第10話 食い意地の張ったドワーフ

「というわけでお待たせしました」


 全員分揚げ終わり、皿に並べて四人の前に提供。

 すると、


「おぉ~」


 とよく分からない歓声がラベンドラさんを除いた三人から上がる。


「ラベンドラ、これはどういう料理だ?」

「肉を油の海に沈めて火を通したものだ。肉のまま直接だと油を吸う恐れがあるせいか、コーティングのようなものを施している」

「なるほど。ではこの表面は取り除いて食べるのですね?」

「いやいや、普通にそのまま食えますから。あ、これドレッシングです。キャベツにかけてください」


 初手からとんかつの食い方をミスりそうだったリリウムさんを止め、ドレッシングを置く。

 ちなみに和風ノンオイルのドレッシング。好きなんだよね、これ。


「香ばしい匂いがたまらん!! いただくぞい!!」


 我慢の限界に来たらしいガブロさんが、誰よりも先にカツを一切れ箸で掴んでガブリ。

 ザクッ! という軽快な音が聞こえ……。

 えぇと、皆さん? まるで毒見見たいにガブロさんを見つめなくても……。


「――むほーっ!! 美味い!!! こりゃ美味いぞい!!」


 そして出ました。見つめられていたガブロさんから、むほー、という言葉。

 多分だけどガブロさん、美味しいもの食べたらこの言葉発するんだろうな。

 その言葉聞いて、他の三人もカツを掴んでガブリ。


「まぁっ!?」

「ほぉっ!」

「美味いな……」


 リリウムさんは口元を手で隠して驚いてるし、マジャリスさんは美味しさに驚いたのか飛び上がったぞ。

 座った体勢のまま、数センチだけど。

 で、ラベンドラさんは冷静に味について分析してるっぽい?

 他三人と違って、驚くよりも味に対する疑問の方が大きいみたいだ。

 って、


「皆さんレモンを絞ってないんですか?」


 みんなそのまま食っちゃってたよ。

 俺はレモン絞ってさっぱり食べたい派だから食う前に絞るけども。


「レモン……? これか」

「食後のフルーツではないのですね」

「これを絞ってかけるのか?」

「カツが美味いぞい!!!」


 もう一人の世界に飛んで行ったガブロさんは無視し。

 三人は、俺を習ってレモンをカツに絞って一口。


「――っ!?」

「がらりと変わりますわね!」

「柑橘系の酸味と香りが見事だ……」


 どうやら気に入ってくれたみたいだ。

 勧めておいてなんだけど、レモン苦手な人もいるの忘れてたよ。

 飲み会とかでやるとトラブルになりかねない。反省反省。


「肉がしっとりとジューシーで、噛む度に肉汁が溢れてきますわ!」

「周囲の固い部分との歯ごたえのギャップがいい」

「塩コショウがよく効いてて、肉のうま味を引き出している……それに何より」


 エルフ三人で顔を見合わせながら感想を言い合い、少し溜めて、


「「――米に合う!!」」


 一様にご飯を掻っ込んでいく。

 見ていて気持ちのいい食いっぷりですなぁ。

 顔面偏差値高い人たちが飯食って喜んでいる姿っていいよね。

 もっとご馳走したくなるわ。


「あ、そうだ。これも試してみませんか?」


 思いついて取り出したるは冷蔵庫にあったタッパー。

 その中身は、昼に大量に用意した大根おろし。

 大根おろしの魔力ったらねぇよな。何でもさっぱりにしちまう程度の能力が備わってるもん。


「それは?」

「大根おろしです。カツに合いますよ」

「試してみるか」


 と言って最初に大根おろしに手を伸ばしたのはラベンドラさん。

 試してみるとか言って、俺がカツに合うって言った瞬間、目つきが変わったのは見逃してませんからね?

 少量大根おろしをカツに乗せ、そのままガブリ。

 エルフ二人が見守る中、ゆっくりゆっくりと咀嚼したラベンドラさんは……。


「グッ!!」


 と二人にサムズアップし、ご飯を掻っ込む。

 その動きを見て、俺も私もと大根おろしを求めた二人にも提供し。


「さっぱりするな!」

「独特の風味も素晴らしいです!!」


 と興奮気味な食レポを頂いた。

 ただ、


「だが、俺はレモンだけ絞ったカツが好きだな」


 とはマジャリスさん。

 まぁ、しょうがないよ。完全に個人の好みの話になっちゃうから。


「俺は大根おろしがあった方が好きだな」

「私もですわ」


 リリウムさんとラベンドラさんが美味しそうに食べてるからいいし。


「そう言えばスープも用意して貰えているんだった」


 ここで、誰も手をつけていなかったみそ汁にラベンドラさんの手が伸びる。

 そして、


「ズズー」


 椀に口を付けて一口飲むと……。


「……また、未知なる味だ」


 静かに、そう呟いて。

 もう一口、ゆっくりと飲む。


「鼻に抜ける風味がいい。舌の根に届くうま味も素晴らしい。……何より、どこか落ち着く味わいだ」


 そう表現したみそ汁の味……インスタントなんですよ。

 アレだな、企業努力の賜物って奴だ。うん。


「こっちの細切りの野菜もいいぞ! 口の中がさっぱりする!!」


 一方、ドレッシングのかかったキャベツを頬張ったマジャリスさんが、何故付け合わせとしてキャベツの千切りが添えられていたのかを実感したらしい。

 カツとカツの合間に食べると、口の中がリフレッシュするよね。

 そう言った意味では偉大だよな、キャベツって。


「カツも美味しく、スープも美味。付け合わせもカツをより美味しく食べるよう考えられたもの。この世界の食事は、何と素晴らしいのでしょう」


 リリウムさんなんて、手を合わせて祈り始めたし。

 まぁ、俺から一言言わせて貰えば、漬物があれば最高のとんかつ定食だったよ。

 漬物……忘れてたわ。今度買って来よう。

 ……あとガブロさん? 一人だけ食べ終わったからって、他三人のカツを物欲しそうに見ないの!


「ワシもレモンを試したかったのう……」


 なんて言っても、人の話聞かずに食べちゃってた自分のせいでしょ?

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