第295話 みんな凄いなぁ
選んだ包みは……。
「あ、これ俺か」
俺が作った奴。
もやし、キャベツをホイルに敷き、そこにトキシラズを乗せまして。
酒をふりかけ、その上から味噌を適量。
いわゆるちゃんちゃん焼きをホイル焼きでやってみたやつ。
鮭と言ったらこれでしょ。
「なるほど、味噌か」
俺のを覗き込んだラベンドラさんが一言。
「美味いですよ~」
というわけでパクリ。
……うめぇ~。
酒の香りと程よい味噌の塩味がトキシラズにしっかりと染み込んでて。
トキシラズの脂が味噌と混ざり合って滅茶苦茶丸い味わいになってる。
味噌の量も完璧、塩辛くなり過ぎず、薄くもない塩梅。
そしてその味噌とトキシラズの脂を絡めて食べる野菜がうめぇのなんの。
異世界食材美味すぎ問題。
「むほほ!! こりゃ美味いわい!!」
ガブロさんが今日一大きな声を出したな。
何食べたんだ……?
「私の作った奴だ。酒粕を使わせてもらったぞ」
冷蔵庫に残ってた調味料をガサッと出したは出したけど、酒粕まで残ってたか。
「ちなみに酒粕以外には何を?」
「大根と人参、そこにめんつゆと塩で味を調えてある」
「美味いわけだ」
無意識……だよなぁ。
こっちの世界のレシピ、知ってるわけないもん。
出汁に鮭に大根、人参、酒粕。
北海道の料理で三平汁って料理のレシピ。
本来は塩鮭を使うんだけど、トキシラズ自体の味は普通の鮭より濃いし、いい塩梅になってそうだね。
ちなみにここに味噌を加えると石狩鍋になったりする。
あっちは鍋の具材に定番な野菜が追加されたり、最後に山椒を振ったりするけども。
「自分で作っておいてなんですけれど、塩麹というのは美味しいのですね」
「お、塩麹を使ったんですね」
三平汁風なホイル焼きを食べてるガブロさんは放っておいて、リリウムさんへ。
塩麹に目を付けるとは中々だね。
「旨味がグンと引き出されますよね」
「そうなんです! ただでさえ美味しいトキシラズが、塩麹と合わさる事でもう……!!」
ご飯掻っ込んでますもんね。
分かる分かる。
「やっと……やっとトキシラズだ……」
でこちらはようやくトキシラズにありつけたマジャリスさんになります。
三包み目で引き当てました。
「さっきカケルが食べていた奴だ!!」
中身はさっき俺が食べたリリウムさん作の欧州風。
白ワインとバターベースのソースと、レモンの香りが爽やかなそれ。
「美味い……」
ようやく念願のトキシラズを引き当てたマジャリスさん。
絶対流しては無いんだけど、俺には涙の跡が見えるぜ……。
「さっぱりとしたソースにバターのコク、レモンの風味で全体的に軽い」
「分かります。それでいてご飯に合うんですよねぇ」
「その通りだ! ああ、ご飯が美味い……」
こう、噛み締めるって表現がピッタリな食べっぷりです事。
もやし、ニンニクと来てのようやくだからかな?
「今日の漬物はまたこれまでと毛色が違うのぅ」
「シャキッとしてピリリと来る辛み。口の中のリセット効果もあるだろう」
そう言えば、前に巻き寿司をしてた時にガリを出してなかったな。
かいわれだけで賄ってた気がする。
っぱ魚介系にはショウガよ。
これだけは譲れない。
「そしてお味噌汁も美味しいですわ」
「カケルの手作りには及ばんが」
「それでも、お湯を注ぐだけで味わえるのは革命的だ。他のスープもあるようだし、向こうでも再現出来ればどれ程よいか」
……止めろ。
こっちを見るな。
知らんて、インスタントスープの作り方なんざ。
味噌汁ならまぁ、戦国時代に確立した古き良き製法があるけれども。
芋がらを味噌で煮締める奴ね。考案者は武田信玄。……多分。
「こちらの世界の技術なので……」
「特別な魔導具を使っているか……」
特別じゃない魔導具ってなんだよ、というツッコミはさておいて。
諦めてくれたのならそれでいい。
「ふぅ、美味かったわい」
「途中から包みを乗せるのをやめて正解でしたわね」
「包んだまま持ち帰り、向こうで焼けばそれでいいからな」
「結局トキシラズは一包みしか食べられなかった……」
……本当に良かった。
思いのほかみんなバンバンホットプレートに乗せていくから、一旦ストップかけたんだよね。
持ち帰り用のが無くなりそうだったし。
お腹すいてる時はどれだけでも食べられると思っちゃうんだけど、いざ食べ始めると限界が割と早めに来る現象あるじゃん?
俺はそれを姉貴で何度も体験してるから、ここでも……と思ってたらさ。
案の定だったってわけ。
……引き運というか、選び方が極端だったマジャリスさんには気の毒だけどね。
「というわけで次は……?」
「お楽しみの……?」
「デザートだな!!」
あー、はいはい。
そうです、デザートです。
なのでそんなに身を乗り出さないでもろて……。
というわけで冷蔵庫からキンッキンに冷えたフルーチェを取り出し、仕上げにミントをちょいと乗せ。
ビジュアルも気にしたフルーチェに、小さめのスプーンを添えまして。
「というわけでデザート、みんな大好きフルーチェでございます」
キラキラと目を輝かせる四人の前に、そっとフルーチェを置いていくのだった。
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