第12話 閑話 四人の野望

タイトルに閑話とある話は四人が異世界で動き回る話になります。


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「オズワルド!! オズワルドは居るか!?」


 早朝の冒険者ギルドに、マジャリスの声が響く。


「何だ朝っぱらから、騒々しい」


 オズワルドと呼ばれた男は、ギルドの奥から欠伸を噛み殺しつつのっそりと登場し。

 噛み殺しきれなかった欠伸に負け、大口を開けてリリウムら四人と対峙。


「我々にギルドマスターの推薦を賜りたく思いまして」


 そうして向かい合うと、リリウムが口を開く。

 その言葉に、オズワルドは眉をひそめ、


「『OP』のお前らが何言ってんだ。やれるわけねぇだろうが、推薦なんざ」


 と、吐き捨てる。

 そもそも、この『OP』という制度は、そこに割り当てられた冒険者をそれ以上昇格させないための制度である。

 向上心の無さ、素行不良、ギルドや国への協力性。

 複数の項目から、特に問題有りと判定されたパーティにしか適用されないからだ。

 したがって、一度でも割り振られた場合、それらの目に見える改善がない限り、『OP』枠が外されることはない。

 そして、この『OP』制度が施行されて以降、明確な改善が認められたパーティは皆無。

 結局は自分のスタイルを変えないまま、引退するか、ダンジョンなどから帰って来ないか……。

 だからこそ、オズワルドもリリウム達の言葉を一蹴した。

 お前たちが改善するわけがないだろ、と。

 しかし、


「今すぐにじゃなくていい。今後は依頼も受注しよう。国からの緊急依頼にも積極的に参加する。だから、それらを確認したら推薦して欲しい」


 マジャリスがそう言って頭を下げると、他の三人も同じように頭を下げた。

 その光景に、オズワルドは内心、夢でも見ているのでは? と錯覚する。

 あのプライド高いエルフ族が、自分に絶対の自信を持つドワーフ族が。

 こうして揃って、人間である自分に頭を下げたことなどこれまで一度もなかったからだ。

 そして、だからこそ、オズワルドには引っ掛かる。

 一体、何が四人をここまで動かしたのか、と。


「ルール上、明確な改善が認められるまでは推薦が出来ん」

「それは承知だ。だから、それが認められてからでいいと言っている」

「聞け。だが、確かにお前らが言うように認められさえすれば、俺は推薦を出しても構わん」


 ここまで言うと、四人は顔を見合わせて喜び始める。

 ――が、オズワルドにはさらに疑問が大きくなる。

 ゆえに、


「だが、なぜ今までランクなんぞに興味が無いと言っていたお前らが、こうして急に俺の推薦を欲しがったか。納得できる理由を提示しろ」


 四人の動機を知ることは、必須条件。

 そこが分からなければ、高ランクという笠を着て、なんぞ悪行でもされかねないと判断したからだ。

 そのオズワルドの疑問に対し、四人の答えは……。


「オズワルド、朝飯は食ったか?」


 という、まるで予想もしていない一言で。


「は?」


 思わず聞き返しながら、心の中で、


(朝一からお前らが来たんだから飯を食う暇なんぞあるかっつーの)


 と、目の前のエルフたちに悪態をついていた。

 そんなオズワルドに、


「何も言わずに食ってみろ。……飛ぶぞ」


 マジャリスが差し出したのは、昨日帰り際に受け取ったカツサンド――を二等分した片方。

 それが何なのかを知っている三人が息を呑み、それが何かを知らないオズワルドが、恐る恐る手を伸ばし。


「柔らか!?」


 初めて触れる異世界のパンに、初見時の四人と同じ反応。


「温かいな、出来立てか?」


 という言葉に、マジャリスはゆっくりと頷く。

 実はこのカツサンド、受け取った直後に各々のディメンションバッグと呼ばれるスキル空間に放り込まれており。

 このディメンションバッグ、どこでも収納、取り出し可能で収納上限なし。

 さらには、収納品の時間経過すら止めるというトンデモスキル。

 エルフ族のような魔力の豊富な種族が扱う魔法なのだが、この四人のディメンションバックはリリウム一人によって管理されており。

 常に四人分のディメンションバックを展開しながら生活をすることは、当然相応の魔力を消費し続けるはずなのだが……。

 当のリリウムはまるで意に介さないような涼しい顔で過ごしていたりする。


「丁度朝飯がまだだったんだ、ありがたくいただくぞ」


 そう言って一口頬張ったオズワルドの口から、サクッ! という衣を噛む音が聞こえてきて。


「――ッ!!?」


 程なく目を見開いたかと思えば、ものすごい勢いで口を動かし、口の中のカツサンドを飲み込んで……。


「おい!!? なんだこの食い物!? 色々と言いたいことはあるがとりあえず美味い!! 美味いぞ!?」

「ちなみに先に答えておくが、使っている肉はスノーボアの肉だ」

「スノーボア!? あんな安肉がこんな美味くなるのか!?」


 そう言いつつ二口目。


「肉だけじゃねぇな! このかかってるソースもうめぇ!! こいつは!?」

「秘密だ」

「そうか秘密か。――秘密ぅっ!?」


 てっきり教えて貰えると思っていたオズワルドは、思わず聞き返す。


「そうだ秘密だ。この料理は、俺らがたまたま見つけたとある料理人が作ったものだ」

「どこにいる!? 今すぐギルドの厨房で働かせよう!」

「落ち着け。その料理人は、料理はするが自分に対する情報の一切を秘匿にしろ、と条件を出してきていてな。俺がここで喋ったら、金輪際料理は作らんそうだ」

「となると、この料理も……?」

「二度と食えんだろうな」


 残った一口分のカツサンドを握りしめ、そんな……と項垂れるオズワルド。

 そこに、


「そして、その料理人のレシピはその料理だけじゃない。もっとたくさんのレシピがあるそうだ。……ここまで言えば分かるな?」


 と、マジャリスの言葉。

 その言葉の真意を理解したオズワルドは、


「つまりお前らの動機は飯か……」


 と低く呻くように尋ねると。

 四人が四人とも、にっこりとして頷いて。


「もし私達に推薦を出してくださるなら、こうしてオズワルド様に料理をお持ちしますわ」

「ワシらは新しい素材を料理人に提供し、調理してもらう。お主はその料理がタダで食える事になるのぅ」

「嫌ならばいい。別に冒険者ギルドはここだけじゃない。他の支部のギルドマスターに声をかけるだけだ」

「さぁ、どうする?」


 四人に迫られたオズワルドは、


「はぁ。分かったよ。今後の依頼の受注実績と、緊急依頼の参加率次第で俺が推薦を出す。もちろん、EからDに上がる時だけじゃなく、最後まで俺が推薦を出してやるよ」


 最後の一口になったカツサンドを口に放り込むと、ゆっくりと噛み締めながらそう言った。

 そして心の中で、


(まさかあのエルフたちが、食い物の為にここまでするとはなぁ……)


 と思いつつ、エルフの取り扱い事項の一つとして、飯で釣る事が効果的である可能性がある、と、他のギルド支部に居るマスターに情報を共有するのだった。

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