第293話 そういうとこやぞ……

 それにしても……結構な量になったな。

 出来上がった包みの数を見ながら、ふと思う。

 多分、これ持ち帰りの分くらいはあるわ。

 

「カケル、焼く時はどうしたらいい?」

「そのままフライパンに乗せて焼いて大丈夫です」

「分かった」


 というわけで、ラベンドラさんが適当にフライパンに乗せようとして……。

 ふと、思いつく。


「どうせならホットプレートでします?」

「む?」


 折角数あるんだし、フライパンより焼ける範囲が広いホットプレートで一気に焼きたいなって。

 ランダムな中身のホイル焼きガチャ、楽しそうじゃない?


「面白そうじゃな」

「ですわね!」


 というわけでみんな乗り気みたいだし、ホットプレートさん、出番ですよ。

 引っ張り出して、温めて。

 とりあえずホットプレートに乗る分だけ乗せちゃおう。


「そういえばカケル、ようかん、美味かったぞ」

「ちゃんと伝わって良かったです」

「メッセージを受け取るのに、翻訳魔法の範囲をかなり広げたがな」

「まぁ、こっちの世界でもあの信号は伝わる人の方が稀ですからねぇ……」


 正直な話、モールス信号なんて通じないと思ってたんだけど。

 翻訳魔法で何とかなるんだ……凄いな翻訳魔法。


「ちなみに皆さんはどのようかんがお好きでした?」

「やはり抹茶だ。あの独特の香りと鼻に抜ける爽やかさ。どっしりとした重量感のあるようかんと相性が最高だった」

「プレーンですわね。あの涼しさを感じる甘さの感覚は、ちょっとあっちの世界では感じたことがありませんもの」

「はちみつ味だろう。あの風味と味わいはとても上質な蜜を使っている事が伺えた」

「どれも美味かったぞい」


 ……みんなそれぞれ好みの味があったって事だな! ヨシ!!

 って、そう言えば、今日のデザートを用意しなきゃだった。

 まぁ、みんなの前で作って見せるか。


「これからデザートを用意しますね」

「早すぎないか?」

「冷やした方が美味しいデザートなんですよ」


 あくまで俺の意見だけども。

 というわけで冷蔵庫へ。

 取り出すのはよく冷えた牛乳っと。

 ボウルを用意し、買い物袋から取り出すのは……。

 フルーツ入り即席デザートベース――その名もフルーチェ!!

 いやまぁ、知らん日本人の方が少ないだろうって商品ですわね。

 子供の頃好きだったし、社会人になってからも、夏バテで食欲無い時とかは食べたなぁ……。

 凍らせると美味しいんだよね。シャリシャリした食感になって、ちょっとシャーベット感あってさ。


「何を作るんだ?」


 ホイル焼きが焼けるまで暇なんだろう四人がボウルを覗き込んできて。

 みんなの見てる前で調理開始。

 まずフルーチェをボウルに全部入れ、果肉とかが袋に残ってないように最後まで絞り。

 そこに、規定量の牛乳を加えて大きく混ぜる。

 全体が固まったら完成っと。

 これで美味しいんだからホント企業様に感謝感謝。


「どういう原理だ……?」

「はい、成分表です」


 原理とか知らんからね。ラベンドラさんを黙らせるために、商品の裏面に記載されてる成分表を読ませまして。


「それを冷やすんかい?」

「です。冷やした方がカッチリ固くなって俺は好きなので」


 ちなみに企業のホームページでは出来立てを食べるように書かれてたりする。

 確かに出来立ての柔らかいのも美味しいけどね。


「あの量を五人で分けるのか?」


 なお、量を気にするマジャリスさん。

 安心してください、まだ買ってますよ。

 さっきのはイチゴ味のフルーチェだったからね。

 お次はピーチ味なり。


「まだまだあります」


 とピーチ味の袋を見せたら、何故だか拍手が起こったんだよな。

 何故だ。

 ……というわけでピーチも作り、イチゴ味と合わせて冷蔵庫で冷やす。

 そういや、フルーチェを水切りヨーグルトで作るみたいなレシピを見た気がする。

 もちろん、そのままじゃあ混ざらないから、ハンドミキサーで念入りに混ぜるみたいだけど。

 今度やってみるか。


「ラベンドラ、どれか食べられそうなものはないか?」

「まだ焼けていない。もう少し待て」


 フルーチェの準備が終わったら、早く食べたいのかマジャリスさんがラベンドラさんに尋ねるも。

 現実は非情、どれも焼けていない。

 まぁまぁ、ゆっくりしましょうや。

 ご飯をよそってみんなに配り、インスタント味噌汁もみんなにどうぞ。

 今日は茄子のお味噌汁ですわぞ。


「今日はカケルの手作りではないんか……」

「カケルの手作りの味噌汁ならば、毎日でも飲みたいものだが……」


 あの、意味知ってます?

 知りませんよね? 大丈夫だよね?

 それに近しい事を言ってて、翻訳魔法さんがこう翻訳してる可能性ないよね?

 俺だからいいけど、絶対にその言葉は女性に向けて言うなよマジャリスさん。

 あんたの顔でそれ言われたら、本人にその気が無くてもプロポーズだからな?

 許されんぞ? 無知ゆえの求婚とか。 俺が男で良かったなマジで。


「私はどのお味噌汁でも好きですけれどね」


 うん、リリウムさんくらいの反応が丁度いいよ。

 あ、久しぶりにお漬物もどうぞ。

 最近出してなかったね。

 漬物というかはアレだけど、新生姜の酢漬け。

 ほんのりピンクな彩りの、シャッキリとした歯ごたえと爽やかな香り。

 優しい辛みが特徴で、鮭と……というか何なら何にでも合いそうな一品。

 ……まぁ、肝心のホイル焼きがまだ焼き上がってないんですけどね、エルフさん。

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