第11話 四人の実力

「おかわりか!?」


 全員が食事を終え、お茶を飲んで寛いでいる時。

 立ち上がり、カツを揚げ始めた俺の姿を見て叫んだガブロさん。

 だが、


「違いますよ。これは皆さんが持って帰る分です」


 残念でした。

 今食べる用じゃありません。


「持って帰る?」

「昨日食べたように、パンに挟んでお渡しするので、向こうの世界で昼にでも食べてください」


 俺がそう言うと、四人全員が立ち上がり、俺に頭を下げてきた。


「何から何まで、スマンのう」

「心遣い、感謝いたしますわ」

「凄く……凄く助かる」

「本当に、恩に着る」


 と、口々に言われるが、


「何と言うか……肉が多すぎて少しでも消化したくてですね?」


 本音はこれ。

 だって、まだ半分は残ってるぞ? 座布団サイズのブタノヨウナナニカ肉。

 ……あ、そうだ。


「ちなみになんですけど、これって何の肉なんです?」


 カツをひっくり返しながら尋ねてみた。

 すると……、


「『――』の肉だ」


 ん? 聞き取れなかった?


「ごめんなさい、聞き取れなかったのでもう一回お願い出来ます?」

「『――』の肉だ」


 まただ。肉の前の単語がまるで聞こえてこない。

 というのを俺の表情で察したのか、リリウムさんが、


「もしかしたらなのですが……こちらの世界には、その肉を表す名前が定義されていないのかもしれません」


 とか言い出した。

 名前が定義されていない? どういうこっちゃ?


「『――』」

「『――』」

「『――』」

「『――』」


 と、四人の口は動けど、そこから発される言葉は一切耳に届いてこず。

 今何か言いました? と尋ねようとしたら、


「どうやら、そのようだ」

「今我々は元の世界に居るモンスターの名前をいくつか発したんだが」

「どれもこれも、聞こえておらんようじゃのう」

「つまりは、翻訳先となる言葉がこの世界には無いという事なのでしょう」


 という説明を受けた。

 なるほど? 例えばだけど熊のようなモンスターが居たとして、でもそれはこの世界に居るどの熊にも当てはまらない、そうなると、熊のようなモンスターを表現できる言葉がこの世界には無いと判断されて言葉にならない、ってこと?

 ……まぁ、肉ではあるしこうして食っちゃってるから別にいいんだけどさ。


「あ、さらについでに何ですけど、皆さん冒険者なんですよね?」

「そうですが?」

「冒険者のランクとかって、あったりするんですか?」


 気になってたんだよね、この人らのランク。

 話を聞くに結構凄い人たちみたいだし、やっぱりSランクとかAランクなのかなーと。


「俺らはEランクだぞ」

「……へ?」


 おっと? かなり予想外のランクが来たぞ?

 もしかして、この人たちそこまで強くない?


「Eランクではあるのですが、正確にはEランク『OP』となっていますわ」

「『OP』?」


 聞きなれない単語だ。まさかオープニングとかじゃあるまいしな。


「『Over Power』で『OP』。つまり、そのランクに居るのが似つかわしくない強さ、という意味だ」


 ……なるほど? ランク不相応の強さってことか。

 んでもなんでそんな事に?


「そもそも俺らの世界では、冒険者なり立てでGランク、そこからAランクまで上がり、最上位がSランクなんだが……」

「ランクが上がると様々な恩恵があるとともに、納める税金の増加や緊急依頼への強制参加など、果たさなければならない責任、義務も大きくなる」

「それを嫌ってランクを上げたがらない冒険者っちゅーのが一定数おるんじゃわい」

「私たちも、その一定数の中に入っているんですわ」


 あー……何となく察した。

 この人ら、多分だけどめんどくさいんだ。

 納税がってより、緊急依頼への参加とかが。


「それに、ランクを上げるにはギルドマスターや貴族、国王の承認が必要なのですが」

「俺ら、クエスト消化もほとんどしないし、緊急依頼にも参加しない」

「だから、国王や貴族どころかギルドマスターからの推薦なんかも貰えるわけがなくてな」

「Bランク冒険者と正面から戦って勝てる実力があるのに、未だEランクなわけじゃ」


 んでやっぱり強い、と。

 ……というか待って? EランクなのにBランクと同等以上なの?

 ランク三つほどすっ飛ばしてますけど?


「でも、上位ランクになれば、色々恩恵があるんでしょう?」

「あるにはあるのですが、その恩恵も高難易度のダンジョンの攻略許可くらいしか魅力的なものがありませんもの」

「素材は確かに欲しいが、そこまで躍起になる程では……」


 と、マジャリスさんが言いかけて。

 今まさに完成を迎えようとしているカツサンドを見て、固まる。

 ? 耳を落とした食パンにたっぷりのキャベツを敷いて、カツを乗せてとんかつソースをかけただけですよ?

 そんな固まる事です?


「そうだな、マジャリス。俺も同じことを考えていた」


 固まったマジャリスさんの肩を、ラベンドラさんがポンと叩き。


「一体、高難易度のダンジョンではどんな美味い素材が手に入るんだろうな?」


 その時、四人に電流走る……ッ!


「こうしちゃおれんわい! 今すぐ戻ってランクを上げてもらうよう掛け合うぞい!!」

「そうですわね! 善は急げですわ!!」

「世話になったなカケル。まだ肉は残っていると言っていたから、食材の補充は必要ないな?」


 慌ただしく立ち上がって帰り支度をする三人を余所に、ラベンドラさんは、


「まぁ待て」


 と、コップに残ったお茶をまだゆっくりと傾けている。


「何をしているラベンドラ! 一刻も早くランクを上げなくては!!」

「そうじゃぞい!!」

「だから待てと言っている。……持ち帰り用の料理をまだ受け取っていない」

「「あっ」」


 全員着席。正座。手は膝の上。

 う~ん……なんだかなぁ。


「はは。出来てますよ、カツサンド。食べる前に、出来れば温めた方がいいと思います」


 と、アルミホイルに包んだカツサンドを四人に手渡し。


「ありがとう。また明日も頼む」


 渡す時にガッシリとラベンドラさんに握手され、受け取ったカツサンドは虚空へ収納。

 前もガブロさんが斧振り回してた時に思ったんだけどさ、それどういう仕組み?

 四次元ポケット的な奴でいいの?


「それじゃあ、お邪魔しました」

「明日も美味い食事を期待している」

「ワシらも美味い食材を持って来るからのぅ!」

「カケルに、我らが森の神の加護のあらんことを」


 そんな俺の疑問を余所に、瞬時に展開された紫色の魔方陣の中へ。

 四人は、思い思いの言葉を残して入っていった。

 エルフに祈られちゃったよ。こりゃ、明日は宝くじでも買ってみるかね。

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