第294話 大きいの小さいの

「よしそろそろ大丈夫だろう」

「待ってました!!」


 焼けたのでは? というラベンドラさんの言葉を合図にクラウチングスタートを決めるマジャリスさん。

 そのままの勢いで、一番大きな包みを確保。

 ……あの大きさのホイル焼きは覚えがあるなぁ。


「空いたところには追加しとくぞい」

「頼む」


 なんてやり取りをしてるガブロさんとラベンドラさんを尻目に、マジャリスさんは早速包みを開けまして――。


「なんじゃこりゃぁっ!?」


 う~ん、いいリアクションだ。


「もやししか入ってないじゃないか!!」

「美味しいですよ?」

「カケル作かよ!!」

「取ったのですからちゃんと食べないとダメですわよ?」

「そうじゃぞ」

「ぐぬぬ……」


 多分だけどマジャリスさんは大きいつづらと小さいつづらで大きい方を取るタイプ。

 日本人はな、大きいものを取ることを躊躇うんやで。

 全員とは言わんけど。


「これは……茄子とトキシラズのグラタン風……でしょうか?」

「あ、それ作ったのわしじゃ」


 最初にリリウムさんが手にしたのはガブロさん作。

 土台に輪切りにした茄子を敷き、その上にトキシラズの切り身を乗せ。

 たっぷりのチーズを乗せた、見るからに美味しそうな一品。

 というか、ガブロさんも料理センスありそうじゃね?


「わしのは……トキシラズとキノコの奴じゃな」

「あ、それ俺です」


 ガブロさんには俺の作ったホイル焼きが渡ったようだ。

 ほぐしたシメジとスライスした玉ねぎの上にトキシラズを乗せ、そこに塩コショウと醤油を一回し。

 絶対に間違いない味に仕上がってる自信がある一品でさぁ。


「私のは……トキシラズとマヨネーズか」

「それは俺だ」


 ラベンドラさんが選んだのはマジャリスさん作の一品。

 どうやら、トキシラズとエノキにマヨネーズをかけて包んだ物らしい。

 そして俺が選んだのは……。


「それは私が作ったものですわね」


 リリウムさん作のホイル焼き。

 中身は……。

 絶対に白ワインが入ってるな。開けた瞬間の匂いが凄かったもん。

 玉ねぎを土台にトキシラズ、トキシラズの上に輪切りのレモン……。

 そこに白ワインとバターを入れたのか。

 ホイル焼きながらイタリアンとか、フレンチっぽく仕上がってますね。

 これは期待できる。


「……もやしだけなのに美味い」

「作ったのカケルじゃろ? そりゃあ当然じゃろうて」


 早く次のホイル焼きをともやし頬張るマジャリスさんですが、ちゃんと美味しいでしょ?

 もやしとバターの相性は言わずもがな、そこに塩コショウと白ワインですよ?

 不味くなりようが無い。


「トキシラズの脂を茄子が吸い、それらと絡むチーズが最高ですわ! ご飯が進みますわ!! パクパクですわ!!」


 グラタン風を食べてるリリウムさんもいい反応だね。

 ……というかマジで美味そうだな。

 俺もあれ食べたい。


「きのこの旨味とトキシラズの旨味、しっかりと醤油に合うのぅ」

「昨日の丼やヅケで相性は最高だと分かっているからな」

「玉ねぎも、野菜というよりは薬味のような意味合いが強いぞい。この僅かな辛みがトキシラズと絶妙にマッチじゃ」


 ガブロさんも箸が進んでおられるようで。

 良かった良かった。


「マヨネーズもしっかり合う。というより、マヨネーズだけでここまで味が決まるのも中々に凄いものだ」

「俺の見立てに間違いはなかっただろう?」


 すっごい誇らしげに話してるよマジャリスさん。

 でもまぁ、マヨネーズだからな。

 困ったらこれで味付けしとけば間違いないナンバーワン調味料(俺調べ)だし。

 ただしマヨネーズが苦手な人もいるからそこはしっかりと調べましょう。


「あ、美味い」


 んで、俺はリリウムさんが作った欧州風のをテイスト。

 思った以上に美味かった。

 ワインとバターの組み合わせはソースとしてド定番。

 もちろんトキシラズに合わないなんてことはなく、しっかりとトキシラズの身の味を深めてくれた。

 さっぱりしたワインベースのソースと、輪切りのレモンで物凄く軽い感じのトキシラズの身。

 口の中で一瞬でほぐれるのも相まって、かなり爽快感というか解放感を感じる一品だった。

 あと、普通にご飯に合う。

 まぁ、トキシラズの時点でご飯に合うのは確定なんだけど、欧州風でも問題なくご飯が進むよ。

 身を食べきった後の残った汁がまた抜群に美味いんだ。

 すぐに食べきれちゃった。


「よし、今度こそ!!」


 もやしを完食し、今度は先ほどの反省を踏まえて一番小さな包みを手に取るマジャリスさん。

 あれ……? それって……。


「またトキシラズが入ってない!!」


 やっぱり、俺が作ったニンニクのアヒージョ風ですね。

 持ってないなぁ、マジャリスさん。


「ある意味凄いですわよ?」

「だな」


 と、エルフ二人に若干煽られつつ、ニンニクをパクリ。


「ふぉぉぉっ!!?」


 どうしたどうした?


「ほっこりとして美味い!! 体の芯から力が湧いてくるようだ!!」


 そういや、ニンニクを切ったりしないで食べるの初めてだっけ。

 美味しいよね、ニンニクのホイル焼き。

 ほっこりしててポテトみたいでさ。

 でも、ニンニクの香りと刺激はあって。

 しかも今回はそこにオリーブオイルの風味も加わってる。

 絶対に美味い。


「程よい塩加減とオリーブの香りが最高だ」


 ほら、マジャリスさんも満足してるし。


「だが――やはりトキシラズが食べたい!!」


 というわけで早々に完食し、さっさと三つ目の包みに手を伸ばす。

 俺も次の包みを取ろう。

 ど、れ、に、し、よ、う、か、な。

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