第78話 襲来

 ……えー、姉貴にカニ食ってることがバレました。

 いや、バレたっていうか、普通に連絡来たから喋ったんだけどさ。


「あー、もし? 今ってどんな異世界の食材使ってんの?」

「ん? カニみたいなやつ使ってるよ? かに玉あんかけチャーハンと炊き込みご飯は作ったな」

「イマスグカエッテクル。ワタシニモツクレ」


 だそうです。

 食いたかったのかなぁ……カニ。

 いや、食いたくない日本人は居ないか。

 それこそ、アレルギーとかの人くらいじゃない?

 甲殻類アレルギーは大変だって聞くし、何なら視界にすら入れたくないって人も居そう。

 ただ、姉貴はもちろんそうじゃないわけで。

 これ、帰って来た時に姉貴のお眼鏡にかなう料理作っとかなきゃだよなぁ……。

 いつ帰ってくるんだろ? ……まさか今夜ってわけじゃないよね?

 今どこにいるのかは知らんけど、ヨーロッパに居るはず――。

 いや、もう中国に居たりする? それなら今夜帰ってきそうだな……。

 よし。今夜と明日は対姉貴用の料理にしよう。

 もうこれでもかってくらい好きを詰め込んだ奴。

 リリウムさん達に持たせるのにも丁度いいし、まずは小麦粉と小麦粉で作るあの料理だな。

 で、リリウムさん達にはさらにそこに小麦粉を追加したものを持ち帰ってもらおう。

 久しぶりに作るなぁ、カニクリームコロッケ。



 というわけで帰宅!

 一応、冷ます工程があるから先に作っちゃうけど、物凄く雑に言えばシチューと作り方変わらんし。

 ラベンドラさんも見逃してくれるよね?

 ……待てよ? 何も律儀に冷めるまで待たなくてもいいのでは?

 リリウムさん達に頼めば時間跳躍出来るんだし、冷蔵庫にぶち込んだまま跳躍させれば、一瞬で冷めるのでは?

 ほな四人が来てから作っても大丈夫かー。

 というわけで一気にやることが減ったので、今のうちにスープでも用意しとくか。

 ……カップスープの素、あるんだよなぁ。

 スープ、準備要らないか。

 キャベツは千切りされてある奴買ってるしなぁ……。

 困った、何もすることがない。

 じゃあ、四人が来るまでゆっくりしときますかー。

 なんて思って動画を見ていた一時間後。


「たっだいまー! 愚弟ー! 愛しいお姉ちゃんのお帰りだゾー!」


 騒がしい姉貴がご帰宅ですわよっと。

 マジで当日帰ってきやがった。

 しかもクッソ上機嫌。怖すぎワロタ。


「自分で言ってて痛くない?」

「全然?」

「さいですか」


 よっこいせ、と立ち上がり。

 姉貴にコップとお茶を渡し。

 自分で注いで、がぶがぶと飲み始める姉貴。

 せめて座って飲みなさいな、行儀悪い。


「で? 今日のカニ飯は?」

「クリームコロッケ。しかも、市販じゃ出来ない程カニの身ギッシリの特別なやつ」

「ハイ最強! 言う事無し! 早く作ってどうぞ」

「ラベンドラさんに調理工程見せる約束だからダメ。大人しく待ってろください」

「…………しゃーなし」


 姉貴の脳内を当ててやろう。

 自分がカニを食いたい欲と、ラベンドラさんが悲しむことを天秤にかけてた。

 んで、ラベンドラさんを悲しませない方に傾いたから引き下がった。

 断言する。間違いない。

 俺はこの予想にブタノヨウナナニカを賭けるぜ。

 ……残ってないけど。


「ちなみに姉貴、カニクリームコロッケに添えるスープの希望は?」

「選択肢ぷりーず」

「コンポタ、オニコン、ほうれん草ポタージュ、ポテトポタージュ」

「オニオンコンソメかな。……オニオングラタンスープにする気は?」

「ビシソワーズ了解。今からキンッキンに冷やすから待ってろ」

「謝る。だからやめて」


 あのね? 出来なくは無いよ? でも考えてみ?

 それをやったらあの四人が絶対に欲しがるんだよ?

 そしたら作るんだよ? 俺が。

 手間じゃん。手間なの!

 あーっと、これはいけません! 何のためのインスタントスープだー!!?

 って実況されるぞ?


「ちなみにパンはある?」

「バンズと、食パンと、バゲットしかない」

「しかじゃない定期。バゲットスライスしてトーストよろしく。今日は米の気分じゃない」

「今ならもれなくガーリックトーストにしてやってもいいという気持ちがないわけではない」

「へへへ、肩でも揉みましょうか弟様」

「苦しゅうない」


 まぁ、ガーリックバターなら市販のが冷蔵庫にありますし?

 それ塗って焼くだけだから手間じゃないよ。

 あの四人が欲しがったら追加で切って塗って焼くだけだしね。


「そういや、仕事の方は?」

「んー? 色々取引して、買い付けもしてきたから。あとは明日から国内回って売りさばいてちょっと休んでまた海外かなー」

「結構忙しいのね」

「そりゃあ暇な仕事の方が珍しいでしょ。……あ、国内巡るからなんか美味しそうなのあったらここに送るわ」

「お、助かる。……あー、もし九州に行くなら醤油を送ってくれ。可能なら瓶に入った再仕込み醤油がいい」

「分かんないけど分かった。九州に行くなら覚えとく」


 いやぁ、最初は甘いから料理には向かないな―なんて思ったんですよ。

 九州の醤油。でもさ、魚の煮つけとかに使ったことあるんだけど、あれマジで美味いね。

 というか、魚に対してはマジで特攻持ってると思う。

 あとすまし汁にすると絶品。

 醤油だけで味が決まる。

 てなわけで欲しくはあったんよ。

 ただ、まぁ、機会がね。通販もあるにはあるんだけど、どうにも踏み出せないというか。

 だから姉貴に頼むことにしたってわけ。ま、あまり期待はしてないけど。


「ん? 来たっぽい」


 そんな会話をしていたら俺らの目の前に紫色の魔法陣がボワッと。

 ……はせずに、無音で出現してさ。

 いつもの四人が姿を現したわけですよ。

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