第383話 聞いてない……
さて、ピザとワインで上機嫌になって静かになった神様は一旦置き。
煮込んでたヒツジナゾニクがどんな感じか確認を。
角煮だけに。
「おお、しっとり柔らか」
味とかも見たいから薄く切って口へとヒョイパク。
そのお味は……?
「いけるいける」
普通に美味しかった。
入れてたハーブの香りが余計に食欲そそるね。
あと、割とハーブと醤油の相性が悪くない。
ただ、明らかに角煮とは違うね。味付けは角煮だけど。
香りって大事なんだなぁ……と。
「んでも全然癖無いし、柔らかいし、角煮ってよりはチャーシューに近いかも?」
物足りないのでもう一口。
うん、美味い。
しっとり柔らかい食感に唇を当てるだけで肉汁が溢れて来てさ。
その肉汁も、ハーブの香りや煮汁の味を纏って溢れてくる。
米があればパクパクですわ。飯と言ったらこれですわ、状態。
「でも、パンよりは米だな」
日本人としてね? この味付けなら、パンより米だね。
間違いなく。
「よし、じゃあこっちはこっちで、煮卵と……侯爵芋も煮付けちゃうか」
でまぁ、このお肉があれば、当然付け合わせは欲しくなるわけで。
卵と侯爵芋を一緒に似ちゃおうかなと。
……ヘイリボーンフィンチ! 人数分の卵に分身して?
いや、実は分身するまでもなく一人一個は確保できてるんですけどね?
なんでだろうね? ペース上がったね?
……いや、冷静に考えて、分身する卵ってなんだよ。
「鍋に水張って、と」
普通にまずはゆで卵作り。
普通? 普通の卵より3~4回り大きいこのリボーンフィンチの卵が普通?
考えたら負け、考えたら負け。
「侯爵芋は……まぁ、こんなもんか」
ゆで卵を作っている間に侯爵芋の切り出しから。
芋を切り出すってなんだよ……。
これも考えたら負け……。
切り出すって言うかくり抜くって言った方が正しいかな?
イメージとしては新じゃがのコロコロしてる感じ。
アレを目指してレンゲとかスプーンを使ってくり抜こうとしたけど歯が立たなかったぞ。
ファッキン。
大人しく包丁で切り出しましたわよ……。
「……このじゃがいもでアヒージョとかしたらどうなるんだろう?」
前回は何だっけな……そうそう、カイルイフシギキノコの時に一人でアヒージョしたんだっけか。
あの時もじゃがいも最高に美味しかったからな……。
あらゆる旨味を吸って溶けるように食べられるじゃがいもは、個人的にアヒージョで一番美味い食材とさえ思う。
そのじゃがいもが侯爵芋に置き換わったなら?
……明日の晩御飯は決まりだな。
何なら今日の内から材料を買いに行くまである。
「さて、何をしようか」
ゆで卵を作っていた鍋の火を止め、余熱調理へ。
半熟の黄身で作る時はさっさと流水にさらすんだけど、別にここから煮込むしなぁ。
あと、リボーンフィンチがゆで卵にすることが雛が孵る方法とかの可能性すらあるわけで。
何事も無い事を確認してから殻を剝きたい。
……一番最悪なのは殻を剥いたら孵化直前だった、みたいな状態だね。
ホビロンみたいな。
あ、画像検索は自己責任で。
そんな感じで余熱調理を続けて五分。
卵に依然変化なし。
大丈夫そうだ。
(もっと高温にさらさなければ大丈夫じゃぞい)
……もっと高温?
例えば?
(溶岩とかかのう)
……神様? 何言ってるか分かってます?
(なんじゃい急に)
溶岩に入れてたら孵るんですよね?
(そうじゃぞ?)
つまり、この殻は溶岩の熱にも耐えるってことですよね?
(じゃぞ?)
……さぁて、秘密裏に処理する方法考えなくちゃなー。
(どうしたんじゃ?)
……コホン。
八百万の神様方、とりあえず説教をお願いします。
……これは釈迦に説法――なのか?
(ちょ、待て。待つのじゃ! 話せばわかる!! だから数の暴力!! 暴力反対!!)
まぁ……持って帰って貰うか、ラベンドラさん達に。
いくつかゴミに出しちゃったよ……。
大丈夫かな?
ぼ、僕は知りましぇん!!
*
「ねぇ、オズワルド」
「なんだよ」
アングラス領冒険者ギルド本部ギルドマスター室。
本来は執務を行うその場所で、オズワルドとアキナ、二人が向かい合って座っていた。
そもそもアキナはレシュラック領のギルドマスターであるはずで、この場所に居るのは普通に珍しいを通り越して異例なのだが。
「『夢幻泡影』のレシピ、まだ隠してるんでしょ?」
「あるわけないだろ。というか、レシピなんざ受け取った事ねぇよ。新聞の方に言いやがれ」
「無くても出せー! この前の『たこ焼き』以降伸び続けてきた売り上げが停滞し始めたの!!」
「無茶言うな!! というか、あのたこ焼きバブルヤバかったらしいじゃねぇかよ!!」
「ヤバかったから問題なんでしょ!! 一気に価値が上がり過ぎてレシュラック領じゃ大混乱だったのよ!?」
「それが落ち着くんだからいい事じゃねぇかよ!!」
「落ち着かれたら困るからこうしてよその領のギルド本部にまでレシピねだりに来てるんでしょうが!!」
その動機は、あまり褒められたものではなく。
「小麦も、材料も、採れば売れるからってみんなバンバン収穫上げて! でも、この流行の熱が冷めたら全部売れない在庫に早変わりなの!! 何とかして!!」
「売る量規制するなり漁獲量抑えさせろ! なんでお前らのケツを俺らが拭かなきゃならん!!」
「昔同じパーティだったよしみでさぁ!!」
「絶対に嫌だ!!」
そして、数日後に件の『夢幻泡影』がアキナの元を訪れる訳だが。
その時にぶら下げたレシピが、シーフード包みピザや揚げピザといった、現在在庫に変わりそうな材料たちの新たなるぶち込み場であることは、幸か不幸か。
少なくとも、翔がこの場にいれば、バブルは大きくなればなるほど弾けた時がヤバい、と気付いてくれる可能性はあったが。
――悲しい事に、この世界の神様は現在留守。
文字通り、席を外しており。
絶賛、八百万パワーに圧倒されているのだった。
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