第306話 八分咲き

「トロリとした黄身がまろやかさとコクを追加して!!」

「米との相性は言わずもがな、『――』の幼体との相性も最高の一言!!」

「かつてここまで完璧な相性だった素材たちがあったでしょうか!!?」

「あったな」

「あったぞい」

「言ってて思いましたけどありましたわね」


 ……コントかな?

 でもまぁ、リリウムさんの言いたいことも分かる。

 美味しいよ。滅茶苦茶。

 プリプリのコシャコナリケリ、ピリ辛のユッケダレ、そこにトロリとした卵黄でしょ?

 それはもはや足し算とかじゃないんよ。

 掛け算でもないんよ。

 階乗かもしれん。


「甘辛のユッケを食べた後の、カケルのみそ汁が美味い……」

「何度目か分かりませんけど、本当に落ち着く味ですわ」


 で、そんな衝撃の味の後はみそ汁でほわ~っと。

 その後に漬物を齧れば、またユッケ丼を食べる準備が万端ってね。


「こういうあっさりした漬け物が、今日の料理にはありがたい」

「時におかずに、時に口内のリフレッシュに。漬物の役割もまた料理に合わせて変化する」

「酒のつまみにもなるぞい」

「無いなら無いで構いませんけど、あると食事に緩急が付きますわよね」


 ちなみに今日のお漬物はシンプルなキュウリの浅漬けですわ。

 ぬか漬けとも迷ったんだけどね。

 浅漬けの方にしてみました。


「『――』の幼体はここまで美味かったか」

「タイミングが合わないと手に入りませんし、下手をすれば知っているのは私達だけということもあり得ますわ」

「つまりワシらの独占……という事か?」

「だろうな。と言っても、我々がまた狙って獲れるかと聞かれたら難しいだろうが」


 ……ほーん。

 このコシャコナリケリ、ヘタすりゃ一期一会なのか。

 勿体ないなぁ、こんなに美味しいのに。

 それこそ、これらをテイマー達で生産してくれたらいいのに。


「カケルがまた何か悪い事を企んでいる顔をしている」

「ちょ、どんな顔ですか」


 企んでないよ? しかも悪い事じゃあないよ?

 誤解を生みかねない言い方はやめなさいよ全く。


「ちなみに何を考えておりましたの?」

「いや、だったらこいつらを飼育すればいいのにと」


 こいつって言いながらユッケになったコシャコナリケリを箸で持ち上げているからね。

 で、まぁ大体それで察してくれるわけだけど……。


「溶岩のある場所で飼育を行えるテイマーがどれほどいる?」

「皆無では? そんな腕あったら普通に冒険者のままでしょう?」

「そっちの方が稼げるじゃろうしなぁ」

「いっそ俺たちが飼育とかをし始めた方が早い気がするぞ」


 いやまぁ、考えた張本人ではあるけどさ。

 無理っぽいというのは分かってたんだ。

 ただ、思いついたから口にしただけで。


「飼育……魔物の生態を詳しく知らなければ不可能だぞ?」

「でも飼育できれば安定してこの味を食べられるんだろう?」

「ワシらがやる事ではないと思うがのぅ……」

「だがガブロも自分で酒が作れるとなったら作るだろ?」

「当然じゃろ?」


 あー……ユッケうめー。

 あとユッケ食べた後の麦茶が最高に美味い。

 そこに流し込む味噌汁も沁みるし、漬物のさっぱり感が最高だね。

 

「お代わり」

「私もお代わりですわ」

「ワシもじゃ。あのダンジョンをマーキングしておくんは賛成として、いつダンジョンの形態が変わるか分からんぞ?」

「小まめに見に行くしかないが、正直あの場所以外にも探したいダンジョンはたくさんある」

「しかし……」

「カケルに決めて貰いましょう?」


 ……はい?

 なんか今急に俺にベクトル向かなかった?

 ――訂正、ベクトルだけじゃなく視線も向いてるわ。


「な、何をです?」

「この『――』の素材を今後も安定供給して欲しいか、それともまた新たな食材を望むか、という事だ」


 えーっと……つまりはこのシャコナリケリ達と、まだ見ぬ食材を天秤にかけろと?

 ふっふっふ、愚問ですねぇ!!

 古代の学者は言った、「人間は、生まれながらに知ることを欲する」と。

 結果、生きていく上で全く必要のない無駄な知識を披露するテレビ番組すらあった。

 俺のお気に入りはスキージャンプでタイヤ転がす奴と、野良猫が持って行けるお魚のサイズを調べるやつ。

 つまるところ何が言いたいかと言えば、


「そりゃあ未知の食材が心躍りますよ」


 アンコールも沸かす、ってこと。

 未だ知らずと書いて未知。

 そんな食材が今後も手に入る機会をみすみす見逃すはずも無いってこと。


「決まりだな」

「ですわね」

「名残惜しいが……」

「カケルの決定じゃぞ」


 ……でもいいんです? 俺、パーティの面子じゃないのに方針決めちゃったりして。

 ――って聞こうとしたけどさ。何と言うか、怖くて。

 ここでもう一員でしょ? とか言われてもそれはそれでだし、確かに……とか言って話し合いが再開されても辛い。

 というわけでここは見に回るが板。

 沈黙は金、と。


「ふぅ、美味かったわい」

「格別でしたわね」

「『――』を狩れて正解だった」

「明日以降も美味い飯が食えるだろうからな」


 全員がご馳走様。当然俺もね。

 ……まぁ、まだコシャコナリケリは残ってるし、俺だけなら全然食えるんだよね、ユッケ丼。

 休みの日に昼飯で食っちゃろ。贅沢ですねぇ!!


「さて、食べ終えたという事は……」

「もちろん、食後のデザートだな!!」


 はいはい、用意してますから。

 ステイ、マジャリスさんステイ。


「先ほど作っていたものでしょう? 楽しみですわね」


 ふっふっふ、確かにスイカのジェラートは作ってる所を見られましたが、スイカのシャーベットの方は見られてないんだなぁ!!

 というわけでいくぜ! 異世界エルフ達!! 胃袋の容量は十分か!?

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