着席。

 既に何かを調理中のラベンドラを尻目に、深いため息をつき。


「朝の出勤前ならともかく、ギルドに着いたら結構忙しいんだけどな」


 ギルドマスターとしての仕事量を考えろ、とリリウム達に言うも……。


「あら、じゃあお呼びしない方が良かったのかしら? ラベンドラ力作の、完全再現料理が出来たんでしたのに……」


 そうリリウムに言われ、押し黙る。

 今まで散々食べてきた、異世界の――翔の作った料理。

 それを再現出来たとあっては、食べたいのはもはや必然。

 まぁ、だからこそこうして素直に呼び出しに応じたわけで。

 こうして素直に着席し、出される料理を待っているわけで。

 ソワソワしながら料理が出来るのを今か今かと待つオズワルドへ。


「料理が出来る前に報告だが、近々とあるパーティと共同でダンジョン攻略に臨むことが決まった」


 マジャリスからの報告が入り。

 

「あまり時間はかからんとは思うが、戻るまでは依頼は受けられんぞい」

「一応、連絡を頂ければ戻れはしますが、火急な用事でもない限り控えていただけると助かりますわ」


 ガブロ、リリウムからもそう言われ。


「共同でのダンジョン攻略ねぇ……。揉め事にだけはならないようにな」


 その話を聞いたオズワルドは、そう忠告した。

 ダンジョンを攻略するうえで、誰かやどこかのパーティと手を組んで攻略するというのは珍しくない。

 ただし、ダンジョン内で倒したモンスターの素材の取り分や、宝箱の中身などの配分などで揉めやすく。

 予め第三者を立てて取り決めを行ったりと、割と面倒な事になりやすい。

 ましてや、リリウム達は『OP』枠とはいえ未だEランクなわけで。

 実力至上主義であり、その実力を表すランクが低い以上、他の冒険者から舐められかねない。

 そんな状態で対等な条件での取り決めを行えるかを考えると、オズワルドの忠告ももっともな話。

 だが、


「その辺は大丈夫だろう。なにしろ、相手は『ヴァルキリー』だ」


 そう言って調理を終えたラベンドラが料理を持って会話に入ってきて。


「待っていましたわ!」

「この香り! 見た目! 完璧じゃないか!!」

「ちょっと待て!? 今『ヴァルキリー』って言ったか!?」

「もう我慢ならんから食うぞい!!」


 聞き返すオズワルドの声は、他腹ペコ三人の声にかき消され。


「ガーディアンシュリンプのクリームパスタだ。冷めないうちに食え」


 ラベンドラからも促され、ため息をついて一口。


「……美味い。……美味いぞ!!?」

「当たり前だ。不味いものなんて作らん」

「味の再現も完璧じゃな!! これが今後はいつでも食えるのか!!」

「これだよこれ! この味! この風味!! この美味さ!!」

「本当に見事に再現されていますわ。もう本当に、飲み込むのも勿体ないほど美味しいですわ」


 翔の作ったクリームパスタを食べたことのある三人は、それぞれあの味を思い出しながら今のクリームパスタと比較して。

 記憶にある味との再現性の高さに脱帽。

 そして、


「うむ。思った通りだった。やはりこれでクリームパスタは完成だな」


 作った本人であるラベンドラも満足気。

 唯一置いてけぼりを食らっているオズワルドは、


「持ち帰ってくる料理だけじゃなく、普段からもこんなに美味い物を食っているのか……」

 

 これまでの話など奇麗に吹っ飛び、脳内は今食べているクリームパスタ一色に。


「……レ、レシピを聞いてもいいか?」

「一部は隠すが、味の決め手はワイバーンの手羽元のスープだ。脂で炒めた小麦粉に牛乳を加え、そこに各種調味料で味を調える。そこにワイバーンのスープを加え、ガーディアンシュリンプの身と共にパスタと和えれば完成だ」


 それだけで? と思う反面、


(ワイバーンのスープは飲んだことがある。濃厚なうま味で、スープが主役となってしまうほどの味だった。……それを、味を調えるために使うだと?)


 これまでの自分の中には無かった使い方に驚くオズワルドは、


「これは……他の料理にも色々と応用が利きそうなレシピだな……」


 即座にこのレシピの柔軟性を理解。

 頭の中でレシピがいくらで売れるかの皮算用を開始して。


「食材が食材だけに高くはなるだろうが、そこらの飯屋でも提供するところが出てくるだろうな」


 そう言ったラベンドラに力強く頷く。

 そこへ、


「まずは王へ献上してはどうでしょう? この間のカレーパンも大変喜んでいただけましたし、このクリームパスタも喜ばれるのではなくて?」


 リリウムの提案。

 瞬間、オズワルドは脳内の皮算用を停止。

 一気に王への献上と、その時の口上の作成へと切り替える。


「カレーパンの時は大変だったそうだぞ? 何せ、どんな香辛料が使われているのか誰も分からないとかでな」

「冒険者や商人が、香辛料が王族に飛ぶように売れるとフィーバー状態じゃったな」

「再現は不可能だったみたいですけどね。カレーパンの催促がうっとおしかったですもの」

「材料不足の一言ですごすごと引き下がったがな。材料さえあれば作れるのか? と聞かれたが、俺にすらどうすればあの味になるか分かってないんだ。作れるはずがない」


 クリームパスタを食べながら、カレーパンの話をする四人をよそに、オズワルドは脳内シミュレートに没頭。

 当然、王に献上する時の。


「よし。オズワルドも話は理解したようだし、我々は早速ダンジョンへと向かおう」

「戻り次第ギルドに顔を出しますわね」

「じゃ、行ってくるぞい」

「新しい食材を期待しておけ」


 そう言って、ほぼ右から左に通り抜けるオズワルドに挨拶をした四人は、転移魔法で『ヴァルキリー』の待つダンジョン入口へ移動。

 ――そして、


「……あれ? あいつらはどこへ?」


 ようやく脳内シミュレートから戻ってきたオズワルドは、居なくなった四人を探すために辺りを見渡すが。

 当然見つけられるはずがなく、一人残されたことを理解すると、ため息をついてクリームパスタを完食。

 トボトボと、ギルドに戻り、自分の業務をこなすのだった。

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