突撃！ 隣の世界の晩御飯！

第76話 カニミタイナカタマリ炊き込みご飯

「それでは、今日は調理はもうしない、と？」

「ですね。もう出来ちゃってるんで」

　いつも通りにやって来た四人に、今日の料理を告げ。

　作っている所を見せろとラベンドラさんに言われるが、時すでに時間切れ。

　米は炊きあがり、インスタントのお吸い物は完成し、漬物までちゃんと切ってある。

　材料さえ揃えば簡単なんです。許してください。

「そう気を落とすな、ラベンドラ。聞けば米と一緒に材料を炊く料理らしいじゃないか。米がまだ見つかっていない私たちの世界では、どうあっても再現出来まい」

「それは……その通りなのだが……」

　あ、米無いんだっけそういえば。

　チャーハンを再現する時も米持って帰ってたもんね。

　これじゃあ悪いことしちゃったか？

「今はあらゆるダンジョンに米が生息していないか『ヴァルキリー』の皆さんが探してくださっていますし、時間の問題だと思いますわ」

「そうじゃぞい。あらゆる手段を尽くす、と言っとったじゃろうが」

　多分ですけど、大事になってません？

　米ですよ？

　あと、自生してる米は残念ながらここで食べる米には敵わないと思います……。

　品種改良済みのブランド米なめんな、って話でして……。

「と、とりあえず食べましょう」

　という事で炊き込みご飯とお吸い物をよそって四人へ提供。

　今回はおこげが出来るモードで炊いてみました。

　こういう時に役に立つし、何ならたまに白米におこげつけても美味しいしであると便利な機能。

　問題は搭載してる炊飯器が少ないところくらいか。

　ちなみにお吸い物はもうこれしかないんじゃない？　ってくらいド定番のやつ。

　結局あれが一番うまい。

　漬物はべったら漬けを用意しました。

　たくあんと悩んだんだけど、あっちは前に出したしね。

　他にもあるならそっちを出そうって事でべったら漬けに。

　さっぱりしてるし、カニの炊き込みご飯の邪魔しないかなって。

「む、美味い」

　早速炊き込みご飯を食べたマジャリスさんが一言。

　分かる。叫ぶような美味さじゃないんよ。

　じっくり、ゆっくりと染み出してくるような美味しさなんよな。

「このスープも凄く美味しいですわ。こう、とても美味しくて、美味しいです」

「物凄く洗練された味だ。無駄をそぎ落とした境地とも言える」

　リリウムさんとラベンドラさんはお吸い物から手を付けたらしい。

　こっちも分かる。透き通った美味しさって言うの？　お吸い物の味ってこう、シャープな感じがするよね。

「ワシはもっぱら肉が好きなんじゃが、この調理法なら魚介も悪くないと思えるぞい」

　いつもはうるさいガブロさんも、今日ばかりは静かに炊き込みご飯を堪能してた。

　まぁ、カニを食べる時は静かになるって言うし……。

　殻から身を取り出す作業に集中して喋らないからだったはずなんだけど、こうして四人が静かに食事しているとカニの味自体にそういう効果があるんではと思ってしまうわ。

「ご飯に味が付いているが、これは身から出た出汁か？」

「それもあるでしょうけど、調味料を加えてますよ」

「おこげが美味しいですわ……」

「この漬物も美味い。さっぱりしていてご飯にもスープにも繋げられる。他の味の邪魔を一切しないぞ」

「ご飯のお代わりを頼むぞい。大盛りでな」

　ガブロさんのお代わりを合図に、四人がお代わりを要求してきたのでよそってあげて。

　今日は麦茶とは別に、温かい緑茶を淹れてあげてるんだ。

　というわけでそれも一緒に提供。

「む、茶か」

「いい香りがしますわ～」

　と言ったリリウムさんが一口。

　ゆっくりと味わった後、ごくりと飲み干し。

「ふぅ……」

　吐息を吐いて、にっこりと。

「素晴らしい香りと味ですわ。お茶にも色々と種類がありますのね」

「美味い。何より今日の飯によく合う」

「今までの食事と比べて、全てが落ち着いた味だな。決して劣っているというわけではなく、静かに、ゆっくりと楽しむ味だ」

「本当にワシらの知らん味しか出んな」

　どうやら今日のご飯も満足して貰えたみたいだ。

　あと、緑茶の受けも良かった。……次は玄米茶辺りを出してみよう。

　香ばしさと風味が癖になること請け合いだろう。

「ちなみに今日の持ち帰り料理は？」

「炊き込みご飯をおにぎりにする予定ですけど、リクエスト有ります？」

「それをリクエストしようとしていた。助かる」

　炊き込みご飯は大変気に入られたみたいですわよ？

　というか、もしかしてラベンドラさんからリクエストされたのって初か？

　いやまぁ、米が無いから向こうじゃ再現出来ないからだろうけど。

「じゃあ、持ち帰り用を用意しますね。……どれくらい作ります？」

　なんて尋ねたら、全員が四個以上を申請してきてさ。

　流石に米が足りないから、追加で炊いたよ。

　食い過ぎだって……。

＊

「タラサ、そろそろバッグが限界」

「一度地上に戻ろう。……それにしても、簡単には見つからないものだ」

「もう一度、もう一度あの料理を食べたいだけなのに……」

「やはり一度、あのエルフ達に協力を申し出るべきではないか？　我々だけでは雲を掴む様な話だぞ？」

「ヘスティアの意見を聞きたい。調理士としてどう見る？」

「……限界があると思う。一度食べただけで再現出来れば苦労しない」

「では決まりだ。地上に戻り、一日休んだらあのエルフ達を探そう。もし運が良ければ、また料理にありつけるかもしれない」

　今だ到達したものが少ないダンジョン。

　その最下層付近まで進んだ『ヴァルキリー』は引き返すことを選択。

　彼女らの不幸は、稲穂という物と、食べたお米との結びつきがまるでなかった事。

　そして不運は、彼女らが引き返すことに決めたダンジョンのフロアに、ひっそりと稲穂が実っていた事である。