第9話 ブタノヨウナナニカカツ
待ち人来れり。
紫色の魔法陣が居間に出現し、そこから姿を見せる四人。
ふっふっふ。既にテーブルには四人分のコップと、並々に注がれたキンッキンに冷えた麦茶を用意してある。
ありがたく飲むがいい。
「お邪魔しますわね」
「お茶が用意されている、ありがたい」
「思えばこのお茶も随分と美味いものだったな」
「喉を潤せるのは助かるわい」
バタバタと玄関に靴やブーツを置きに行く前に、それぞれコップのお茶に口を付け。
戻ってくるころには俺がまた並々注いでるって寸法よ。
よく知らんけど、恐らくみんな異世界で命を懸けた冒険とかしてるんでしょう?
少しでもこの家で寛いでくれるなら嬉しい限りよ。
「ラベンドラさんの要望で、まだ下ごしらえしか済んでません。なので、これから本格的な調理になるんですが……」
「無理を言ってすまない。だが、やはりパーティの食事を管理するものとして、未知なる調理法は興味がある」
大体察してたけど、ラベンドラさんがパーティの食事を作っているんですね。
……褐色イケメンで料理できるとかズルかよ。その容姿、俺にもくれ。
「そこまで手間がかかる調理は俺も無理なんで、簡単なものになりますが、俺に出来る事なら協力しますよ」
「感謝する。……それで、それは肉か?」
ラべンドラさんが興味を持ったそれは、下ごしらえを済ませ、パン粉までまぶして後は揚げるだけとなったあのお肉。
まぁ、外見は良く知る肉からかけ離れているだろうなぁ。
「肉です。適当な大きさにカットして、塩コショウで下味をつけてます」
本当は肉と脂肪の間の筋も切った……ハズなんだけど、あまり手ごたえがなかったというか。
豚肉とはやっぱり違うみたいで、どうも筋は無かったらしい。
だから、その事は伝えなくてもいいかな。
なんて思ったら、
「塩……コショウ?」
変な所に反応された。
「はい。俺のやり方はちょっと濃いめに味付けして、そのまま食べるって奴なので、少し多めに塩コショウを振ってますね」
「塩コショウを……多め」
なんだろう? そんな変な事だったか?
――まさか、香辛料が希少とかいうあれか?
歴史の授業でちょろっと出てきた、金と胡椒が同じ価値で取引されてたとかなんとかってやつ?
……まっさかー。
変なこと言われる前に説明続けよ。驚くんなら勝手に驚いていてください。
「で、下味をつけた肉に、小麦粉、溶き卵、パン粉の順番でまぶしたのがこれです」
「ん? ああ。小麦粉、溶き卵、パン粉だな」
何やらブツブツ言ってたラベンドラさんだけど、俺の説明にすぐさま我に返って復唱。
忘れないようにと、噛み締める様に言ってたよ。
「後はこれを油で揚げるだけです」
「なるほど、油で――なんて?」
「揚げます」
「アゲル?」
ん? 翻訳魔法の不調か?
急にラベンドラさんがカタコト外国人みたいな喋り方になったぞ?
「見た方が早いですよ」
と言ってコンロの近くにラベンドラさんを呼び、鍋に油を入れていく。
使用するのはコレステロールが気になる人用のヘルシーなやつ。
健康に気を付けるの大事。体が資本。
そいつを豪快にフライパンに入れていく。
……最初は鍋で揚げようと思ったんだけどね?
ちょっと気合入れて肉をデカくし過ぎてね?
フライパンじゃないと入んなくなったんだなこれが。
揚げ物するのに寸胴鍋とか出したくないし。
んで、油を入れ終わり、熱していると、
「こんなに大量の油を……」
とかまたラベンドラさん呆然としてるし。
テーブルでは、既に席について料理の出来上がりを待つ三人がソワソワしてるし。
人に見られながらやるっていうのは慣れないなぁ。
「そろそろかな?」
と油の温度が良さげなので一枚目の肉を投入!
シャー! という揚げ物の音が響くと、
「おぉ!?」
とラベンドラさんから歓声が上がり。
三人から、なんだなんだと質問が飛ぶ。
「肉を油に入れただけですよ。これで、薄っすら色が付くまでこのままです」
ラベンドラさんに説明しながら、今のうちに盛り付けの準備に入ろう。
スーパーで買って来たキャベツを山盛りに皿に乗せ、冷蔵庫に転がっていた貰い物のレモンをカットしたやつも乗せる。
あ、そうだ。みそ汁とかあっていいよな、確かインスタントがまだ残ってたはず……。
うん、人数分あるな。わかめと豆腐の合わせ味噌のやつ。
これ好きなんだよね。
となるとお湯を沸かさなくちゃだからケトルを稼働。
そうこうしている内に肉がいい感じに色づいて来たので、
「もしかしたら油が跳ねるかもです」
と断わりラベンドラさんに距離を取らせ。
ゆっくり静かに、カツを裏返し。
火力を少し上げ、待機。
「ひっくり返したら、もうちょい濃い色になるまで待って、完成です」
「なるほど。確かに調理工程は簡単だが……材料が……」
再び盛り付け準備に戻った俺には、ラベンドラさんの言葉は最後まで聞き取れなかったけど。
材料は、まぁ、何とかしてください。
貰った肉にたっぷり脂身ついてたし、そこからラードを生成すればいけるでしょ。
油は。
「ご飯大盛りを希望の方~?」
一応聞いたけど、四人全員が挙手したんだよね。
知ってた。漫画盛りとは言わないまでも、山盛りにご飯をよそったらみんなニコニコしてたよ。
そしていよいよ一枚目のとんかつが揚げあがり。
こんがりきつね色のカツを油から引き揚げたら、ラベンドラさんが、
「ほぉ!」
だってさ。奇麗に上がってることに驚いてくれたんだと思う。
多分だけどね。
「あまり待たせるのもあれですし、とりあえずどんどん揚げますね?」
と、間髪入れずに二枚目の肉を油に投入し。
揚がった肉には包丁を入れる。
ザクっ! という音が気持ちいい。
肉がデカいし、まず横に一本入れて、肉を両断。
そこから、普段よく見るとんかつの切り方をしていってっと。
うん、中まで火が通ってるし、上手に揚げました~、って感じ。
もうちょっと待っててくださいね皆さん。
残りのカツも揚げちゃいますからね~。
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