第382話 神様たちへの……
豚の角煮とかだと、最初に米のとぎ汁とかで余分な脂を落とすために茹でるけど、このヒツジナゾニクには余分な脂どころか赤身しか無いし。
下茹ではいいかな。
ただ、アクは出るか。
やっぱりいるな。
というわけでまずは下茹でから。
といっても本当にアク抜きの為だけなので、そんなにじっくりとは煮なくていいかな。
「見た目的にはローストビーフ……シープとかの方が美味しそうだと思っちゃうけどな」
綺麗な赤身肉って言うのは、それだけで美味しそうだよね。
ローストシープにして、薄くそいでチーズソースと卵の黄身で頂きたい。
「さて、下茹でしている間に……神様たちへのお供え物といきますか」
(ひゃっほい!! 待っとったぞい!!)
昨日はあの後寝ちゃったからね。
煮付けと並行してピザとクレープを作りましょ。
と言っても、ピザ生地は伸ばして焼くだけだし、クレープ生地も別に時間掛からないし。
どっちも片手間で出来るな。
片手間を二つもすると両手間なのでは? 翔は訝しんだ。
「洋風の煮付けって思ったけど、いけるものなのかね?」
茹でてアクを取ったヒツジナゾニクを取り出し、味付けへ。
とりあえず醤油でしょ? 酒、砂糖……。
んで、ここにハーブ類を入れてみるか。
ローズマリーにタイム、セージっと。
あと、忘れずに生姜ね。
……本来はここに茹で卵とかを一緒に煮付けるんだけど、今回はなぁ。
ハーブの香りが移りそうだから、煮卵は別に作りましょ。
そしたら、弱火でじっくり煮込んでいきまして~。
「神様お待たせしました。ピザのリクエストは?」
(普通に作りやすいのでよいぞい)
ふむ。
ならピザ生地に買って来ましたジンギスカンのタレ。
これを丁寧に塗っていきまして。
カットしたヒツジナゾニクを炒めて生地の上へ。
薄くスライスした玉ねぎもどっさり乗せて、トドメにチーズをこれでもかと乗せたらば。
オーブンに入れてスイッチオン! ピザ設定でいってらっしゃい。
「次はクレープと」
フライパンにサラダ油を敷き、生地を薄く流して広げまして。
端が乾いたら、菜箸で持ち上げてひっくり返す。
手を流水で冷ましつつ、反対側も焼けたら生地の完成。
「メロン以外に乗せたい物は?」
(お任せだそうじゃ)
ふぅむ。
実はお任せが一番困るんだよなぁ。
まぁ、お任せって言った以上有無は言わせんさ。
聞いてるか姉貴?
クレープ生地に生クリームを絞って壁にし、その壁にカットしたメロンを立てかけていく。
その壁の上にバニラアイスを乗せたら、なるだけ形を崩さないように巻いて完成。
メロンクリームクレープになります。
「アイスが溶けちゃうので、先に翻訳魔法さんにお供えしますね?」
(む…………。分かったぞい)
分かるまでの間が長いよ。
神様にもちゃんと供えるんだからいいでしょ?
というわけでメロンクリームクレープを乗せたお皿をテーブルの中央に置き。
二礼二拍手一礼。
すると、お皿の上に乗っていたクレープだけが奇麗に消えてしまう。
(口の周りをクリームでべたべたにしながら喜んどるぞい)
子供かな?
まぁ、満足してるようで何よりですよ。
(……美味そうじゃの)
神様の分も作るか。
(スマンのぅ)
この神様、独り言が大きすぎるのが問題かもしれない。
ちなみに具材にリクエストは?
(マンゴーとクリームだけでよい。アイスはいらんぞい)
了解しましたっと。
んじゃあもう一枚生地を焼きまして。
先ほどと同じ要領で盛り付け、巻いて……。
――お? 丁度ピザも焼けましたし、ワインと一緒にお供えしますね。
(助かるぞい)
というわけで焼きたてのピザ、微発泡赤ワイン、マンゴークリームクレープのお供えです。
お受け取りください。
*
「ほンとどっから発想が出てくるンだ?」
「料理人がレシピの常識を疑うのは当然……だけど」
「ピザを別の作り方をしてみた、というのは驚くしかねぇな……」
当たり前に振舞われるプルコギ揚げピザ。
既に話だけは聞いていた『夢幻泡影』はともかくとして、『無頼』や『ヴァルキリー』は絶句。
それもそのはず、そもそも彼らの中でピザとは、『夢幻泡影』が翔に説明した料理以外の何物でもなく。
こうして、調理法を変える事すら考えないような、常識外に存在していたのだから。
……国が違うはずの『無頼』がなぜ驚いているかは、今のところ分からないが。
「ザクッとした外側ともっちりした中。さらに包ンである食材がマジでうめぇ」
「使われているソースが秀逸だ。甘辛くピリッとした味がタングリスニの肉と妙にマッチしている」
「お肉だけでなく、チーズとの相性も良くて……」
「「素直に美味い!!」」
と、全員が舌鼓を打つ中、一人だけ。
「揚げ加減が難しい。もう少し、生地を薄くしてみるか?」
より改良しようと思考するラベンドラ。
そこへ、
「お前まじでさ、なンでこンなに飯作るのがうめぇんだ?」
『無頼』が、純粋な気持ちで質問を。
それに対し、ラベンドラは。
「昔な。色々あったんだよ」
と、どこか遠くを見ながら、懐かしそうな目をするのだった。
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