第170話 精神年齢おいくつ?

「うっめぇ……」


 異世界卵で作ったシュークリーム……絶品でした。

 まずシュー生地。

 賛否別れるかもだけど、ふんわり感は少なくて、どっちかと言うとパリッとしてるタイプ。

 クッキー生地ほど固くなく、けれども歯が入るとパリパリッと音がする。

 食感だけで見るならこう……複数枚重ねた海苔みたいな食感。

 あんまり美味しそうに思えないな……。

 でも、卵の味とバターの香りなんだよね。

 ……あ、クロワッサンみたいな感じ。焼きたての。

 それらが食感と相まって口の中に広がっていくのは美味しいを通り越して清々しかった。

 大草原で両腕を目一杯広げて風を受けてる感じ。

 ……やった事無いけど。


「プリンもそうでしたけど、卵をメインに使うスイーツって美味しいのですね」

「ともかくクリームが美味い。様々なスイーツに使えそうだ」

「この世界の料理は何でも美味すぎるわい。わしなんぞこんなに甘いものを美味いと思ったのは初めてじゃぞ」

「元の世界では二言目には酒だ酒だと言っていたガブロが、大人しく食事をしているのだものな」


 ちなみにもちろんだけどシュークリームは無くなった後。

 全員異世界紅茶を飲んでゆったりとしている最中である。

 ラベンドラさんが言ったけど、クリームも美味かった。

 なんと言うか、軽いんだよな。

 ホイップクリームみたいな軽さで、上品な風味としっかりした甘み。

 同じ量のホイップを食べたら確実に胸やけするだろうけど、このカスタードクリームだとそうはならなかった。

 なんなら、クリームだけでも食える。

 ――ハッ!?

 気付いちゃった気付いちゃったワーイワイ。

 これでバニラアイスとか作ったら最高なんじゃね?

 ハイ決まり。明日はバニラアイスにする!!

 するったらする!!


「そうだカケル、相談があるんだが」

「? なんでしょう?」


 と、急にラベンドラさんが真面目な顔になってそんな事を言ってきた。

 いや、別に今までは真面目な顔じゃなかったってわけではないが。


「実は……今までカケルに渡してきた食材たちがあるだろう? あれらが中途半端に余ってしまっていてな」

「あー……」


 なるほどな?

 確かに、いつも四人前の料理を用意していて、んで、あのバカでかサイズでしょ?

 使うペースというか、分量とか計算面倒だろうな―とは思ってたんよ。

 案の定でしたか。


「それで、出来ればそう言った食材をまとめて消化しきれないかと思ってな。それこそ、今日の料理のように複数の具にしてみたり、先日の手巻き寿司のようにしたりと、複数の食材を扱う料理はまだまだあるのだろう?」


 まぁ、あるっちゃある。

 というか、困ったらカレー作ればいいんじゃない?

 あれなら大体の食べ物を美味しく食えるぞ?


「それで、こうして相談していながらわがままを言いたいのだが、まだ未知なる料理を食べてみたいというのが本音でな」


 察し。

 まぁ、でしょうね、と。

 う~む……あまり気乗りはしないんだけどなぁ。


「まぁ、そういう事なら力を貸します」

「本当か!?」

「で、どれくらい食材が残ってるんです?」


 はい失言。

 ほんと、息吐くように失言するじゃん。

 もう少し考えて発言しようね?


「ガブロ」

「よし来た」


 いやぁ……テーブルの上に懐かしの食材たちが並んでいくなぁ。

 ブタノヨウナナニカ、トリッポイオニク、エビダトオモワレルモノ、カイルイフシギキノコにシロミザカナモドキと。

 ……あれ? ギュウニクカッコカリとか、ブタニクタカメウマメとか、トリニチカシイオニクは?

 あと、カニミタイナカタマリもない。

 結構楽しみだったんだけど? 特にカニミタイナカタマリ。


「これらが余っている食材だ」


 あ、なるほど?

 つまりは余らなかった、と。

 まぁ、それならいいか。

 ニンテイタコカイナもねぇな。

 異世界だとたこ焼きとして振舞ったんだっけ?

 だからかな。


「まぁ、こいつらなら大丈夫でしょう。明日の晩御飯で全部片づけちゃいましょうか」

「恩に着る! いくらディメンションバックの容量が無限に近いと言っても、整理しなければどこに何があるか分からなくなってしまってな」

「まぁ大半は食材だったり、素材だったりするんじゃが」

「そろそろ片付けようという話になってな」

「最近高ランク用のダンジョンにも潜っていますし、少しディメンションバックの規模を狭くして、その分を戦闘用の魔力に当てようという話になりましたの」


 うん。

 ツッコまない。

 色々聞きたいけど、俺の本能が囁くのさ。

 踏み込んだらアカン、と。

 俺は本能的に長寿タイプ。


「あ、そうだ。持ち帰りの料理なんですけど」

「それなんだが、元の世界でも作ってみたい料理が――」

「焼くだけにしてあるシュー生地なんですk――」

「ありがたくいただく!! そうだな!!? ラベンドラ!!」


 手渡そうとしたシュー生地を断ろうとしたラベンドラさん。

 その間に一瞬で割込み、シュー生地を受け取って魔法陣の前でウッキウキで待機しているマジャリスさん。

 あまりにも速い移動。

 俺には見えなかったね。


「……すまない。助かる」

「いえいえ、あの卵のおかげでかなり美味しい思いをさせてもらっているので、これ位は」


 文字通り美味しい思いをしてる。


「では、明日を楽しみにしている」

「どんな料理になるのでしょうね」

「今から楽しみじゃわい」

「シュークリーム♪ シュークリーム♪」


 大丈夫か?

 一人幼児退行してないか?

 魔法陣に消えてく四人をそんな思いで見送りながら。

 

「さて、現実を見ますか」


 先ほどの失言の産物である、テーブル上に乗ったこれまでの異世界食材オールスターたち。

 一つ一つの量は少ない(当人比)から、一旦冷蔵庫にぶち込んで。

 明日は下ごしらえだけしてみんなに調理してもらう。

 たこ焼きの時がそうだったけど、料理を完成させるって工程はみんな好きっぽいんだよな。

 というわけで明日の料理は、今まで俺が苦手だからと作って来なかった天ぷら。

 それも、衣をつける所から自分でやってもらうセルフ形式にさせても

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