第60話 ゴリラの看板が目印
二日目のカレー。
その美味しさは、もはや日本人には説明不要。
そんな美味しさを、あの四人に叩き込むため、俺は帰りにスーパーで色々と購入し。
家に帰ってきて、やったことはご飯を炊飯器に入れて、スイッチ。
これだけ。
――だってさー、カレーは既に出来ちゃってるし、トッピングもそんなに時間掛からないしさー。
カレーを作る時のメリットってこれよね。
数日はメニューを考えなくて済む!
……デメリットは、洗い物がめんどくさいくらい。
「んじゃまぁ、後はみんなが来てからという事で」
スマホを片手に人をダメにするソファ―にダイブ。
そのまま全体重を委ねつつ、四人が来るのを待つのだった。
*
「お邪魔しますわ」
……来たか。
「お待ちしてました。……遅かったですね?」
いつもより一時間は遅かったぞ?
これが会社ならお説教モノですわよ?
社会人たるもの時間は厳守せねばー、とか言ってさ。
全く、これだからエルフは。
「ちょっと面倒な事になってな」
「面倒な事?」
お、言い訳ですか?
聞きましょう。
私は寛大な精神を持っていますからね。
「教わったカレーパンだが、王に献上することになってな」
「へー。――献上!? 献上!!?」
思わず聞き返しちゃったじゃん。
なんか大事になってるんですけど!?
「こちらで貰った食事などを、知り合いに食べさせていたんだがな? カレーパンを食べた途端、慌てて王に献上するべきだと言い始めて……」
「私達もポカンとしていると、あれよあれよと連絡を終え、明日には王へと謁見のち献上する事になっておりましたの」
「まぁ、相応の料理だとは思っていたが、まさかここまでトントン拍子に話がまとまるとは……」
「『類稀な調合の香辛料をふんだんに使った料理』と説明されりゃあ、是が非でも食いたくなるもんじゃわい」
だそうです。
……カレーパンよな? 確認だけどカレーパンの話をしてるんだよな!?
「……えっと、分かんないですけど、とりあえずカレーパンは美味しく出来たって事でいいです?」
「間違いなく美味かった。……もっとも、こちらで食べたカレーほどではなかったが」
ラベンドラさんにそう言われたけど、そりゃあね。
色んな隠し味入れてますしおすし。
あと、『うま味』は大事よ。出汁が入ってるだけで、一気に美味しくなるんだから。
「それで? 今日もカレーと聞いていたが?」
「今日の方が美味しくなっているとの事でしたわよね?」
「もう期待で心が躍っておるぞい」
三人に言われ、ラベンドラさんは俺の傍に寄ってきて。
いつもの態勢になったところで、ご飯の仕上げをしていきましょう。
まずは、
「チキンカツを作ります」
カレーのトッピングを作りましょう。
下味は無し、衣とかの準備は既に完了済み。
というわけでトリッポイオニクを油にIn to。
三十代で心臓発作を起こしても構わないという者は、カツとチーズを同時にトッピングすることが出来る。
事実、その事が可能と知ってから、私は欠かさずそうしている。
心の中にカレー中毒者を召喚し、カツが揚がるまでの間にご飯とかをお皿に盛ろう。
ご飯を盛りチーズをたっぷり。
そして、その脇にたっぷりの千切りキャベツを乗せ。
温めたカレーをたっぷりかけて。
揚がったカツを切り、ご飯の上に乗せて、とんかつソースをたっぷりと。
これにて、二日目カレーで作る、金沢風カレーの完成!!
「お待たせしました~」
提供すれば、全員の目がらんらんと輝いてますわね。
「頂くぞい」
というガブロさんの言葉を合図に、全員ががっつく。
さて、俺もいただきますか。
「ふむっ!! 美味い!!」
「確かに昨日より美味しい気がしますわ!!」
「カツはそれだけでも美味かったが、こうしてカレーと合わせるとまた化けるな」
「この料理を食えることに感謝しか無いぞい!!」
絶賛されてますわね? これでもう、あなた達もカレー沼の仲間入りですわ。
……言葉的にはあまり入りたくないな、カレー沼。
「すまない、昨日の赤い漬物を貰えるか?」
「あ、私も欲しいですわ」
「俺も。あと、あの白くて丸いやつも」
「ワシも両方頼むわい」
忘れてた福神漬けとらっきょうのリクエストをされちゃったよ。
……自分たちから欲しがるなんて、この人たちはカレーを
「ごめんなさい、忘れてました」
そう言って両方を持っていくと、我先にと取り合いを始める始末。
元気だな―、なんて観察しながら、ようやく俺もパクリ。
……美味い。
や、当然なんだわ。カレーが美味いのは。
……にしても、
「普段より美味しいような?」
「そうなのか?」
「気のせいかもしれませんし、こうして皆さんと食べてるからかもしれませんけどね」
なんだっけ? 二日目のカレーが美味しい理由。
……確か、一度冷えたカレーを再加熱すると、具材の旨味が余計に溶け出てくる、みたいな話だったはず。
それで俺が普段より美味しいと感じたって事は、普通のカレーには入れない素材が作用しているはずで。
――一個しかないじゃん。普段入れない食材。
トリッポイオニク! お前だぁぁぁっ!!!
「思うんだが、明日の献上する時に、こうしてカツと一緒に献上するのはどうだ?」
「カレーパンとカツを、という事ですか?」
「いいと思う。というか、こうして食べてみたから分かるが、この組み合わせが最強過ぎる」
「美味い物に美味い物を乗っけたら美味い理論の究極みたいな食い物じゃな」
俺が普段よりも美味しくなった真相を探っている間、四人はそんな相談をしてまして。
マジで献上するんだーって感想しか出て来ん。
もうちょっとおしゃれな感じに作ればいいのに。
仮にも王に献上するってんならさ。
「パイ包みとかの方が映えそうですけどね」
なんて、ポツリと言った瞬間、四人が一斉に俺の方へ顔を向けて。
「パイ包み……。確かに、絶対に美味いだろうな」
「こんなものがパイに包まれるのでしょう? 不味くなり様がありませんわ」
「インパクトも抜群で、絶対にこの話題で持ちきりになるだろう」
「カレーパンより手間は掛かりそうじゃがな」
あー……ええっと、ただの素人の発言なのであまり気にしないで貰えると……。
「適当にレシピを書いておけば、高値で買ってくれるんじゃないか?」
「でも俺たちはあまり金に困ってないぞ?」
「むしろタダで渡して恩を売っておくほうが後々に効いてきません?」
「王から顔も覚えられるじゃろうしな」
……もう好きにしてくださいな。
ただのカレーパンの話だったはずなんだけどなぁ。
なんて思いながら、俺はカレーを掻っ込むのだった。
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